一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 二百五十八階層の森の中。

二百五十七階層の扉の部屋に戻ると、俺はマルクスと合流を果たした。しかしかなり疲弊していて、嫌がらせに雇ったんじゃないかと言い出す始末。かなり疲れているも、それでも金の為に頑張るマルクスが、赤い扉まで進んで行く。赤い扉を開け、先を見るも仲間の姿はない。木の上に有る梯子で上階に向かい、仲間を追った。上の階層は一階層丸ごと森となっているらしい。マルクスと仲間を追うも、下の階層にもいた虫の魔物が襲い掛かる。マルクスはそれを剣で叩き斬り、先へと進んで行くのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)
マルクス   (ラグナードの兵士)


「おい、右から来るぞ!」

「クッ、またかッ!」

 マルクスが刀を振り、虫の魔物を倒したのは、これで三十回目を超えただろうか。
 下の階層で見た巨人が出て来ないのは幸いだが、弱い分幾らでも湧き出て来るというのがこの階の特徴なのかもしれない。
 上の枝葉や周りの木の幹、下にある小さい木の中、土の中までも色々と出て来るから、気を張り続けている状況だ。
 下の階層でガシガシ削られた精神力と、腕の疲れが利いてきている。
 たかだか三十回の刀の振りでさえ、腕の痛みへと変わっているらしい。
 握力もなくなり、持っていた剣がすっぽ抜けそうになっていた。
 もう利き手では無理だと左手に持ち変えるも、鋭さや正確さは、かなり落ちている。
 そんな状況で印をなぞり仲間を追うも、向うは五人で此方は一人に近い。
 移動速度がおのずと違うのかも知れない。
 それでも二百五十五階から立て続けに進んでいるんだ、向うも疲れが来ているはずだろう。
 もうそろそろ休憩を入れてもおかしくはない。
 その間に距離を詰めて行けばあるいは?
 まあそれでも金の為に休みなく進み続けるマルクスだったが、どうやら此処で大物が出たらしい。
 襲い掛かって来ていた小さな雑魚共がザっと引き、風もないのに森が大きくざわめき始めた。

「こりゃあ何か来そうだぜ。疲れているだろうが、やってもらうぜ」

「どうせやらなきゃ死ぬんだろう! やるだけやってやる!」

 マルクスは刀を納め、ブロードソードと呼ばれる剣を腰から引き抜いた。
 刀の方が切れ味は良さそうなはずだが、何か狙いでもあるのだろう。
 油断はせず敵が現れるのを待っていると、森のざわめきが急激に収まり始める。
 どうせ油断を誘う罠だろうと、気を張り続けた俺達に、地の底から何者かが飛び出した。
 真っ直ぐと伸ばされた白い何かが、マルクスの心臓を狙っている。

「下だ!」

「分かっている!」

 下から飛び出す何かを躱し、マルクスの剣は、その物体を薙ぎ斬った。
 左腕であっても、当たりさえすれば中々のものだ。
 ゴトリと落ちたそれを見ると、鋭く尖った木の根っこが落ちている。
 切られた断面も木そのもので、まだうねりながら此方を狙っていた。
 これはどう考えても本体じゃない。
 本体はこの木の中、探した所で簡単には見つからない…………

「どうせこの森全体だとかいう馬鹿らしい落ちかもな」

「つまらない落ちだな、もう少し捻った方がいいなッ!」

 三本四本と増え続ける木の根を叩き斬るが、魔物の根はまた再生を始めていた。
 俺も植物タイプとは戦った事があるが、無駄に高い再生能力には苦労した覚えがある。
 倒すにはそれを上回る攻撃を与えるか、相手の弱点や特別な器官を破壊しなければならないが、このマルクスにそれ程の攻撃力を期待するのは無理らしい。
 再生する根っこなんぞ斬り続けても、相手にはダメージなんぞないだろう。

「おい、何か奥の手はねぇのか?!」

「確かに、このままじゃジリ貧だな。手は有るには有るが、どう考えても大惨事だ。それに俺の剣も消えてなくなる。約束通り弁償してもらうぞ?」

「このままじゃ如何にも何ねぇ。弁償してやるからから、サッサとやれや!」

「もしお前達の仲間に何か有ったとしても、俺を怨むなよ? 俺の命も掛かってるんだからな!」

 マルクスは集中しながら剣を振り、そして呪文を唱え始める。
 それを使えば大惨事と言っていた。
 何をするのかは知らないが、勝ち目があるのならやるしかない。

「行くぞ! 神炎よ、我がつるぎに具現せよ! 出でよ、鳳凰のつるぎ!」

 手に持つ剣に炎が宿り、斬り付けた根が燃え上がる。
 そのまま燃えて炭(すみ)となるが、それだけでは済まなかったらしい。
 魔法の炎は地面の中を伝わり、本体である魔物の本体を焼いて行く。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」

 大きく叫び、木に化けていた五体が大きく燃えて行く。
 密集する木々にも燃え移り始めた。
 水を含んだ木々からは黒い煙が立ち昇り、部屋の中を黒く染め上げていく。
 そしてまた燃えた炎は別の木にと、永遠と繰り返し始める。

「おい、大惨事じゃねぇか!」

「だからそう言っただろう! ここに居たら巻き込まれる、一度下層に逃げるぞ!」

「あいつらは…………まあたぶん何とかするだろう。よし、逃げるか!」

 燃え移る炎から逃げ出す俺達だが、周りの熱量が倍々で上がっているのを感じた。
 その熱量が上がっているから、燃え移る速さまでも上がっている。
 ちょっとこれはギリギリ、ギリギリで間に合いそうもない!

「うおおおおおおおおおおおお!」

「クソッ、俺が思ったより早い!」

 出口の手前、残りはあと百メートルぐらいだが、もうケツには炎の先が当たっていた。
 とてつもない熱は、俺の体を焼き始めた。
 まだ火傷程度だが、後二秒もすれば俺の体も焼き鳥にされてしまう。
 これで死んだら、絶対隣の奴を怨んでやると横を見るが、そこに奴はもう居ない。
 全力で走り続ける奴は、俺を置き去り階段に滑り込んだ。

「テメェ、この野郎、俺も連れて行けやあああああああああああ!」

 それを言った瞬間、俺は炎にまかれ焼き鳥にされてしまったらしい。
 例えキメラ化していたとしても、俺では生き残れなかった、だろう。
 一瞬で終わるはずの俺だったが、その炎に包まれても、焼き殺されはしなかった。
 熱さえも感じず、森を焼いた炎が、俺を中心に真っ二つに分割される。
 どう考えてもこんな事が出来るのは、エルとランツぐらいしか居ない。
 流石に煙と炎で気が付いたらしい。
 とてつもない熱量であった森の火事が、瞬く間に鎮静化されていく。
 炎が収まった後方を見ると、何時も見た顔の奴等が佇んでいた。

「おう、助かったぞ!」

 俺が声を掛けるも、仲間達は俺を蔑んだ目で見て居る。

「何するんですか隊長、まさか迷ったから森を焼いちゃったんですか? 流石にそれはないでしょう、エルとランツが居たからいいものを、俺達まで巻き込まれたらどうしてたんですか」

「べノムさん、俺達が居たのは知ってたのに、これはちょっと酷いですよ」

「いや、あのな、これは俺がやった訳じゃなくてな」

「言い訳はいいから反省するのだな!」

「ふぁいやふぁいや!」

「…………めっ!」

「ああ悪かったよ! 俺が悪かった! だがちょっと待ってろ、俺も文句言いたい奴が居るからな! あとでもう一回謝ってやるから、ちょっと待っとけ!」

 俺は下層を覗いてみるも、俺が死んだと思ったからか、一つのメモを残して、あの男の姿は居なくなっていた。
 生きて居たらギルドに報酬を持ってこいと書いてある。
 誰が支払うかとムカつくこの怒りを押さえながら、俺はまた仲間の元へ戻ったのだった。

「一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く