一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

11 どうやっても内開きかよ!

巨人の攻撃に弾き飛ばされたダルタリオンとランツ、そしてエル。エルのダメージは大きく、動けないでいた。俺はエルを休ませる判断をし、正確な攻撃をしたのは壁の目玉の所為だと判断し、その目玉に蹴りをくらわせた。しかし一つ一つ潰して行っては時間が掛かると、休んでいたエルに声を掛ける。炎の力により壁の目玉を破壊すると、巨人の攻撃は正確さを失った。だがそれだけでは勝てそうではなかった。巨人の装備する防具が、魔法や攻撃のほとんどを防いでしまっている。俺は敵の兜を脱がそうと頑張り、それを脱がす事に成功した。それにより全員の攻撃が頭に向かい、ダルタリオンが止めを刺したのだった…………


べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール    (女好きの馬鹿)
黒井明(メイ)(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ    (制御不能野郎)


 倒れた巨人の体は、堅かった鎧までも砂となる。
 しかしこの巨人、馬鹿だが堅いバールの奴と、メイの攻撃を受け止める力強さが無ければ、相当の犠牲が出ただろう。
 普通の人間であったなら、三十人、四十人居ても、軽くやられていた気がするぞ。
 内情を知ったら、こんな塔に挑むなんて馬鹿げている。
 俺も早く帰りたいぞ。

 巨人の砂粒もやがて消え去り、その中から黄金の鍵が現れた。
 作りも良く、洒落た花の飾りが頭に付けられ、売るだけでも良い金になりそうだ。
 もちろんそんな事はしない。
 どうせこの鍵は先に進むのに必要なものだろう。
 それをしてしまえば、これ以上先に進むのも困難になるからだ。
 俺はその鍵を持つが、流石に重く、ちゃんと動く事が出来そうもない。

「おいメイ、これを持っていてくれ。きっと大事なものだから無くすなよ」

「はい分かりました、気を付けて持ち歩きます」

「あ隊長、俺が持っても良いんですよ?」

「お前に持たせる馬鹿は居ねぇよ! そんな事は良いから、全員で上にあがれそうな場所を探すぞ」

「う~む、とは言ってもな、見る限り何もありはしないぞ? また踏み込み式の罠でもあるのではないか?」

「いえ、この階層に罠は無いと思います、鍵穴が何処かに隠されているんじゃないでしょうか? このぐらいの鍵穴なら、ぱっと見はわからないでしょう。穴自体をどこかに隠されているのかもしれませんし」

「ふぁいやふぁいや、ふぁいや!」

 ランツが何か指摘しているが、あの言葉じゃ全くわからない。
 エルがランツの指摘する場所を見ると、何かを見つけたらしい。

「…………穴!」

「えっ? 私の穴に入れて欲しいですって、じゃあ俺の腰に持ってる鍵で、その穴を塞いであげましょげええええええ!」

 エルの見事な飛び膝蹴りが、バールの鼻にめり込んでいる。
 そのままバールの足を払い、引き倒すと、マウントを取ってエルが殴り始めた。

「…………ッ!」

「ギャッ、ぐあ! 痛い! 顔はやめて!」

 エルの気の済むまで、殴らせても良いだろう。
 ただ、あの馬鹿がどうなろうが知った事じゃないが、穴というのが気になる。
 俺はその場所を調べると、地面に小さな穴が開いていた。

「おいメイ、此処に鍵穴が開いているぞ。その鍵を差してみろよ」

「あ、これですね、では差し込んでみます」

「おう」

 メイは手に持った鍵を使い、その穴へはめ込もうと頑張るが、どうやっても穴にはハマらないらしい。

「おい、何だこれ、まさか別の鍵穴があるのか? 面倒だが、やっぱ探すしかないらしいな」

 まだ殴られ続けているバールとエル以外は、手分けして鍵穴を探すが、見つかった穴の数は、ザっと二百を超えている。
 それでも、一つ一つ確かめるしか手がなく、穴を確かめては印をつけて、何度も穴を試していく。
 無駄な時間稼ぎにしかならないが、精神的にはきついものがある
 そもそも鍵と大きさが違い入らない物。
 入った所で特に何も起こらず意味がない物。
 他にも様々だが、結局全部試しても次の階層へ伸びる階段は出現しない。

「おい、タダの嫌がらせか?!」

「グフッ、た、隊長、助けてくれたら、オフッ、いい事を教えます。だから、グフ、助けてください!」

 良い事だと?
 此奴が始めて来た塔の何かを知っている訳がない。
 とすると、今引き倒された状態で何かを見つけたのか?
 だとすると天井か?

 上を見上げ、目を凝らすと、小さな黒い何かが見える。
 あれはやはり鍵穴だろう。
 天井までの距離は約五メートル程、飛べない奴等にとってはかなり致命的な高さだが、俺達にとっては無意味な距離だ。
 俺が持って飛ぶのは不可能だが、バールやエルなら軽く…………

 下にはバールを殴り続けるエルの姿がある。
 まあどれだけ殴られた所で、あの馬鹿が死ぬような玉じゃない。
 気の済むまで殴らせてやりたかったが、先に進むためには止めざるを得ないだろう。
 俺は渋々エルに声を掛け、殴る手を止めさせた。

「おいエル、一度その手を止めてやれ。天井に穴が見えるんだ、お前ちょっと飛んで確かめて来てくれ。殴るのはそれが終わってからで良いからよ」

「ちょ、隊長、助けてくれるんじゃなかったんですか?!」

「お前が馬鹿な事ばっかりしてるからだよ! 止めさせたいなら変な事は言わないこったな!」

「分かりました、我慢します! 我慢しますから助けてください!」

「だとよ、許してやったらどうだ?」

「…………あと……五回!」

「おう、そのぐらいなら全然やれ!」

「ぎゃああああああああああああ!」

 その最後の五回が強烈に終わり、エルは鍵をもって天井へ飛び上がる。
 天井の穴に鍵がピッタリと入り、回されるとカチャット鍵の開いた音がした。
 近くの天井が左右に割れ、そこから上層に上がる階段が降りて来ている。
 完全にそれが降り切ると、俺は様子を見に、二百五十七階層へ進んだ。

 二百五十七階層。
 やはり壱階層上がるだけで、その雰囲気はガラリと変わるらしい。
 多くの扉がある……というか扉しかない。
 階段の上は小さな部屋となっていて、六人で上がるのには、どう考えても狭い。
 一人ぐらいしか入れないだろう。
 その部屋の四方向全ては扉がつけられ、ノブは全部右に取り付けられていた。
 どの道開けるしか進む方法はない。
 俺はバールを先頭にさせて、その扉の一つを開けさせるのだった。

「いよし、お前ちょっと開けてみろ」

「えっと隊長、どれをですか?」

「どれでも良いぜ、好きなやつを開けてみろよ」

「好きなやつって言っても…………全部変わらないですね。何か出て来そうなんで、俺はやめたいんですけど」

「さっき助けてやったじゃねぇか、良いからやれや!」

「あれは助けたって言うんでしょうか? まあ開けますけど…………」

 バールは階段正面にある扉を開いたのだが、それは内開きで、体が邪魔で開ききらない。

「…………隊長、これ内開きで開けられないんですけど」

「ちったあ頭使えや! 階段を下がれば開けられるだろうが!」

「ああ、確かに。じゃあちょっと開けてみますね」

 バールが階段を下がり、無理やり扉を開くと、さらに奥には扉が見えた。

「また扉ですか、もういっそ壊せないですかね?」

「試して見たらどうだ? 俺は別に止めねぇぞ」

「じゃあちょっと、試して見ますか。せ~の、よいさああああああああああ!」

 かなりの力を込めたバールの腕が、扉にぶつかり弾かれた。
 腕は槍化して、そこそこ本気だったと思うが、扉には傷一つ付いていない。

「ああ、無理っすねこれ、諦めて帰りましょう」

「帰んねぇよ!」

 どの扉も試して見るが、全部内開きで、一か所しか真面に開けられない仕掛けらしい。
 しかも一度扉を閉じてしまうと、外開きだった扉でさえも、内開きとなる、とても面倒な仕掛けだ。
 作りの状況から左の扉は開けず、前と右にしか進む事が出来ない。
 扉も頑丈で壊れず、もし間違って閉じてしまえば、バールは永久に扉から出られなくなるだろう。

 …………ちょっと試したいところだが、今はやめておくとしようか。

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