一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
67 交渉。
剣を突きつけた二人を突き飛ばし、俺達は勝利宣言をした。リーダー格の男がハッタリだと吐き捨てるが、その仲間達は剣を捨てて戦意を喪失した。俺は襲われた理由を聞くが、この取引自体に不満を持ち、王を国賊だと言い放つ。その男達は、負けを認めるも宝石を外へと投げ捨て、待機させていた仲間に、持ち去らせようとしている様だった。俺達は入り口にゴーレムを配置し、その壁を塞ぐと、直ぐにそれを追い掛けようとセリィとガルスを向かわせるのだが、俺達が追い着く前にはその姿を消し、仕方なく宿に戻る。宿に二人が戻るも、それを持ち去ったのがグリアーデだと知り、考えを巡らせて城へ向かうことになった…………
マルクス・ライディーン (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン (魔物と人の娘。エルフ種)
マリア―ドの城に向かった俺達だが、昨日のように二人の門番に止められてしまう。
他国なんだから当然だが。
「また貴様達か、まだ何か用があるのか? お前達の連れの女は、城の中へ入れてやったぞ。もう目的は達しただろう。そこに居ると邪魔だから、もう帰れ」
都合よく、俺達をグリアーデの仲間だと思われている。
昨日一緒に行動していたから、そう勘違いしてもおかしくないが。
こちらとしては都合がいい、このまま利用して城の中へ入れないものか?
無茶苦茶な理屈であっても、城の中へ入れないか試して見るか。
「貴様等、直ぐ上に伝えろ! 今日の取引、取引相手全員に襲われたぞ! 言っておくが、国と国との取引を台無しにされた罪は重いぞ。もしこの門を通さないというのであれば、我がラグナードは、マリア―ドに宣戦布告する!」
もちろん俺達にそんな権限はない。
嘘がバレたら色々面倒なことになりそうだが、それはそれとして、今は宝石を取り返すのが先決だ。
この二人の門番が多少でも信じてくれれば、城への道が開けるかもしれない。
「な、何を言って?!」
「他国の兵隊が来るとは聞いていたが、そんな理由があったのか?! いや待て、こんな下っ端っぽい奴等にそんな権限があるはずは…………」
大当たりだが、それを認めてはやれないな。
此処は強気で攻めるべきだ。
「この姿を見てそう思うのは勝手だが、これが俺達の本当の姿だと思うなよ? 取引の為にお忍びの旅というやつだ、これだって変装しているに決まっているだろう。とくと見よ、このヒゲのお方こそ、ラグナードにその人ありと言われる、ローズ・バゼラード伯爵であらせられるぞ!」
俺はドル爺を指さし、適当な嘘を言い放つ。
「はっ、儂か?! うむ、まあそうだぞ。儂こそローズ・バゼラードである。王に面会させてもらうぞ、断ると言うなら、どうなるか分かっておるだろうな?!」
どう見てもローズって名前じゃない顔をしているが、まあ適当に出た名前だから仕方ない。
そんなことを言われて、困っている門番の二人。
「おい、ローズ・バゼラードなんて人物知っているか? 俺はラグナードの伯爵なんて名前も知らないんだが」
「いや、俺に聞かれたって分からないぞ。自分の国の伯爵だって怪しいのに、他国の伯爵なんて知る訳がないだろう。この国の伯爵だけで一体何人いると思っていると思うんだ」
公爵、侯爵ぐらいなら知れていてもおかしくないが、伯爵ぐらいとなると、その人数も多いのだ。
他国の門番あたりが知っているとは思えない。
「いや、その……少しお待ちを、上に許可を取って来ますので」
「うむ、直ぐに頼むぞ、儂らもいそいでおるんだ」
一人が城に走り、俺達はドキドキしながらその時間を待っている。
まあ国同士の取引というのも本当だし、襲われたというのも本当だ。
国宝の宝石を取引するなら、かなり上の人物が指示を出したと思う。
その人物にまで報告が行くなら入れる可能性は…………
俺達が待ち続けていると、入って行ったあの門番が、普通に歩いて帰って来て、軽く俺達に伝えたのだ。
「ローズ・バゼラードなんて人物は知らないと言われまして、まあでも一応会われるようですから、どうぞお通りを。ちなみに、騙りなんて、していらっしゃらないとは思いますが、その場合はどうなるか、お判りでしょうね? 帰るのなら今のうちだと思われるのですが?」
この門番は俺達を疑っている。
無駄な仕事を増やしたくないのか、それを知っても帰らせようとしてくるが、それで帰っては元も子もない。
覚悟を決めて、城内への案内を受けることにした。
「…………バゼラード様は本物なので、そんな心配は不要だ。では門番よ、城内に案内を頼む」
「…………では此方へ」
俺達は気だるげな案内を受け、マリア―ドの城門をくぐった。
王城の扉を抜けて、その中に入ると、大きなエントランスに出ると、大勢の兵隊を後に、その中心で佇む男が居る。
髪の毛と繋がった茶色いヒゲがボサッと生え、目付きが鋭く、煌びやかな装を着た男だ。
結構上の人間だとは思うが、政治よりは戦いに特化していると思う。
歳は五十よりも少し下ぐらいか?
門番は彼の前に到着すると、バッと敬礼して報告をした。
「ディレイド様、ローズ・バゼラード様をお連れ致しました! では私は任務に戻らせていただきます!」
「うむ!」
門番が戻って行き、ディレイドと言われた男との交渉が始まる。
前に出ている俺に向かい、ディレイドは質問した。
「それで、バゼラード殿というのは何方ですか? まさかそこの若造ではありませんよね?」
「それは…………」
「しっ…………」
答えようとするドル爺を、俺は後ろ手で制し、少しだけ考えを纏める。
仲間達も、それに従い口をつむぐ。
このままドル爺を紹介しても良いが、それを言った所で此方の有利にはならない。
この男が襲って来た男達の仲間という事も考えられる。
下手したら本当に斬り殺されてしまうだろう。
なるべく慎重に、話を進めなければ。
「バゼラードは私ではありませんが、それを知らせる前に一つ、今回の取引、貴方は関わっていらっしゃるのか? もしそうであるのなら、何故我等を襲われたか、お教え願いたいのですが」
ディレイは腰の物に手を掛けながら、俺の言葉に少し興味を持ったらしい。
多少は聞く気があるようだ。
「取引とは、何のことですかな? 我々に何かお約束でも御座いましたかな? 出来るなら詳しくお教え願いたいのですが」
「惚(とぼ)けてもらっては困ります。我等ラグナードとの取引を、今日の昼に行ったではありませんか。そちらの黒ヴェールの者達十人と、教会の左にある鍵の付いた部屋の中、その先にある小さな聖堂にて赤いダイヤの譲渡が行われるはずでした! そこで剣を向けられ襲い掛かって来たのはそちらでしょう! 我等には何も落ち度はありません!」
「赤いダイヤだと…………! もしそれがあの石のことを言っているのなら、あり得ん話だ! 我が国の重要な石を渡すはずがない! ああよく分かった、貴様等が偽物だとな! 者共、こ奴等は偽物だ、ひっ捕らえろ!」
「「「「「 ハッ! 」」」」」
後に控えた兵士達が動き出す。
ダダっと走り、俺達の周りを大勢に囲まれ、剣を突きつけられた。
このまま戦う事も出来るが、もう一つだけ言える事がある。
俺は大声で、証拠となる情報を、ディレイドに突きつけた。
「一つ! いや二つ、証拠があります! それを聞いてからでも遅くないのでは?!」
「待て! 証拠、だと?」
「教会のその一室には、俺達を襲った敵の兵士を閉じ込めてあります。まだ逃げて居なければ、その男達が証拠となるでしょう。その争った跡や、我等を見たと言う者も出るかもしれません。そしてもう一人、グリアーデ・サンセットという女が、その宝石をこの城へ持ち込んだはずです。たぶん門番にでも見せたんではないですか? 一度それを調べてからでも遅くないのでは?」
ディレイドは兵を動かさず、思考を巡らせる。
本当に何か有った場合はと考えているのだろう。
「なるほど、ではその証拠とやらを調べてやろう。 …………だが、もしそれが嘘だと分かれば、どうなるのか分かっているのだろうな?」
「そちらこそ、我等を偽物だと斬り捨てなくて良かったと、あとで泣かれないことですね」
「…………者共! この方々を客室にご案内してやれ。まだ、くれぐれも丁重にな」
俺達は客室に案内され、お茶まで出されるのだった。
もし駄目だった場合は考えたくないが、その時は全力で脱出するか…………
マルクス・ライディーン (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン (魔物と人の娘。エルフ種)
マリア―ドの城に向かった俺達だが、昨日のように二人の門番に止められてしまう。
他国なんだから当然だが。
「また貴様達か、まだ何か用があるのか? お前達の連れの女は、城の中へ入れてやったぞ。もう目的は達しただろう。そこに居ると邪魔だから、もう帰れ」
都合よく、俺達をグリアーデの仲間だと思われている。
昨日一緒に行動していたから、そう勘違いしてもおかしくないが。
こちらとしては都合がいい、このまま利用して城の中へ入れないものか?
無茶苦茶な理屈であっても、城の中へ入れないか試して見るか。
「貴様等、直ぐ上に伝えろ! 今日の取引、取引相手全員に襲われたぞ! 言っておくが、国と国との取引を台無しにされた罪は重いぞ。もしこの門を通さないというのであれば、我がラグナードは、マリア―ドに宣戦布告する!」
もちろん俺達にそんな権限はない。
嘘がバレたら色々面倒なことになりそうだが、それはそれとして、今は宝石を取り返すのが先決だ。
この二人の門番が多少でも信じてくれれば、城への道が開けるかもしれない。
「な、何を言って?!」
「他国の兵隊が来るとは聞いていたが、そんな理由があったのか?! いや待て、こんな下っ端っぽい奴等にそんな権限があるはずは…………」
大当たりだが、それを認めてはやれないな。
此処は強気で攻めるべきだ。
「この姿を見てそう思うのは勝手だが、これが俺達の本当の姿だと思うなよ? 取引の為にお忍びの旅というやつだ、これだって変装しているに決まっているだろう。とくと見よ、このヒゲのお方こそ、ラグナードにその人ありと言われる、ローズ・バゼラード伯爵であらせられるぞ!」
俺はドル爺を指さし、適当な嘘を言い放つ。
「はっ、儂か?! うむ、まあそうだぞ。儂こそローズ・バゼラードである。王に面会させてもらうぞ、断ると言うなら、どうなるか分かっておるだろうな?!」
どう見てもローズって名前じゃない顔をしているが、まあ適当に出た名前だから仕方ない。
そんなことを言われて、困っている門番の二人。
「おい、ローズ・バゼラードなんて人物知っているか? 俺はラグナードの伯爵なんて名前も知らないんだが」
「いや、俺に聞かれたって分からないぞ。自分の国の伯爵だって怪しいのに、他国の伯爵なんて知る訳がないだろう。この国の伯爵だけで一体何人いると思っていると思うんだ」
公爵、侯爵ぐらいなら知れていてもおかしくないが、伯爵ぐらいとなると、その人数も多いのだ。
他国の門番あたりが知っているとは思えない。
「いや、その……少しお待ちを、上に許可を取って来ますので」
「うむ、直ぐに頼むぞ、儂らもいそいでおるんだ」
一人が城に走り、俺達はドキドキしながらその時間を待っている。
まあ国同士の取引というのも本当だし、襲われたというのも本当だ。
国宝の宝石を取引するなら、かなり上の人物が指示を出したと思う。
その人物にまで報告が行くなら入れる可能性は…………
俺達が待ち続けていると、入って行ったあの門番が、普通に歩いて帰って来て、軽く俺達に伝えたのだ。
「ローズ・バゼラードなんて人物は知らないと言われまして、まあでも一応会われるようですから、どうぞお通りを。ちなみに、騙りなんて、していらっしゃらないとは思いますが、その場合はどうなるか、お判りでしょうね? 帰るのなら今のうちだと思われるのですが?」
この門番は俺達を疑っている。
無駄な仕事を増やしたくないのか、それを知っても帰らせようとしてくるが、それで帰っては元も子もない。
覚悟を決めて、城内への案内を受けることにした。
「…………バゼラード様は本物なので、そんな心配は不要だ。では門番よ、城内に案内を頼む」
「…………では此方へ」
俺達は気だるげな案内を受け、マリア―ドの城門をくぐった。
王城の扉を抜けて、その中に入ると、大きなエントランスに出ると、大勢の兵隊を後に、その中心で佇む男が居る。
髪の毛と繋がった茶色いヒゲがボサッと生え、目付きが鋭く、煌びやかな装を着た男だ。
結構上の人間だとは思うが、政治よりは戦いに特化していると思う。
歳は五十よりも少し下ぐらいか?
門番は彼の前に到着すると、バッと敬礼して報告をした。
「ディレイド様、ローズ・バゼラード様をお連れ致しました! では私は任務に戻らせていただきます!」
「うむ!」
門番が戻って行き、ディレイドと言われた男との交渉が始まる。
前に出ている俺に向かい、ディレイドは質問した。
「それで、バゼラード殿というのは何方ですか? まさかそこの若造ではありませんよね?」
「それは…………」
「しっ…………」
答えようとするドル爺を、俺は後ろ手で制し、少しだけ考えを纏める。
仲間達も、それに従い口をつむぐ。
このままドル爺を紹介しても良いが、それを言った所で此方の有利にはならない。
この男が襲って来た男達の仲間という事も考えられる。
下手したら本当に斬り殺されてしまうだろう。
なるべく慎重に、話を進めなければ。
「バゼラードは私ではありませんが、それを知らせる前に一つ、今回の取引、貴方は関わっていらっしゃるのか? もしそうであるのなら、何故我等を襲われたか、お教え願いたいのですが」
ディレイは腰の物に手を掛けながら、俺の言葉に少し興味を持ったらしい。
多少は聞く気があるようだ。
「取引とは、何のことですかな? 我々に何かお約束でも御座いましたかな? 出来るなら詳しくお教え願いたいのですが」
「惚(とぼ)けてもらっては困ります。我等ラグナードとの取引を、今日の昼に行ったではありませんか。そちらの黒ヴェールの者達十人と、教会の左にある鍵の付いた部屋の中、その先にある小さな聖堂にて赤いダイヤの譲渡が行われるはずでした! そこで剣を向けられ襲い掛かって来たのはそちらでしょう! 我等には何も落ち度はありません!」
「赤いダイヤだと…………! もしそれがあの石のことを言っているのなら、あり得ん話だ! 我が国の重要な石を渡すはずがない! ああよく分かった、貴様等が偽物だとな! 者共、こ奴等は偽物だ、ひっ捕らえろ!」
「「「「「 ハッ! 」」」」」
後に控えた兵士達が動き出す。
ダダっと走り、俺達の周りを大勢に囲まれ、剣を突きつけられた。
このまま戦う事も出来るが、もう一つだけ言える事がある。
俺は大声で、証拠となる情報を、ディレイドに突きつけた。
「一つ! いや二つ、証拠があります! それを聞いてからでも遅くないのでは?!」
「待て! 証拠、だと?」
「教会のその一室には、俺達を襲った敵の兵士を閉じ込めてあります。まだ逃げて居なければ、その男達が証拠となるでしょう。その争った跡や、我等を見たと言う者も出るかもしれません。そしてもう一人、グリアーデ・サンセットという女が、その宝石をこの城へ持ち込んだはずです。たぶん門番にでも見せたんではないですか? 一度それを調べてからでも遅くないのでは?」
ディレイドは兵を動かさず、思考を巡らせる。
本当に何か有った場合はと考えているのだろう。
「なるほど、ではその証拠とやらを調べてやろう。 …………だが、もしそれが嘘だと分かれば、どうなるのか分かっているのだろうな?」
「そちらこそ、我等を偽物だと斬り捨てなくて良かったと、あとで泣かれないことですね」
「…………者共! この方々を客室にご案内してやれ。まだ、くれぐれも丁重にな」
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