一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

1 王国が利益を得るには、それなりの見返りがいるようだ。

マリア―ドからの接触があり、王国の王から呼び出された俺べノムは、アリーと共にマリア―ドへ向かう。だが俺達を呼んだ大臣とやらは、マリア―ドを裏切ったらしい。結局目的のものは貰えず、その大臣の代わりとなるディレイドと、新たに交渉がスタートした…………

べノムザッパー        (王国の兵士)
ディレイド・マグロイド    (マリア―ドの大臣)
アリー・ゲーティス      (王国の兵士)






「べノム、貴方にマリア―ドとの接触を命じます」

 王国の王、イモータル様にそう言われたのは、三日ほど前のことだった。
 そのマリア―ドとの外交は今の所行われていない。
 それも前に行われた夜襲と、その報復を行った為なのだが、この接触が吉と出るか凶とでるか微妙な所だ。
 しかもこの接触が、マリア―ドが直接言って来たものではなく、帝国を通してというのだから、妙に怪しいものを感じる。
 それでもこのまま断交するよりはと、イモータル王が接触を命じたのだから、王国の兵士の俺としては従わなければならない。
 まっ、イモータル様としても、一度の接触でうまくいくとは思っていないだろう。
 多少なりとも進展すれば良いと思っているはずだ。

「はい、じゃあ動きやすいよう部下を一名連れて、早速向かってみます」

 そしてまあ一人ぐらいなら飛んで行けると、俺が適当に選んだのは、アリー・ゲーティスというワニっぽい奴だった。
 一応簡単に説明するが、俺達は王国に所属しているキメラ化という手術を受けた兵士だ。
 その姿は人とはかけ離れた姿をしている奴も居る。
 俺としては鳥っぽいとかカラスっぽいとか言われるが、人に近いと言われれば近いのだろう。
 もう一人のアリーという奴は、ワニっぽいというか、顔はワニそのものだが、その知能は人間そのものだ。

 そいつを連れてマリア―ドに向かったのだが、ダブロインという大臣が、俺達を使って色々してくれたわけだ。
 アリーの能力を使えるとみると、地下に穴を掘らせたりと、自分の逃げ道を作らせようとするは、王の許可も取らず、勝手に俺達に接近したとも聞いた。
 そして挙句の果てには、渡すと言った宝石も別の奴等に渡したりと、正直何の成果もあげられていない。
 結局その大臣は、マリア―ドの王により更迭され、その代わりとなったディレイドって奴と交渉をし始めている。
 で、この話はそんな所から始まる訳だ。

「ディレイドさんっつったっけ? 多少騙されては居たが、この国の為にわざわざ来てやった俺達には、結局何をくれるんだろうな?」

「騙されてる時点で話にならんが、まあそちらの国と少しぐらいなら繋がりがあっても良いだろう。で、そちらは一体何をしてくれるのだ?」

「はぁ、何で俺達がそっちに何かせにゃならんのだ? わざわざ来てやって、言う事聞いてせこせこ地下道まで掘ってたんだぞ? このままじゃ割に合わねぇじゃねぇか!」

「いや隊長、掘ってたのは俺だけですけど…………」

「お前はちょっと黙ってろや!」

「あ、はい…………」

 怒鳴りつけてしまったが、まあ確かに働いていたのはアリーだけだ。
 あとでなんか奢ってやろう。
 そしてまあこのディレイドという男だが、前任の大臣よりも随分とやりにくい。
 代わりの物をねだろうとしたが、躱されてしまった。

「悪人に手を貸していたのを忘れてやろうというんだ、悪い話ではないだろうが。本来牢獄へ繋がれてもおかしくはないのだぞ? だがまあ、王国と繋がりをもっておくのも悪くはないと、譲歩してやってるのだ」

「だから騙されてたって言ってんじゃねぇえか! それともまさか、まだ俺達にタダ働きさせようって気じゃねぇよな?!」

「そうか、では悪人に手を貸した事は許してやるから、もう帰るがいい。さあ帰れ、それでも私達には何も問題はないからな」

「こんにゃろう、そう来やがるか! ぐぬぬ、分かったよ、じゃあ帰らせて貰うぜ。その代わり、王国と二度と接触できると思うなよ?」

「それで構わん。ではお帰りを」

「…………テメェ!」

 バンと机を叩くも、目の前のこいつは動揺したりもしない。
 本当に部屋を出ても、きっと止めたりしないだろう。
 アリーの奴も俺を止めに掛かっている。
 
「隊長隊長、流石に不味いです。イモータル様に何て言われるか分かりませんよ?」

「ああ分かったよ! 一度だけだ、それだけ頼みを聞いてやる。それだけだ、それだけだぞ?!」

「うむ、それが賢明な判断だ」

「で! あんたは一体何をさせようって気なんだよ?!」

「そうだな、ではこの国に巣食う、ヴァ―ハムーティアの討伐、は、まあ後ででも良いだろう。此方から行かねば殆ど被害も出ていないからな。それよりは、バベルの塔の完全制覇……もたぶん無理だな。ならば上方の十階層の解放でどうだ?」

「バベルの塔の十層だぁ? 阿保か、十層なんてやってられるか! 百年で一層行けるかどうかなものを、無理に決まってんだろうが! せめて一層にしとけよ!」

 バベルの塔とは、このマリア―ドの町の一つに、その塔がある。
 塔の一層だけで、町一つの規模の広さだと聞く。
 その一層を制覇するのに大体百年を要するらしいし、危険な罠や、危ない魔物を召喚するなんて噂もある。
 もちろんそれが真実とは限らないが、危ない事は確かだ。
 一層でも大変だとは思うが、俺達ならば、あるいはということだろう。

「では、バベルの今進行中の最上層の完全な制圧と、更に上層を攻略出来た分には、色々と支援してやろう。それで良いだろう」

「色々とじゃ分かんねぇんだよ、具体的な数字を物資を言えや! 子供の小遣いほど渡されて、それでお終いなんて話もあるかもしれねぇし!」

「ふむ、良かろう」
 
 ディレイドから提示された額は、相当良いものだった。
 もちろん国が潤うレベルとしてだ。
 だがその一層を制覇出来れば、町一つ解放するのと同じなのである。
 この国としても、それを支払う以上に、お釣りが来るほどのものを手に入れられる。
 魔物の居ない充分な土地を手に出来るのだ。
 で、たった二人じゃどうなるか分からねぇと、俺達の味方を呼ぶのを提案するのだが…………

「んじゃ、その攻略に掛かる為に、俺達の仲間を呼ばせて貰うぞ。まあ俺を含めて六人ほどだ」

「それは却下だな。我が国は未だにダメージを受けている最中である、ぞろぞろと魔族連中が来たとあっては、心安らぐものはおるまい」

「分かってるよ、その辺は考慮してやる。人の姿に近い奴を呼んでやるから良いだろう、お前達だって早い方がいいだろう?」

「ふむ、ではそれで成立とするぞ。後で文句を言っても聞かぬからな」

「いよし、こっちとしてもそれで良いぜ。じゃあ成立って事で握手だ」

「良いだろう」

 ディレイドとの交渉の末、バベルの塔の攻略をする羽目になったべノム。
 ワニの顔であるアリーを王国へと帰し、王国から五人を呼び寄せた。
 到着したのはエルとメイ、バールとダルタリオン、ランツである。
 

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