一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 無駄に剣を持つ用心棒。

ギルドに依頼を出したが、どうやら知り合いの奴がその依頼を受けたらしい。知り合いと言っても敵対した奴等で、信用があるとかないとか、それ以前の奴等だ。変身魔法を使って話を進めるが、どうも俺の正体を見破ったらしい。罠じゃないかと怪しむから、ちょっと今の状態を教えてやり、それで納得したらしい。俺はマルクスから情報を貰い、二百階層にあったという巨大化の罠に向かうも、何も反応はなく、殆ど無駄足だったとマルクスの元へ戻って行った…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)
マルクス   (ラグナードの兵士)


 俺が扉の階層に戻った時、マルクスは随分と疲れ果てていた。
 剣を振る動きでもないし、普段使わない筋肉を使ったんだろう。
 数百と開ければそうなってもおかしくはない。
 バール達もそうなったからな。

「おい、大丈夫かよ。まだ半分もいっていないぞ。これじゃあ今日中に終わんねぇんじゃねぇか?」

「…………お前、まさか嫌がらせに俺を雇ったんじゃないだろうな?」

「ちげぇよ、何でも俺のせいにするんじゃねぇよ。この依頼はお前が受けたんだろうが。もう罠もないって分かっただろう、仲間を呼んで手伝ってくれてもいいんだぜ?」

「いや大丈夫だ、一人でいい。左腕を使えばまだ開けられるからな」

「そうかい、じゃあ任せたぜ」

 それから二時間、プルプル震えながら開けて行くマルクスは、最後の赤い扉にまで到着した。
 中の魔物は退治してある。
 マルクスに最後の扉を開けてもらうと、もうその広場には仲間達の姿は無くなっていた。
 あれから結構経っているから、進んでいてもおかしくはない。
 階段の出現はないが、一本立つ木の上部には穴が開き、縄梯子が伸びている。
 あそこから上層へ向かったのだろう。
 俺はそこから上階へ向かおうと飛ぶのだが、マルクスの奴の声に止められてしまう。

「おい待て、そこに行く前に報酬を寄越せ!」

「この大きさで持ってる訳がないだろう。仲間にから貰って来るから、ちょっとそこで待ってろよ」

「駄目だな、こんな塔の中じゃお前が戻らない可能性もある。俺も連れて行ってもらうぞ。当然延長代金も貰う!」

 延長代金とは、がめつい奴だ。
 俺が払うんじゃないから別に構わんけどな。

「付いて来たいのなら構わないけどな、この上がどうなってるのか分からねぇ。何があっても責任は持たねぇぜ?」

「ではその分も代金を上乗せしてもらおう。全部で金五十枚だ」

「はぁ、五十ぃぃ? 普通に高ぇよ、何で依頼の倍額ださにゃならんのだ。延長込みで三十枚にしとけや! それで嫌ならそこで待ってろよ。俺に無理について来る必要はねぇんだからよ」

「だったら三十五枚だ。あんたの今の状態じゃ、何かあっても対処できないだろう。俺の手があった方がいいんじゃないのか?」

「ああん、三十五だと?」

 直ぐに合流できるとは限らないから、確かに手はあった方がいいかもしれない。
 バールの懐が寂しくなるのは別に構わねぇが、もし足りなかったら他の奴等に借りなければならない。
 そうなりゃ結局俺の借金になりそうだ。

「ああ、じゃあそれでいいぜ。その代わり、それ以上はびた一文出さねぇからな」

「了解だ。それで契約成立だな」

 納得させたところで、俺達は木を登り始める。
 マルクスが多少登るのに苦労したが、俺達はこの上層である二百五十八階層に到着した。
 やはりというか、一階層上がると大きく変わっている。
 此処が塔の中だというのに、この階層は暗い森の中に居る様だ。
 天井にまでは約五メートル。
 全ての木の先端がピッタリとくっ付き、横に枝が広がっている。
 これでは飛んで仲間を探すのは不可能に近い。
 濃い緑色の葉を千切ると、水気のある緑が手につく。
 作り物なのかと思うほどの統一性だが、この木は普通に生きているらしい。
 さっきも言ったが、此処は塔の中で、土があるとはいえ、水なんざ振っても来ない。
 誰かが与えない限りは、木々に限らず、草も枯れはてるだろう。
 今までもそうだが、所々人の手が入っているかと思うのは気のせいじゃない気がする。
 もしそいつを見つけたら、こんな馬鹿な塔を建てるなとぶん殴ってやりたい。
 まあそれをする前に仲間と合流しなければ。

 マルクスが居るから、どの道徒歩移動になるのだが、下にも一メートルにも満たない小さな木が生えていて、人が歩くのは大分困難らしい。
 それに、この森には色々と何かの動く気配を感じる。
 下層にいた虫共や、獣のような敵が居るのは確実だろうか?
 いきなり襲い掛かって来ないのだけはマシだが、遭遇したら戦いになりそうだ。
 まだ周りを確認している俺を、マルクスが急がせた。

「で、どちらに向かう? まさか手掛かりもなく探すとは言わないよな?」

「あいつ等もそんなに馬鹿じゃねぇよ、入り口近くに何かしらの印でも…………お、あったぜ」

 入り口の木には焦げ付いた矢印が付けられている。
 たぶんエルかランツがやったんだろう。
 木々を踏み荒らし形跡もあるし、間違いはないはずだ。
 この場所から進む前に、まだ近くに居るかもしれない。
 ちょっと叫んでみるか。

「おいテメェ等! 近くに居るなら返事しやがれ!」

 暫く反応を待ってみるが、仲間達の声は聞こえない。
 この入り口からは、もうかなり遠くに行ってしまったらしい。

「こりゃあ追い掛けるしかなさそうだ。マルクス、お前にも充分働いてもらわにゃならんかもな」

「クッ、金貨三十五枚程度じゃ安すぎたかもしれんな。敵との戦闘で勝利したら、その分追加を貰うぞ。それに、俺の剣を失うようなことになったら、全額弁償してもらう」

「この野郎、ここぞとばかりに金額を吊り上げようとしやがるな。 …………だがこの状況じゃあな。三十五枚までだと言ったが、まあ良いだろう。この塔は既に三階層解放しているからな、俺の権限で多少は渡してやってもいいぜ」

「ほう、さっきまで渋っていたのに、やけに気前がいいんだな。だがお前一人じゃこの森で仲間と合流するのは難しいぞ。ここは金貨五百枚ほど、ドーンと俺に渡しとけ」

 調子に乗んなよテメェ! と、言いたいところだが、無駄に争って手を貸してくれなくても困る。
 今は穏便に行ってやろうじゃねぇか!

「ああ、考えといてやるぜ! だがそれなりの活躍が無けりゃそれも無しだ! キッチリ三十五枚で我慢してもらうからな!」

 俺はそれ以上言い合うのを止め、示された道を進み始めるのだが、マルクスがたった一歩踏み出すと、後方から何者かが飛び出した。
 下層で俺に襲い掛かって来た虫共だ。

「おい、いきなり来やがったぞ!」

「早速か…………」

 腰から剣(ブロードソード)を引き抜き、一振りで二匹を叩き斬った。
 腕としてはそこそこで、磨かれた剣も立派な物だ。
 だがこいつが持つ真の得物は、その剣ではないらしい。

「なるほど、そこそこ堅いが、この程度であれば刀を使っても問題ないだろう。丁度良いからこの刀の錆びにしてくれる!」

 持っていた剣を鞘に納め、引き抜いたのは刀という武器だ。
 銀の刃に炎の紋様が見える。
 この国、いやこの大陸でも珍しい物で、殆ど流通していないだろう。
 俺と戦った時に使った物と同じ物だな。
 襲い掛かる虫を縦に真っ二つとは、中々の切れ味らしい。
 瞬時に三匹を斬り飛ばし、満足した顔で刀を納めている。
 これならそこそこの敵が出ても対処は出来るだろう。
 金貨五百枚も払う気はないが、出費は多くなりそうだぜ。

 俺は腕と武器だけは信用して、このマルクスと再び進み始めた。

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