一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

21 森林の主。

森が半分消失した今バールに色々言われていた。少し疲れたからちょっと休んで再び探索をし始める俺達。焼けた大地を探すと、目的だった罠の一つを発見する。それを踏みこむのをのか悩んでいると、大規模な魔物が出現したのだ。俺は罠を踏む事を決意し、それを踏み込むと警戒音が流れる。俺の体は元の大きさとなり、さらに成長して巨人となる。これじゃあ踏んだ意味がないと思いながらも、その力は今までよりも上がっている。速さと力が増した俺は、魔物の体を刻むのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)


 凄く調子がいい。
 天井近くの葉が弾の様に撃ちだされるも、見て躱すレベルで軽く逃げられる。
 太い枝も堅く終わりさえ見えない幹も、ただの一振りで軽く抉り斬れていた。
 動きもよく調子がいいから、自分の気分も乗って来ている。
 これはまるで、この体を初めて使った気分に似ていた。

「おッらああああああ!」

 千を超える連斬で、広大な魔物の枝葉が落ち、その一部が禿げあがる。
 大きな体の一部が斬れ飛び、天井へぶつかり床に転がる。
 それでも最初に斬った一帯が、もう再生を始めていた。
 速度としてはこちらの方が圧倒的に速く、時間さえかければ細切れにするのも出来なくはない。
 体力が増えたのも感じてはいるが、キロ単位で横に伸びる体を刻むのは俺一人では無理そうだ。
 例え俺一人では無理であっても、この場には仲間が五人も居やがる。
 敵である木々の魔物の攻撃を乗り越え、剣の距離へと近寄っていた。
 もう攻撃に入る距離、ダルタリオンが仲間に命じる。

「エルとランツは敵の葉を燃やせ。少しでもべノムを援護するのだ! バールとメイは防御態勢を維持、ワシはこの体勢のまま攻撃を続ける!」

「あ、はい。じゃあ俺適当に防御しとくんで、なんか頑張ってください」

「皆さん攻撃は頼みますね。隙があれば僕も反撃をします!」

「ふぁいいいいいいいいいッや!」

「…………うん!」

 二人の力で多くの葉が焼かれ始める。
 炎で焼けるのはその葉でしかないが、それでも相手の攻撃手段がたった一つ消え去った。
 敵の攻撃が少なくなれば、自ずと俺の攻撃速度も上がるのだ。
 軽く根本近くまで両断すると、斬り飛ばし蹴り飛ばす。
 あとはもうパターンだろう。
 攻撃の方向もタイミングも理解してしまえば、もう解体ショーでもしている気分でしかない。
 何処かに心臓部でもあるのかと探し始め、その中心付近。 
 人一人入れる程度の空間に、綺麗にカットされたダイヤモンド以上に輝く、大きな球体が浮かんでいる。
 その球体から光が地面に落ち、木々へと吸収されている気がした。

「どうせこれが弱点なんだろう。これで成仏しやがれや!」

 鋭く激しく振り下ろし、黒の刃が球体にぶつかる。
 だが自慢の刃は、球体を破壊するには至らなかったらしい。
 かなりの会心一撃だと思ったのだが、イイイイイイイイインと妙な振動を起こす、ただそれだけだ。
 一撃では無理と、続けて二撃目を放とうとするも、突如周りの雰囲気が一変する。
 大きく広大に広がり続けていた森が、突如として消え果たのだ。

「終わったのか?」

 勝った気がまるでしない。
 まさかもう一度斬ったら出て来ないだろうな?
 だからといって、このまま残してしまえば再び森が現れても不思議じゃない。
 これ以上進むのならば、破壊は必須だ。
 森が無くなりもうじきに仲間を来るだろう。
 その前に…………
 輝ける球体へと、鳴りやまない斬撃の攻撃を始める。
 上下左右、手前奥、縦横無尽に斬り刻む。

「ッらああああああああああああああ!」

 万を超える斬の数を球体の全ての箇所に叩きこみ、最後の一撃を食らわせる。

「おっと…………」

 ちょっとばかり勢いがつきすぎ、足が絡まりそうになるが、全速力の攻撃は通じたらしい。
 バリンと球体は砕け散り、空に散り上げ舞輝いた。

「べノムよ、終わったのだな」

「ああ、これで次の階層に進めそうだ」

 仲間達も駆けつけてこれで終わり、また面倒な罠探しに明け暮れなきゃならない。
 はっと息を吐き出し、その一瞬が死を招く。

「た、隊長、後ろ!」

 何者かの攻撃に、俺を護るように飛び出すバール。
 大半を盾で弾き飛ばすも、残りの何かが俺の腕や体に突き刺さった。

「あがッ…………」

 後には地に落ちた輝く残骸から、赤いモヤの様な物が見えていた。
 中央部には絡みつく樹木の塊が出現し、絡みついた木の枝が俺の体に伸びていたらしい。
 途中には緑色の葉までついていやがる。

「ぐぬっ、直ぐに助けてやるぞ! ぬうううううん!」

 ダルタリオンの手によりその枝が両断され、俺の両腕から引き抜かれる。
 もう立っていられないほどの痛みが襲う。
 キメラ化したこの体で死ぬほどではないが、腕には力が入らなかった。

「僕がべノムさんを避難させます! 治療をしますので、皆さんにあれは任せます!」

「うむ、そちらは任せるぞ!」

「隊長は軟いんですから下がってください。ほら、早く行って行って」

「うおおおおおおおおおお、ふぁいやああああああああああああ!」

「…………ッ!」

 肩を貸され、後方に下がらざるを得なかった俺を、メイが治療をし始める。
 傷は思ったより悪く、メイの治療でもそこそこ時間がかかるという。
 俺が動けなくなっても心配はしていねぇ。 
 馬鹿ではあるが、頼もしくもある仲間の雄姿でも見せてもらうとしよう。

 俺が見る、と四人は魔物の周りを囲んでいる。
 空中に浮き上がっている樹木の魔物は、少し大きなボール程度の大きさしかない。  
 だというのに伸ばされた触手の様な枝は、その体を大きく上回る。
 幾つもの枝が槍のように伸ばされ、仲間達へと襲い掛かっていた。

「うおおおおおおおおお、ぬううううううんんんん!」

 ダルタリオンは幅広の剣で攻撃を防ぎ、逸らし、更には襲い掛かる樹木を断裂している。
 本体にまで剣を伸ばすが、真っ二つにしても動きをとめない。
 切れた部分を再生して、また再び樹木が伸びる。
 これでは剣で勝つのは難しそうだ。

「微妙に痛いけど、俺にはこのぐらいなんともないですよッ!」

 後に仲間が居ないからと、バールは攻撃を防ぐまでなく顔以外は受け止めていた。
 ダメージは殆どない為、両腕を槍と化して本体へと突きを放ち続けている。
 ただし、バールの攻撃は殆ど効いてはいないだろう。
 余程穴だらけにしなけりゃ無駄な攻撃かもしれない。

「ふぁふぁふぁい、ふぁいやあああああああああああああああああ!」

 ランツは体術と炎で本体にまで炎を飛ばしている。
 一度は焦げ付くも、焦げ付いた部分がランツに伸ばされ新品同然となってしまう。
 ただ一瞬だけだが、その動きを止めた瞬間がある。
 ダルダリオンが本体を斬り裂いた、たった一瞬だ。
 丁度炎が重なり、内部から焼かれたのが良かったのかもしれない。
 だがそのタイミングも見失っている。
 ダルタリオンに向けられる攻撃が激しさを増しているのだ。

「…………ッハアッ!」

 炎の大剣で本体に向かうも、軽くはやらせてもらえない。
 ダルタリオンと同じく警戒されているらしく、近寄る事ができないでいた。
 無理には近づかず、上空に飛び上がったエルは伸ばされた樹木の間を抜けて炎の翼でそれを焼き上げている。
 大剣を投げつけ本体を狙うも、弾き飛ばされ転がされてしまう。
 そして消滅した剣は再びエルの手の中に。
 今一番警戒されていないのは、バールの馬鹿野郎だろう。
 あいつを何とか使えれば…………

 俺はまだ治療中で動けないが、声ならば出せる。
 エルに向かって大きく叫んだ。

「エル! その剣をバールに投げつけろ! あいつなら多少焼けても使えるはずだ!」

「えっ?! 何言ってるんですか隊長!」

 エルは敵の攻撃を躱しながら頷き、手に持つ剣をバールに投げつけた。

「ちょっ、アツ!」

 炎の剣を持ったバールに、樹木の魔物が警戒を強めた。
 炎を扱う者が三人。
 たかだかそれだけの事だが、バールに向かう分の攻撃で、他の三人の攻撃が少しだけ緩む。
 一度も攻撃が出来なかったものが、数分に一度の攻撃が出来るほどに。

「うおおおおおおおおおおお、ここだああああああああああ!」

「ふぁいいいいいいいいいいおおおおおおおお!」

 ダルタリオンが本体を両断し、エルとランツがその一瞬を狙う。
 ランツの炎が魔物の内部をを燃やし、その動きをほんの一瞬の止めたのだ。
 エルはすぐさま本体を狙って空中から下降しだす。
 握る様な拳の中に、燃え盛る剣が出現する。
 樹木の魔物は動き出すが、もう意味をなさなかった。

「…………いやああああああああああああああッ!」

 炎の剣は、向かう攻撃ごと本体にぶつけられて、その体を斬り伏せたのだ。
 それでも再生を始めようとする樹木の魔物だが、残りの三人はそれを許しはしない。

「これで死んでおれえええええええええええ!」 

「ふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁい!」

「よいさああああああ!」

「…………ハッ!」

 魔物の最後は内部から燃えつくし、塵も残さず消え失せていた。

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