一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

15 俺の体を戻す手掛かり。

虫の魔物を殲滅させた俺達は、広場を調べ始めた。全員でくまなく探すも、中心の木に埋め込まれている二つのスイッチしか見つけられなかった。何処にもヒントはなく、赤と青のスイッチ、どちらを押すか迷っていると、バールの奴が軽く赤のスイッチを押してしまった。俺達の入って来た赤い扉が閉まり、開かなくなると、俺は小さな小窓からバールに投げ捨てられてしまう。脱出経路を確保する為に、もう一度開けて来いというらしい。一応一理あると、俺は一層でギルドに向かい、ギルドへ依頼を出したのだった…………

べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)
マルクス   (ラグナードの兵士)






「貴方が依頼人ですか? 俺はマルクスと言います、どうぞよろしくお願いします。早速依頼内容をお話しください」

 そう言ったのが、五人居る隊のリーダー格であるマルクスという奴。
 腰に四本、背に二本と、無駄に武器をぶら下げている男で、一度は俺と引き分けたことも有る男だ。
 ま、相手は七人、命懸けの戦いであったなら、きっと俺が勝っていたはずだ。

 他にガルスという男とドル爺と呼ばれる男、ラクシャーサに、セリィだったか?
 そのセリィはエルフという種族だと思う。
 一応それなりに隠してはいるが、恐らくというところだな。
 
 この五人が何故この場所に居るかと言えば、まああの宝石騒動の帰還途中だろう。
 あれからそれ程経ってもいないからな。
 味方でもないが敵でもない、ただの知り合いでしかない。
 姿を晒して頼んでみるか、それともこのまま嘘を押し通すか、どう伝えるべきか?
 少し考えこむ俺を見て、マルクスが不審そうに見つめている。

「どうかされましたか? 依頼内容の確認をしたいのですが」

「ああいや、今上層階を調べているんだが、ちょっと仲間が閉じ込められてしまってな。君達にはその救出を手伝ってほしいんだ。罠の解除もしてあるから、ただ扉を開けていってくれるだけでいい」

「扉を開けるだけ、ですか? 罠が解除されているのなら、ご自分で開ければ良いのでは?」

「いやいや、私一人では、もし何かあった場合に対処できませんから。皆さんが居てくれないとこまるのですよ」

「…………その恰好で上層階を調べていたのですか? とても戦えるような恰好には見えませんけど」

 確かに、今の俺は、町に溶け込むように、武装も何もしていない一般人の恰好だ。
 体格としても特に鍛えているようには見えないだろう。
 こんな男が、上層に挑んだと思われれば不審に思うだろうか?
 かなり不振に見られているきがする。
 かといって、今更姿を晒したとして、どう思われるか微妙な所だ。
 罠にかけるとか、しつこく宝石を奪取しに来た等と思われても面倒になる。
 このまま続けるしかないだろう。

「ああ、私はただの付き添いですので、武装とかはしていないんですよ。罠に掛かった皆さんをあのままにしておく訳にはいきませんので、此処に頼みに来たという訳です」

「なるほど、少し仲間と相談してみますので、ちょっと待っていてください」

 怪しまれているのは確実だな。
 別に何をする気でもないんだがな。

 ラグナードの五人は、一度俺から離れて相談をしている。
 声はよく聞こえないが、たぶん怪しいとかそんな話だな。
 話は続き、その答えが出たらしい。
 
「では俺達が護衛をしよう。案内を頼みます。べノムさん」

「…………なんだ、バレてたのかよ。何時分かった?」

「どう見ても怪しいから、ちょっと鎌をかけてみただけだ。声も似ているし、もしかしたらと思ってな。俺達を追い掛けて、まだしつこく宝石を狙うのか?」

「ちげぇよ、その話の代わりに、マリア―ドからこの塔の階層を制覇したら金をくれるって言うんでな。仲間と一緒に来た訳だが、さっき言った通りだ。俺じゃ扉を開けられない訳があってな、お前達が手を貸せないなら、別の奴等にやってもらうだけだ。で、結局来るのか、来ねぇのか?」

「分かった手を貸そう。その代わり俺一人だけだ。何かあれば仲間達はこの町を出る。それで構わないな?」

「一人居れば充分だ、俺はそれで構わねぇよ」

 マルクスを連れた俺は、もう罠の無い場所を通り、あの扉の部屋にまで戻って来ていた。
 しかし開いていた扉は全て閉まり、また開けなければならないらしい。
 この入り口が閉まっているとなると、全部閉まっている可能性が高いだろう。
 場所だけは分かるから、かなり時間を短縮できると思うが、また何千と扉を開けるのは嫌になりそうだ。
 マルクスはというと、進んだ形跡が見られないこの扉に、少し警戒心を強めている。

「本当に罠じゃないんだろうな? 俺を襲っても宝石は手に入らないぞ」

「だからちげぇよ! お前にはこの扉を開けて行って欲しいだけだ」

「…………自分で開けない理由を聞こうか?」

「理由理由と煩い奴だ。あまり弱点を晒すのは趣味じゃねぇんだが、良いだろう教えてやるよ。その代わり誰にも言うな?」

「いいだろう」

 俺は変身魔法を解いて、今現在の姿を、この男に晒してやった。
 マルクスは俺の姿に面食らっている。

「こんなんだから開けられねぇって言ってるんだよ。俺の力じゃそう何度も空けられないんだ」

「なるほど、この塔の罠にでもかかったらしいな。俺もヒヨコが巨大化する所を見た事がある。時間制限はなさそうだぞ、諦めてその姿で生きて行くんだな」

「何いいいいいい?! それはどこにあったんだよ! 俺に詳しく話しやがれ!」

 マルクスの話を詳しく聞き、その場所を知る事ができた。
 俺の体を戻す手掛かりだ、ヒントがそこにあるかも知れない。

「いいか、俺はちょっとその場所に行って来る。お前は扉を開けといてくれ。ああそれと、赤い扉は最後だから俺が戻るまで開けるなよ」

「行っても無駄だぞ、一度発動された罠は二度目は発動しないからな。それより仲間はいいのか? 閉じ込められているんだろう?」

「いいんだよ、あいつらがそう簡単に死ぬか。それより俺の体を戻す手掛かりの方が重要だぜ! ああそれと、この扉は何千とあるから、そう簡単には終わらねぇ。まあ頑張っといてくれ」

 俺はマルクスに扉の仕掛けを教え、目的の場所を教えると、二百階層にあるという巨大化の罠があった場所を目指した。

 二百階層。
 ある程度罠が解除され、花の咲き乱れる階層。
 壁や柱、天井にまで花が咲いている。
 人が住んでいるらしく、コッソリと飛んで罠があった場所へと向かった。
 柵に傷がある場所から、もう少し進んだ場所には、幾つものタライが落ちている。
 それが続き、俺の行く先を示していた。
 タライが片付けけられていないのは、ここが安全ではない印だろうか。
 迷わなくて良さそうだと、その道を進み、タライが途切れた場所を見つけた。
 そこには発動された罠のスイッチがある。
 青い踏み込み式のスイッチで、床から少し出っ張っていた。
 たぶんこれが巨大化の罠だろう。
 俺はそれを踏み込むのだが、やはり何も起こりそうもない。

 いや待て、バールの奴は、確か赤いスイッチを押した気がする。
 それで赤い扉が閉まったのなら、青いスイッチを押せば、このスイッチが戻る可能性があるんじゃないだろうか?

 …………駄目だ、考えてみればそれはないな。
 赤いスイッチを押した馬鹿バールが、どうせもう青いスイッチも押しているはずだ。
 だとしたら、この罠は、今踏んで発動していてもおかしくない。
 それが無いとすれば、やはり新しい罠を探すしかないのか。
 まあ手掛かりは青いスイッチとだけでも分かったから、一応良しとしよう。

 俺は急ぎ扉の階層へ向かい、マルクスと合流した。

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