一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

24 小さく大きな物語43

魔竜の居る場所から逃げ出した俺達は洞窟の中を歩いていた。二時間近くも歩き続け、全員が落ち着きを取り戻した頃、外の光が見え始めた。急ぎ全員で脱出すると、そこは花の咲く広場となっていた。のんびりしていても何時あの魔竜が出て来るのかと、ここでジッとはして居られない。どの方向へ向かうのかと話し合い、俺達はその方向へと進んで行くのだった…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米)  メタリアス  (黒髪の新米)  
アウティーテ(桃色の新米)


 俺達六人は山を横へと進んでいるのだが、道のない道を進むのは中々に大変だった。
 山は中々の急斜面で、角度としては三十度ぐらいはあるだろう。
 あの落ちた場所まではそれなりになだらかだった道も、大きな石や岩が不規則に並び、中々真っ直ぐには進んで行けないのだ。
 もし足を滑らせ転がれば、岩や石で中々大変な事になるだろう。
 しかも片足ばかりに体重がかかるから、足がパンパンになってきている。
 もう地下に居た分ぐらいは歩いているのだが、まだ元居た場所には戻れておらず、新米達は随分と疲弊していた。 

「ふひぃふひぃ、レティさん、俺ちょっと疲れたんだぜぃ。また休憩しようぜぃ」

「あああああ、私の足がビッキビキにいいいいいいいいいい!」

「グヒャフグヒャフ、だ、駄目だ。俺の足に力が入らないんだ、足を上げる事が出来なくなっている?! まさかこれは何かの病気で、二度と歩けなくなるのか?!」

「そのぐらいでならねぇよ! 筋肉痛ぐらいなった事ないのかよ?!」

 そう言った所で動けないのは事実のようだ。
 この三人もそうだが、ストリアとリッドもそれなりに疲れている様だ。
 俺としてはこのぐらい何とでもないが、無駄に体力の突き抜けている俺の方が全員に合わせるべきだろう。

「俺はちょっと周りを見て来るから、皆はここで休憩しててくれ」

「一人で大丈夫なのかレティ、私も付き合ってもいいんだぞ。恋愛的な意味も込めて」

「いや、ストリアはあの三人を見て居てくれ。何か有ったらリッドだけじゃキツイだろう」

「…………そうだな、分かった。じゃあ恋愛的な方だけでもどうだろうか?」

「それはいい。リッドもそれでいいよな?

「う~ん確かに三人を護るのは辛そうだよ。じゃあ代わりに僕が行こうか?」

「リッドもそんなに体力ないだろ? 休める時に休んでろよ。これからどうなるか分からないんだし」

「そうだね、じゃあ休憩してるけど、一人なんだから無理しちゃ駄目だよ? 何かあっても助けられないんだから」

「分かってるって、何か有ったら逃げ出して此処に戻って来るよ。じゃあ行って来るぜ。一時間ぐらいで戻って来るからさ、それまでそこで待っててくれ!」

「ああ、気を付けるんだぞレティ!」

「いってらっしゃ~い!」

 俺は一人で回りの状況を確認しに動き出した。
 少し進んでみるものも、岩があるこの大地はあまり変化がなく見える。
 だが二時間程度で別の山へ行ける規模の山ではないし、この道であってるはずだ。
 上方を確認してもリーゼさんや他の奴等の影すら見当たらない。 
 まだ時間は充分にあるし、これはもう少し進んでみるべきだろう。
 しかし無駄に足場の悪いこの山でも、無尽蔵に鍛えた体力が役に立っている。
 あの新米に速度を合わせなくていいので、ポンポンと岩場を渡って今までよりかなり速く進んでいる。
 一尾殺されそうにもなったが、一応師匠にも感謝しとくべきだろう。
 もうあんまり関わり合いになりたくないけど。 
 まあそんな師匠に今後会う為にも、こんな仕事は早く終わらせなければならない。
 俺達は急ぐ旅をしているのだから。

 山を移動し続けると、少しだが景色が変わり出そうとしている。

「おっと、魔物がいるな。あんまり近づかない様にしないと…………」

 岩の数も減り始めているが、その分小さな魔物達が活動をし始めていた。
 魔物といっても大したものではなく、見た目も可愛らしい普通の動物の様な物だ。
 草も生えていないこんな場所でも、ほんの小さな虫ぐらいはいるのだろう。
 それを食べたりして暮らしているのだと思う。
 こちらには気づいてい無さそうだし、俺が無駄に近寄りさえしなければ、あの魔物達も襲っても来ないはずだ。
 ゆっくりと景色も変わり、俺達が登って来た景色、だと思われる場所が現れる。
 地面には大穴が開き、あれが俺達が落ちた穴なのかもしれない。
 だがあの場所は、いやこの場所であっても、魔竜の居る洞窟の上であるのは間違いないだろう。
 無暗に近づいてまた落ちたら、今度こそ本当に死ぬかもしれない。
 まっ、あれが俺達が落ちた穴だと信じ、皆の元に戻るとしよう。
 もう時間もなさそうだし。
 やはりこの道で合っていたと仲間達の元に駆け戻るが、そこに戻った頃には不味い状況となっていた。

「な、なんだこれ! ストリア、リッド、返事をしろ!」

 残されていた仲間は全員打ち倒され、気を失っていたのだ。
 ここは火山、まさかガスか何かじゃ?!
 そう思った俺は、口を布で塞ぎ、仲間の状態を確認する。
 死、それが頭を過り確認するも、胸が微妙に上下して動いている。
 まだ死んではいないらしい。
 だが、どうもこれはガスによるものではないらしい。
 真っ先に駆け寄ったストリアには、体には何者かに付けられた傷がつけられている。
 これは倒れて岩に打ち付けられた傷じゃないだろう。
 リッドの方も息はあるらしい。

「やった奴はどこだ?!」

 そう叫ぶが魔物の姿は見当たらない。
 あの魔竜ならばこの程度で済むはずはないし、大きな岩があるとはいえ、デカい魔物が居たら直ぐ分かるほどに見渡しが良い。

「上か?!」

 見上げた空には雲すらない青空が広がるばかりで、魔物の姿は見当たらない。
 上にも周りにも居ないとなると、後は…………

「下か?!」

 倒れたストリアの体を持ち上げてみると、背中の辺りに拳大の丸い何かが張り付いている。
 その丸い何かが脈打つように蠢くと、ほんの少しそれが成長する。
 これはどう考えても血を吸っているとしか思えない。
 ヒルか、ダニか、そういう類のものなのかもしれない。
 剥がさないと絶対不味と剣を振り下ろすが、俺はそれを振り下ろす前に冷静に考え直した。
 このままストリアに張り付いたものを倒せば、魔物だけは倒せるだろう。
 しかし血は戻らず、最悪開けられた傷により死ぬかもしれない。
 助ける為には治療が出来るリッドを先に助けなければ。
 俺はストリアをゆっくりと降ろそうとするが、背中にある丸い物体が俺の顔面へと跳びかかる。

「ぐおおおおおおおお!」

 本当にギリギリだった。
 頭を逸らし何とか躱すが、鼻の頭に直撃し、額を掠って後方に跳んで行く。
 丸い物体は後方にある岩にぶつかり、その岩の方が砕けたのだ。
 これは威力としてもバカ高い。
 当たれば皆の様に気絶してもおかしくない威力だろう。
 俺の鼻からも血が流れている。
 また跳んで来るのかと警戒したが、岩にぶつかった奴はそのまま動かなくなっていた。
 死んだという訳でもなく、こちらに来ないだけだろう。
 結構遠くに離れたからか、動きを見せないのは探知する能力がないのかもしれない。
 あれには目も鼻もないからな。
 
 来ないならいいと、ストリアの背を見る。
 背中には小さな穴が開けられ、ドクドクと血が流れているのだ。
 放って置いたら死んでもおかしくはない。
 急がなければ!

 俺は直ぐにリッドが居る場所へ走る。
 たぶんその背にも血を吸う何かが居るのかも知れないが、それでも起きて貰わないとこの状況は改善しないのだ。

「リッド、起きろリッド! お前が起きなきゃ全員死ぬぞ! おい、しっかりしろ!」

 リッドにとっても辛いだろうが、その頬を強く叩いて覚醒を促した。
 何度も叩く内に、リッドの瞼が開かれる。
 状況も何も分からず意識も混濁しているが、まだ希望があった。
 まだ何も理解していないリッドの耳元で、俺は大きく叫ぶのだった。

「いいか、聞こえなくても聞け! 兎に角自分に回復魔法をかけて回復しろ! 急がないとお前も死ぬぞ! いいか、自分に回復魔法だ!」

 リッドは小さく口を動かし、魔法の言葉を唱えだした。
 殆ど何も聞こえない程の声だったが、無事に魔法は発動したらしい。
 その体が淡く輝き、体の傷が治り始めたのだ。
 しかしそれだけでは足りないと、リッドの傷が完全に治りきる前に、その体を裏返す。

「やっぱり居たのか! おらあああああああああああ!」

 丸い物体は、わざわざ剣先に跳び出し、上空で二つに分割されたのだった。

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