一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

16 小さく大きな物語41

魔物を追い掛ける新米冒険者の三人を追い掛け、やっとの事でそれに追いつくことが出来た。しかしその足を止めたのは、ハルバックスが地面の穴にハマってしまったかららしい。俺達に助けを求める三人に手を貸し、それを引き上げた。無事に引き上げるも、俺達の居た地面まで崩れ、もの凄い距離を落ち始める。地面にぶつかり確実な死が待っているかと思われたが、柔らかい羽毛と羽根のような物にぶつかり俺達は助かったらしい。それでも体は痛いが、無事に立ち上がると、俺達は今の状況を整理し始める。どうもこの踏んでいるものが巨大な魔物だとしり、そこから下りようと移動し始めた…………


レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)  バール    (ジャネスの父親)
ハルバックス(青髪の新米)  メタリアス  (黒髪の新米)  
アウティーテ(桃色の新米)


 ヴァ―ハムーティアという魔物だと思うが、この落ちた翼であっても途轍(とてつ)もない巨大さがある。
 この巨大な鳥の翼のような場所は、何方が上か下なのかも分からず、未だに俺達は彷徨(さまよ)い続けていた。
 全体がどれ程と言われても分からないが、今俺達が、声を出しても気付かないぐらいはデカイらしい。
 いや、もう気付いているのかも知れないが、襲って来る気配はまだ無い。
 たまにゴソゴソと動き物凄い揺れが襲う。
 寝返りでも打たれたら、俺達が弾き飛ばされるかもしれない。
 それが何時起こるのかも分からないし、急いで脱出しなければ。
 俺達は微妙な明かりを頼りに、手探り状態でリッドが道を見つけたらしい。

「ねぇ、この場所、ほんの少しだけど下ってるよ。翼が地面についていたら、ここから降りられるかも」

「う~ん、どうだろうな、翼を畳んでいるだけかもしれないぞ。行ったら断崖絶壁になるかも」

「それでも行くしかないだろう、地面に降りられそうなのは、この翼か尻尾ぐらいしかないからな。尻尾まで移動する前にこの場所から落とされたら全滅だからな」

「よし、じゃあ行ってみるか、お前達もそれで良いよな?」

「俺は何でもオッケイだぜぃ!」

「フヒャッ、先輩に任せるぜ」

「私は何時でも美しい! ああ、何でこんなに美しいのかしら!」

 …………まあ、たぶん良いってことなんだろう。
 俺達は翼を下る道を選択し、全員で翼を下り始めた。
 これはタダの翼であるが、既に三百メートルほどを歩いている。
 それでもまだ地に降りる事は出来て居なかった。
 本当にこれが生物なのかと疑いたくなるほどだが、確実に生きて動いている。
 下りの道は長く続き、町でも飲み込めるんじゃないかと思える距離を歩き、その先端が見え始めた。
 翼の先端の羽根の部分が、地面に丁度良く付けられている。
 足を滑らせれば転がって行きそうな道を、俺達は慎重に進み、地面へと降り立った。

「おお、やっと地面だ。これでちょっと安心だな」

「うむ、だがまだ問題は解決していない。私達が居なくなって、きっとリーゼさんも心配しているだろう。早くこの場所から脱出しなければ」

「う~ん、どうだろ、一番前を進んでいるから、母さんまだ気付いていないかも? まだ休憩には時間が早いしね」

「先輩先輩先輩先輩、ちょっと聞きたいのだぜぃ?! あれは、何だぜぃ?!」

「はっ? 一体なんの…………」

 バルックスの言葉に、俺は後を振り向いた。
 広大な闇の空間に、ハッキリと金の瞳が浮かぶ。
 小さな家なら軽く入ってしまいそうな程大きく、黒極な闇が中心を貫いている。
 それは確実に俺達を見下ろしてていた。
 極大なるヴァ―ハムーティアに対して、俺達の持っている物は、幾ら切れ味が鋭かろうと、爪楊枝にすら満たない剣でしかない。
 刺されれば痛みぐらいは感じるかもしれないが、傷にも満たない砂粒の如き傷しか与えられないだろう。
 もうただの絶望でしかないそれは、俺達に向かって大きくあぎとを開いた。
 炎でも吐き出されるのかと思えば、そうではないらしい。
 その咢(あぎと)を開いただけで、暴烈な風がその口へと吸い込まれる。
 体が浮き上がりそうになるのを必死にこらえ、俺は大声で指示を出した。

「ぜ、全員何かに掴まれええええええええ、吸い込まれたら間違いなく死ぬぞおおおおおおおおお!」

 何とか前報の岩陰に避難をすると、俺は仲間達へと手を伸ばした。

「掴まれストリア!」

「レティ!」

「リッドも手を!」

「うん大丈夫!」

 ガッと掴んだ手を引っ張り、仲間達を避難させる。
 あの三人も自分達で何とか避難を終えた様だ。
 六人全員が無事に避難を終えると、巨大なあぎとが閉じられたらしい。
 風が収まり静寂が戻っている。
 あの竜が手を伸ばせば、俺達は直ぐに潰れて死ぬ。
 そんな距離だが、ヴァ―ハムーティアはそれ以上動く事はなかった。
 俺達が動くのを待っているのか、それともただ欠伸をしただけなのか。
 こんな化け物に聞いた所で、答えなんて帰って来そうもない。
 そしてこの場所で待ち続けるのは、化け物の気分次第で俺達の命がなくなってしまう。
 逃げられるだろうか?
 仲間達の顔を見て、俺は一つの決断を出した。

「此処に何時まで居たって脱出出来ない。ストリア、リッド、お前達も、一気に走るぞ!」

「ああ、走ろうレティ、私の手を握ってくれ!」

「いいぜ、これで最後かもしれないからな。じゃあ行くぞ皆。カウント、参、弐、壱、零!」

「愛しているぞレティイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」

「あわわわわわわわわわわわわ!」

「お、置いて行かないでくれだぜぃ!」

「ファアアアアアア!」

「美しい私は不滅よおおおおおおおおおおお!」

 俺はストリアの手を握り、化け物から逃げる様に走り出し、皆が恐怖をぶちまける様に叫んでいる。
 一秒が一分にも感じると言われるが、俺はまさしくそれを体験する。
 秒数だけではない。
 ほんの少しの距離までもが、俺達から逃げ続けているように感じた。
 体感では、もう一時間でも走ったんじゃないかと思えてしまうが、実際はそうではない。
 精々一キロを超えたぐらいだろう。
 暴烈な風も、死を与える攻撃も、一切やっては来なかった。

 だが、それでも安心は出来ないのだ。
 一キロ程度、あの化物に掛かれば、たった数秒で追い着かれてしまう。 
 いや、どれ程逃げた所で、結局は相手次第でしかないだろう。
 それからも必死で逃げ続けた俺達は、本当に一時間ぐらい走ったかもしれない。
 結局あの化物は追っては来なかった。

「生き残った、か? おい、手を…………」

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…………」

 普段なら息切れなんてしそうもないストリアも、今回だけは違ったらしい。
 息を切らしながら、俺の手をガッチリ掴み、放してはくれそうもない。
 恐怖で汗ばみ、少しだけ震えている。
 今回は手を放すのは諦めるしかなさそうだ。

 リッドやあの三人も、少し後方で息を切らして倒れている。
 まあ倒れているが、命には別条はなさそうだった。

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