一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

71 大臣の部屋。

ディレイドとの軽い運動も終わり、心配する兵士も追い返し、情報交換する事に。俺達がラグナードから来たと伝え、宝石の譲渡が有ると知ると、ディレイドはマリア―ドの王が取引を持ち掛けたんじゃないかと話した。敵勢力は王排斥派の連中ではと、その筆頭である聖右大臣のダブロインが怪しいと睨む。その男は魔族とも親交があるんではないかと知らされた。ディレイドも手を貸してくれると、その大臣の元に向かうのだった…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
ディレイド          (マリア―ドの偉い人?)





 ディレイドに頼み、ほんの少しの準備をして、引き連れられた俺達は、ダブロインが居るであろう聖右大臣室と呼ばれる、大臣の一室に向かっている。
 玉座の間にある椅子の右、つまりは俺達から見て左手側に、その一室が作られていた。
 王の危機に、直ぐに駆けつける為にでも作られたのだろうが、今となれば王にナイフを突きつけられう距離である。
 ディレイドがバンと扉を開け、その中へと一歩を踏み入れた。
 
「ダブロイン、ダブロインは居るか?! ディレイド・マグロイドが会いに来たぞ!」

 ノックもなくいきなりそんな声を上げられた為、中に居た八人が振り向き驚いている。
 私服の男、兵士、偉そうな服を着た奴、色々いるが、グリア―デの姿はない。
 ヴェールの奴等とは微妙に人数が合っていないが、違うとも言い切れない。
 そして剣を抜き此方に向ける姿は、何か不穏な相談でもしていたかと勘繰らせる。
 そういえば、このディレイドという男、大臣にこんな口調で話すとは、結構偉いのだろうか?
 そのディレイドの声に、真っ先に返事をしたのが偉そうな服を着た、細身のちょび髭の男だ。

「なななな何か用ですかなマグロイド殿?! 私達は何も怪しいことなどしておらん! しておらんぞ!」

「惚(とぼ)けるな! 貴様がグリア―デという女を拉致した事はわかっておるのだ、隠すのならためにならんぞ?!」

「そそそそそそんな女は知らない! こ、この通り此処にはそんな女なんて居ないだろう、変なことを言って、儂の品位を貶める事はやめてもおうか!」

 かなりビクビクと、ディレイドを恐れている。
 この八人の実力は知らないが、ディレイドの実力が有ればたぶん余裕で倒せるだろう。
 内心では、魔族が出て来るのではと少し焦っていたが、このぐらいの相手なら、どうとでもなりそうだ。
 あまりにビクビクしているから、この男達が敵とは違うとも感じられる。
 さて、どちらだろうか?

 俺はそれを確かめる為に、大臣に鎌を掛けてみた。

「失礼、大臣殿、先日は世話になったな。まさか昨日の今日で俺達の顔を忘れたとは言わないよな?」

「ぶ、無礼な! 貴様達、この私を聖右大臣だと知ってその口を聞くのか?! これだからラグナードの田舎者は、口の利き方を知らんのだ! もう礼を覚えてから出直すんだな!」

「ラグナードが田舎者とは、随分と酷いことを言う奴等だ。だが俺がラグナ―ドから来たと、何故そう思ったんだ?」

「何を言ってる、その鎧を見れば一目瞭然では…………ッ?!」

「この鎧がラグナードの物に見えるとは、随分と節穴の目をお持ちの様だな。この鎧はどうみてもマリア―ドの物だが」

 今俺達が着ているのは、城内で動きやすいようにと着替えた、マリア―ドの鎧だ。
 ディレイドに頼み着替えていたのだが、これは丁度良かったな。

「さて、言い訳でも言ってみるか? それに納得すれば、手加減してやってもいいんだぞ?」

 剣を抜き、ダブロインに構えた俺達、それを見て男達は観念したらしい。

「グゥッ! 最早これまで、者共、やってしまえ!」

「「「「「おお応!」」」」」

 と言って剣を抜いたは良いが、相手は全員掛かっては来ない。
 此方にはディレイドも居るし、まあ一度負けてるから、それも当然だろうか。
 だがそれで許してやるほど、俺達は優しくない。
 ここは他国の地だが、まあ何かあれば、ディレイドが何か庇ってくれるだろう。

「よし行くぞ、全員叩き伏せてやれ!」

「おお! 腕が鳴るわい!」

「ディレイドさんが居るから、負ける気がしないよ!」

「おい、人任せだぞガルス、自分の実力で倒すっていっとけよ!」

「ええっ?! それはちょっと…………」

「ガルス、よわむしー」

 そんな少々のやり取りに、怒り出したのがディレイドだ。

「おい、何時まで漫才をやっとるのだ! 行かぬのなら私一人で行かせて貰うぞ! ゆくぞうおおおおおおおおおおおりゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………」

 待ちきれなくなったディレイドが突っ込み、俺達も続くのだが、その時、俺達の踏みしめていた固い床が、大臣の何らかの捜査で、パカッと開いた。
 そこに出現した大きな階段は、俺達を転がし、一番下の床にまで落とされる。

「うおおおおおおおおおおおお!」

「あああああああああああああああああああ!」

「ひあああああああああああ!」

「ぬううううううううううううううう!」

 真っ先に突っ込んだディレイドがその穴に落ち、俺とガルス、ラクシャーサとドル爺も一緒に落ちた。 罠を予測して避けたセリィも、自分で飛び込み穴の中へ飛び込んだ。

「…………まって~!」

 死ぬような高さではないが、階段の角が、体を打ち付け、かなり痛い。

「ぬぐおッ!」「グ八ッ!」「げふ!」「うにゃ!」「ぐほ!」「と~!」

 一番最初に落ちたディレイドは、上から落ちた俺達に潰され、セリィが何故か背中に飛び乗っている。
 下手したら死んでるかもしれない。
 彼が居なければ死んでいたかもしれない、丁重に弔ってやるとしよう。

「ありがとうディレイド、俺達の為にクッションになってくれて、俺達は何とか脱出をしてみるから、迷わず成仏してくれ」

「私はまだ死んでおらんわ! 速く退かぬかこの馬鹿者共め!」

 随分と頑丈だな、だが戦力が減らなかったのは助かった。
 俺は落ちて来た階段を見上げると、あの大臣の声が聞こえて来る。

「は~はッは!、間抜けな奴等め! この先は迷宮だ、息の根が止まった頃に出してやろう! 心配するな、お前達の事は、きちっと処理してやるわ! ぶわ~はっはっは!」

「「「「「ハ~ハッハッハ!」」」」」

 上に居る大臣が言いたい事だけ言うと、その天井がゴゴゴと閉まり始める。
 不味いと走り出すが、どうやっても間に合いそうもない。
 
「閉めるなコラアアアアアアアア! 降りてチャンと戦えええええええええええ!」

 ラクシャーサがそう叫ぶも、天井は閉まり切り、明かりさえ無くなって真っ暗になってしまった。
 どうしようか、今はランタンも持って来ていない。
 明かりがなければ探索も出来ない。
 俺は火種を持っていないかと、全員に聞いてみた。

「誰か、火をつける道具を持っていないか? あったら出してくれ」

「何を言っとるんだマルクスよ、腰に立派な火種があるではないか。それを使えば皆が幸せになれる、今使うべき所だぞ」

「そうだね、確かにマルクスの魔法なら明るくなるんじゃないの?」

「さあ皆の為に使えマルクス! さあ、早く!」

 …………まあ俺としても隊の為に使うのはやぶさかではない。
 別に使う剣は残っているのだ。
 ブロードソードを一本使い潰すだけで、火炎ひえんを使う訳じゃないのだ。

「…………仕方ない。ただし、何か火を移せる物を見つけてからだ」

「う~ん、じゃあ私の矢の何本かでかためて縛れば松明に出来るかな? ちょっともったいないけどね」

「待て、俺の剣はもったいなくはないのか?」

「はぁ、言ってる場合じゃないだろ! 早くやるよ!」

「クッ、分かった、やるから待ってろ! 絶対失敗するんじゃないぞ?!」

 俺は魔法を使い、矢尻を外した矢で松明を作り、なんとか灯を確保したのだった。



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