一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

72 地下通路。

ディレイドに案内され、大臣室に到着した俺達。一気に部屋に侵入した俺達に八人の男達が驚いた。人数的には黒ヴェールの奴等だとしてもおかしくないが、ディレイドにビクビクと怯え、あまり黒幕っぽくはない。俺は鎌を掛け、男の一人の失言を得ると、この男達がそうだと確信し、八人に挑み掛かった。しかし床が突然開き、俺達は地下へと落とされてしまった…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド          (マリア―ドの偉い人?)






「これは駄目だね、開きそうもないよ。どうするマルクス、一度強行突破してみる?」

 ガルスが階段の上の天井を触っているが、手で開ける事は出来そうもない。
 階段の上に上がってみるが、鋼鉄で加工されている天井は開かなかった。
 魔法を使えばあるいは?
 だがもし切り崩せなければ、貴重な剣の一本を失ってしまう。
 今俺の腰に残っているのは、ブロードソードの二本と、大事な刀の火炎(ひえん)だけだ。
 一本を失ってしまえば、使えるのは残り一本だけ、たった一本では魔法を使うのも躊躇(ためら)われる。
 この地下道に何が潜むか分からない、戦える手段は残しておくに限るのだ。

「いや、やめておこう、この天井を開けたとしても、地形的に不利だ。ここは敵の本拠地で、相手も十人だけとは限らないからな。開けた瞬間、大勢に雪崩れ込まれれば、俺達には勝ち目はない。ラクシャーサ、この扉はゴーレムで封印しておいてくれ」

「いいのか? ここ以外出口がないかもしれないんだぞ?」

「まあそれはないだろう。たぶん大臣や王族の脱出口だろうから、何処かに出口は有ると思うぞ。ただし、相当な広さがあるとは思うがな。ディレイド、アンタは、この通路の道は分かるか?」

「私も知らぬな。今知ってるとすれば、あの大臣だけだろうな。たぶんだが、今の王でさえ知らされてはおるまい」

「ふむ、そう言えば聞き及んではおらんかったが、ディレイド殿の役職とはなんですかな? ある程度の身分は持っておられるようですが」

「まあラグナードの者では知らぬのは無理はないが、この私はマリア―ド舞国、城内見回り組統括である。マリア―ド軍の中で、私を知らぬ者は居ないぞ」

「ほう、見回り組統括とは城の内部は知り尽くしているのですかな」

「当然だ! 城にある剣の本数まで知り尽くしておるわ!」

 見回り組とは、そこまでは偉くはなかったらしいが、実力は本物だ、何か有った時には期待させて貰おう。
 そして天井の扉だが、敵が追って来ないように、ラクシャーサが魔法のゴーレムで塞いでいる。

「…………人人形ひとにんぎょう! よし、これで封印完了だ! セリィ、確かめてみて」

「かた~い!」

 鉄分も混じっているのか、普通の泥よりもかなり強固なものになっている。
 厚さとしてもそうとうで、簡単には追って来れないだろう。
 他の入り口もあるかもしれないから油断は出来ないが、まずは一安心としようか。
 上はもう塞がれ行けないからと、階段の下におりて来た俺達。
 松明で照らされた、この中の状況はというと、ゴツゴツとした岩は人工物でさえない。
 人の手が全く入っていない分けでもなく、整った丸い空洞が五つも伸びている。
 形も同じで、目的もなく進めば、簡単に迷うのは確実だ。
 面倒だが、一つ一つ印をつけるしかないだろう。
 で、どの道へ進むのかだが…………

「ふ~む、ここは男らしく中央突破と行こうではないか。意外と出口も簡単にみつかるかもしれんぞ」

「ほう、ではこの私もそれに乗ってやろう正面突破はロマンだからな!」
 
「う~ん、でも左手沿いに行けば何時か出口に付けるって聞くよ。やってみるのも良いんじゃないの?」

「セリィ、みぎ~!」

「じゃあ、私も右に一票だ。野生の勘ってやつだよね」

 このまま一組で探索するのもいいが、広い迷路ならば別れて探索するのもありか?

「丁度二人組で別れるから、このまま手分けしよう。俺はガルスの居る左に行く。だが注意しろ、罠や魔物が紛れ込んでいる可能性もあるからな」

「ふふん、儂とディレイド殿のコンビであれば問題はないわ」

「ほう、言うではないか、ならば私とドボルホーテ殿で殲滅してやろう! ドーンと我等に任せておけ!」

 ディレイドとドル爺の実力は知っている、この広さで出て来る魔物であるなら、二人でも何とかなるかも知れない。

「私は魔物が出てきたらちょっと困るけど、セリィが居れば見つけてくれるかな」

「セリィがんばる~!」

「よし、じゃあ通路に付ける印のつけ方を教えるぞ…………」

 俺は印のつけ方を全員に教え込み、ガルスと共に左の通路を進みだした。
 通路の道は変わり映えのしないものだ。
 真っ直ぐ伸びたり曲がりくねったり、あるいはまた三方向に伸びたりと色々だが、兎に角左側にある通路を通り、歩いて行く。
 二十分歩き続け行き止まりになったり、三十分歩いたら行き止まりになったり、はたまた十五分掛かって知ってる道に出たりと散々だが、その分だけ正解が近づくと思えば、まあ何とか頑張れた。
 行き止まりに印をつけ、次の道を進み始めた俺達だが、ただ真っ直ぐな道は二時間ほど続いている。

「ねぇマルクス、これもしかして出口に近いんじゃない? やっぱり左が正しかったんだよ!」

「そうかも知れないな、よし、もう少し頑張って進むぞ!」

「わかったよ!」

 これで脱出出来ると、少し速足になった俺達だが、それから三十分後に行き止まりだった時には八つ当たりしたくなる程だった。

「嫌がらせの為に作ったのかこの道は?! 造った奴をぶん殴ってやりたい!」

「俺もイラっと来たけど、ちょっと落ち着いてよ!」

「はぁ、次の道が違っていたら一度戻るか。他の奴が道を見つけているかもだからな」

 その道を進んで見るが、結局行き止まりにたどり着く。

「「………………」」

「ひっく、ひぅ……助けてください、何でも言うことを聞きますから、お願いします…………」

 そう泣き崩れたグリア―デが、行き止まりの角で座り込んで泣いていた。
 どうせ出れないと踏んで、この中に閉じ込めたのだろう。
 かなり怖い目に遭ったのかもしれない。
 俺はグリア―デの手を取り立ち上がらせると、その無事を確認した。

「おい大丈夫か宝石は、まさか無くしてないだろうな? それとも誰かに取られたのか? そうだったら早く言ってくれ、取り返さなければ国に帰れないんだ」

「いやマルクス、流石にもう少し優しくしてあげたら」

「そうなのか? まあ確かに何でも言うことを聞いてくれるというのは魅力的ではあるな」

「あ、貴方達だったのですか?! まさか国宝の宝石を狙ったのは貴方達が?! ざ、残念でしたね、あれはもう私の手にはありません、もう誰かに取られてしまったんです!」

 まあ考えれば宝石まで閉じ込める必要はないな。

「はぁ、やっぱりか。じゃあ助けてやるから、何かくれるんだよな?」

「ええ? マルクス、こんな女の人に、まさか何か要求するの?!」

「ま、まさか助ける代わりに私の体をって?! げ、外道! あ、貴方達なんて死ねばいいんだわ! 卑怯者! この卑怯者!」

 二人が驚いているが、言った事は護って貰わないと、此方としても困ってしまう。
 俺はグリア―デに対して、己の全ての欲望を吐き出した!

「言っておくがお前の体なんかには興味がない! 俺に、俺達に助けて欲しかったら、剣を寄越すんだ! 良い剣を買ってくれ! それが条件だ!」

「うんそうだよね、マルクスってそうだよね」

「わ、私の体よりも剣の方がいいですって…………?!」

「当然だ! 剣に勝るものはこの世にはない! お前の貧弱な体よりも剣、これは世の常識だ!」

「この馬鹿男おおおおおおおおおッ! もういいです、貴方のような剣しか頭にない馬鹿には頼りません! 自分一人でも出口ぐらい見つけて見せます!」

 そう言って何故か俺の頬をぶっ叩き、俺達の前を歩き出した。
 どうやら元気が出て来たらしい。
 元気が出たのは良いが、叩かれた頬が痛い。

 これでは剣が買って貰えないなと思いつつ、俺達はグリア―デの後を歩き出した。

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