一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

22 おい、本当に希望があるんだろうな?

元の大きさより巨大化してしまったが、俺の調子は上がっていた。速度や力も大きくなった分強くなり、切れ味もも上がっている様な気がした。堅い樹木の魔物を容易く斬り裂いて、その心臓部を探していた。大きく広大な魔物の中央部、輝く光玉を発見すると、それに全力で斬撃を仕掛けた。かなり頑丈で一撃では無理と、全速の連撃を見舞う。何とか破壊は成功するが、油断した俺は何者かの襲撃を受けた。怪我をした俺はメイに治療を受けて、残りの四人がその魔物と戦う事に。中々強く攻撃を仕掛けるタイミングを失うも、俺の機転で樹木の魔物は倒された…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)


「ああ隊長、もしかしてこれですか? 何か赤い物が見えてますよ?」

「なに、マジか?!」

「ふぁいやふぁいや?」

「ランツ、お前も何か見つけたのか?!」

「ふぁいや!」

 あの魔物を倒して、もう床にある地面ぐらいしかなってしまったこの階層で、目的だった罠は色々と見つかっている。
 今探し出した物を入れて軽く十二個で、赤と青で丁度六個ずつだ。
 もうそろそろ踏んでみてもいい頃だろう。
 俺は仲間達と距離をとり、一つずつ踏み込んでみる決意をする。
 だがしかし、まずこの十二の罠のどれを踏めば良いのかが謎なのだ。
 赤と青の二つのスイッチ、どちらも罠であるのは間違いないが、何が起こるか分からない。
 青で巨大化したり縮んだりしていたから、まず赤いのから踏んでみるとしよう。
 俺は一つ目の赤い罠を構えながら踏み込んだ。
 何時もと同じく警報が鳴り、無駄におかしな現象が起きたらしい。

「どわああああああああ!」

 何か気配を感じ上を見ると、頭の上から真っ黒な水が降って来る。
 そもそも黒い俺にとって、黒をかぶった所で特に変わらないが、嫌なものは嫌なのだ。
 直ぐに避けようとするも、吸い込まれる様に俺に直撃するのだった。
 バシャーンとそれを被るも、痛みさえも何もない。

「ブファー、何やってるんですか隊長! 黒が黒くなってどうすんですか。俺を笑わせないでくださいよ! ウ八ッ!」

「うるせぇよ、俺だって被りたくて被った訳じゃねぇ! お前はちょっと黙ってやがれ!」

 黒いから燃えるような物かと思えば、それもどうやらないらしい。
 俺の被ったこれは、たぶんこれはインクか何かだろう。
 全くの嫌がらせでしかねぇぞこれは。

「うむ、まあどんな効果があろうと、それを終わらせなければ先へは進めんのだ。早く終わらせるのだな」

「言われなくても分かってるって。まあちょっと待っててくれよ、それなりに勇気がいるんだからよ」

 しかし赤を踏んだらこうなると、青が俺の希望なのだろう。
 はぁと一息つき、俺は次の青色の罠に向かい、それを躊躇わず踏み込んでみた。
 発動の音が鳴るのは毎回の事だが、それからまた知らない効果が現れる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 俺の頭がボンと弾けて、そこから大量の毛髪が伸び始めた。
 別に痛くもなんともないが、ド派手に虹色のように輝いている。

「ふふ、ふあああああああああははははは、ああ腹痛い……隊長、俺達を笑い殺す気ですか……?!」

「…………ウプッ!」

「な、中々面白い頭じゃないか。うむ、似合っているんじゃあないのか…………?」

「ふふふふふ、ふぁふぁい、ふふふふふ…………」

「だ、大丈夫ですべノムさん、戻らなければ最悪染めればいいだけです」

「この罠は一体なんだ?! 俺をおちょくってんのかコラァ!」

 本当に、一体何がしたい罠なのかも分からない。
 暫く髪が伸び続けるが、時間が経つとそれも成長を止める。
 髪がなくなってはいないかと確かめ、無駄に長くなった髪の毛を切りそろえた。
 肩で切りそろえられた髪型は、俺に全然似合っていない。
 何かに八つ当たりしたい気分だが、まだまだ罠は残っているのだ。
 俺が踏み込まなければ終われない。
 だがこんな罠を踏み続けて、俺は本当に元に戻れるのかと疑問がわくが、やるしかないのも確かなのだ。

 笑い転げる仲間達を置き去り、俺は次の罠へと向かうも、奴等は俺を追い掛けて来やがる。

「…………フフフフ」

「ふぁ、ふぁい、ふぁいややや」

「べノムよ、まあ頑張れ!」

「いや駄目ですよ皆さん、流石に笑うのは……ふふふ」

「待ってください隊長! 俺達を置いて行かないでください。もっと俺達を楽しませてください!」

 まあ何かあったためには来てくれた方が良いのだが、絶対笑いに来てるに違いない。
 あとで全員殴ってやりたい!

 罠の場所にやって来た俺だが、選んだ物は青い罠だ。
 だが結局何方を踏んでも変わらないような気がしてきた。
 色に意味なんてないんじゃないのか?

 三つ目、その青を踏み込むと、聞きなれた音を聞き流す。
 もう何が来ても驚かないと、周りや天井を見ながら警戒を強めるも、今度は下から水が噴き出した。

「どわああああああああああああ!」

 透明な水は被ったインクを洗い流し、カラフルに染まった俺の髪が汚れて輝きを失っている。
 そんな俺を見て、当然の様に笑い転げているのは、一人だけ追い着いて来たバールの奴だけだ。

「ふはああああああああ、戻った、戻ったよ。偶然ってすごいですね?! ねっ、隊長!」

「うるせぇよ! もう敵なんて出ねぇから、お前はそこで待ってろよ!」

「いえ、隊長を見守るのは部下の俺の仕事です。さあ、次へどうぞ!」

「いらねぇよ!」

 もっともらしい事を言いながら、その顔はニヤケて居やがる!
 なんとかこの馬鹿だけでも振り切ってやりたいが、足を長く伸ばしたこいつは、無駄な性能を見せて追い掛けて来やがる。
 撒くのはちょっと無理だろう。

「笑ってられるのも今の内だ。笑いたきゃ笑え、特等席で見せてやるよ! だからお前も一緒にくらっとけや!」

 俺はこの馬鹿の体を掴み上げ、同じような不幸を与えてやろうと運んで行く。

「ちょ、待って、放してください隊長! 俺に何かあったら全世界の女の子が!」

「ぜってぇ嫌だね!」

「嫌ああああああああああ!」
 
 俺はバールを掴みながら、次々と罠を踏み続けた。
 頭の上からドデカいトマトが落ちたり、無駄に臭い靴下を顔に投げつけられたりと散々だったが、残りは最後の一つ。
 最後ぐらいは許してやろうと、全く落ちないインクで顔に落書きされたバールを、俺は空中から投げ捨てた。

「ぶぎゃあ!」

 アイツは頑丈な奴だ、この高さなら怪我もしないだろう。
 さて、あの馬鹿野郎は放っておいて、最後の罠を踏み込むとしようか。
 最後に残ったのは赤い罠で、正直いって期待は薄い。
 どうせなら良い事がありますように、そう思って俺は罠を踏み込んだ。
 分かり切った音が流れて、俺の体に変化が起こる。
 辺りの景色が大きくなって、俺の体が縮んでいた。

「来たぜ! 来たあああああああああああ!」

 これで戻れるかもしれないと、期待し待ち続けていたが…………

「……っておい、縮み過ぎだ! おいコラ止まれや! おいいいいいいいいいいいい!」

 どうも戻ったのは、小さな俺の方だったらしい。
 それでも一応希望はあった。
 俺の体の大きさは、元の体の半分ほどには戻っていたのだ。
 あと二回か三回繰り返せば戻れるのだろうか。

 …………それまで後どのぐらい掛かるんだ?

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