一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

89 小さく大きな物語37

バールとの再会も、ジャネスは父親とは気づいてはくれない。一応バールに知らせては見たが、自分が父親と名乗るもぶん殴られてしまった。その若い姿に冗談だと思ったのだろう。そのまま親子のスキンシップをしている二人を置いて俺達は次の町に進むことに。しかし、何時の間にか後からもう一台の馬車が。中にはさっきの二人が手を振っている。そのまま北の町へ到着するも、あの化け物級の奴の為に、町は大騒ぎとなっていた。そのために強制連行されて、ギルドへ向かうのだった…………

レティシャス(シャインの息子)ストリア   (村娘)
リッド   (村人)     リーゼ    (リッドの母ちゃん)
ジャネス  (変な女の人)






 俺達四人プラス二人は、作戦本部である、この町のギルドへと案内された。
 その中には、この町の冒険者や、俺達のように連れて来られただろう旅の奴、この町の兵士達の姿も見えている。
 もう色々と説明が始まっているのだが、途中からなのであまりよく分かっていない。

「まず巨大な魔物、炎獄山に巣食った魔竜ヴァハムーティアと特徴が一致する。相手はその魔竜ヴァはムーティアと見て良いだろう。しかしあれ程の巨大さはなかったはずなのだが、あれを見てしまえば成長しきっていなかったのだろうな。まだまだ成長過程だとすると、放っておけば世界の危機になりかねない、今の内に退治が急務である。相手は幾ら巨大だとはいえ、たかだか一体にすぎん。この町を、この国を破滅させようとするならば、あのウドの大木に鉄槌をくらわせてくれる。いいか皆の者、これは命懸けの戦いだ、命を捨てる覚悟をせよ!」

「「「「「おおおおおお!」」」」」

 返事をする者は多いが、怯んでいる者もかなり多い。
 あれと対峙すれば、どれ程の危険性があるのか分かっているのだ。
 そんな雰囲気であっても作戦の内容が伝えられるが、アルファ地点とかブラボー地点とか言われても、俺はそれが何処なのかさえ分かっていない。
 この作戦が成功するのかといえば、この場に居る百人規模でやれるかといえば、不可能だろう。
 剣や槍を伸ばした所で、足の裏辺りをチクチクつつくのが関の山である。
 きっとくるぶしにも届きはしない、超巨大サイズが子犬レベルの、そんな世界の危機レベルの巨大さだったのだ。
 最早人が抗えるサイズではない。
 戦えるとしたら、同じサイズの魔物か、魔族と呼ばれる人達ぐらいなものだろう。
 そう魔族といえば、この場にも一人居るな。
 のほほんと、娘のジャネスを後ろから抱きしめようとして、ぶん殴られている。
 まあこんなおかしな男が一人居た所で、あんな化け物に勝てるとは思えないが。

 色々と作戦の説明が終わり、俺達は敵、ヴァ―ハムーティアの動向を探る班に回されている。
 一応探索だけなのは、旅の者だから気を使っているのかもしれない。
 探索に回されたのは俺達六人と、少し前にこの町に来たと言っている八人の旅の冒険者達に、町の新人冒険者や、新兵等が回されている。
 三十人規模の移動となるが、その実、半数の戦力は微妙なものだ。
 旅の冒険者の実力も分からないし、通常の魔物でも苦労しそうだった。
 で、この隊の指揮は、一番年上であるリーゼさんが請け負う事となる。
 まあ色々と納得していない者も多そうだが、その辺はスルーしたほうが良さそうだ。
 馬車が六台、徒歩では時間が掛かり過ぎると、乗って来たものを使っている。

「居場所を調べると言っても、この足跡が見えるから一目瞭然だわね。じゃあこの足跡を追うとしましょうか」

 因みに炎獄山と呼ばれる場所に巣食っているらしいから、この場所に向かった可能性も高い。
 居場所を探るというよりも、その道筋にいる魔物退治、新人達の経験を積ませるのが目的だろう。

「はぁ、こんな事をしている場合じゃないんだけどなぁ」

「大勢いると言っても、気を抜いちゃ駄目よリッド、町から進むには、やるしかないんだから」

「いや、でもさリーゼさん、このまま逃げちゃってもいいんじゃないの? だって俺達急ぐんだぜ?」

「それは最後の手よ、二度とあの町に入れなくなったら困るわ。王国に行けたとしても、帰りに町に寄る事になるかもしれないし」

「大丈夫だレティ、私達は随分と先行している、多少寄り道をしたとしても充分間に合うだろう」

「まあ確かに、大群が進んで来る気配はないっぽいな。逆に首都から応援でも来て欲しいところだけど、その変どうなんだろうか?」

「緊急性が高いから多分来るでしょうね。此方に全軍を送って、ラグナードと合流するパターンもありそうだけど、その辺は分からないわ。なる様にしかならないわね」

「ああもう、何でこうもトラブルばっかり続くんだ! ちっとも進まないじゃん!」

「言ってても仕方ないでしょう。それよりほら、前に魔物の群れが居るわよ。全員で退治しましょうか」

「何?! …………確かに確認した。レティ、私達の力を他の奴等に見せつけてやろう!」

 ストリアが前報を覗き込み、魔物の群れを見つめている。
 あの化け物と比べるべくもないが、そこそこ大きい大型犬サイズの魔物が十体ほど並び、此方に襲い掛かってきていた。

「はぁ、どうせ戦わなきゃいけないんだろ。わかったわかった、やってやるよ!」

 リーゼさんが馬車を止めると、他の馬車も続々と止まり、馬車から味方が飛び出していく。
 俺達もそれにならい、馬車から勢いよく飛び出した。
 地面に降り立つと、襲い掛かる一体を引きつけ、相手をじっくりと観察する。

 大型犬と言ったが、これは犬じゃない。
 大型犬サイズのカバだ。
 大型なのにカバとしては小さい。
 普通のカバよりパワーダウンさせてどうすると言いたいが、簡単にパワーダウンしているとは考えにくい。
 大型のカバは、一トン近くの咬む力があるという。
 小さいからと、その力が衰えて居るとは限らない。
 それに、他にも特徴があるのだ。
 体はサイのように堅くデカイのに、腕は細く、速さを重視している様に見える。
 更に背中からはとても目立つ赤い羽根をつけて、空を飛べる様になっている。
 水中での行動を、まるで想定しなくなったそれは、もうカバとも呼べないものだろう。

「三人一組で戦いなさい。くれぐれもその口には気を付けて!」

「ああ任せろ! 俺達にかかれば、こんなの簡単だ!」

「うん、任せてよ母さん!」

「よしレティ、愛の連携を他の奴等に見せてやろう!」

「まあ、愛じゃなくて普通の連携ならしないでもないな」

 リーダーであるリーゼさんが、周りの奴等に指示を出し、バールとジャネスと一緒に戦いだした。
 他の奴等もそれに従い、即座に組みを決めて行く。
 新人の奴等は多少もたもたしているが、なんとか無事に戦闘が始まる様だ。
 丁度十組、一組一体倒せばいい。

「さてと、じゃあ真っ先に倒して、別の奴等の応援にでも行ってやるか! 一気にいくぞ!」

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