一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

63 下見。

魔物の下で動けなくなったグリアーデを助け出し、置いて行ったグリア―デに罵倒されるのだった。言いつかれたグリア―デは馬車に乗り込み、俺達はマリア―ドに向かった。マリア―ドの周りはある程度魔物を退治されている様で、俺達は労ぜず古都マリア―ドに到着する。グリアーデは城に向かえと催促し、まあ約束だからと向かうのだが、城の門で止められて、王に面会したいとの願いを断られてしまった…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
グリア―デ・サンセット    (真の領主?)






 結局俺達も入れてもらえず、取引の日まで時間が出来たが、町を見て回ろうと提案するのだが…………

「貴方達とは此処でお別れです、私にはやることが出来ましたから!」

 グリア―デは馬車を置き去りにして去って行く。
 俺達としても、これ以上は付き合えないし、その必要もないのだが、あんな無一文でどう生きて行くのだろう?
 多少心配だったが、きっと伝手つてでもあるのだろうと、気にしないことにした。
 俺達は指定された場所の下見に向かい、地図を見ながら、その場所へとやって来た。

 その場所とは、マリア―ド城の真北にある最古の教会の中。
 城よりは若干小さいが、それでも城クラスと言っていいレベルだろう。
 城の修繕は雑にやられていたが、この教会だけは修繕の痕は見られない。
 丁重に作業して、それだけ大切にされているのだろう。
 中に入ってみると、その大きさが張りぼてでないことが分かる。
 左右に大勢の椅子が並び、中央は真っ直ぐ伸びる道。
 その奥は高い台になっていて、そこで神父の説法が行われている。
 さらに奥には、美しい天使の像と、十字架が飾られて、ステンドグラスの光が当てられていた。
 その前に集まった人達は、その説法を聞き入ってるが、後ろの方では世間話とかをしていたりと、ザワザワと結構騒がしい。

 それで、この中の何処でそれが行われるかというと、まだそれは知らない。
 たぶん、俺達を知る相手側から、何処か相応しい場所に案内されるのかもしれない。
 この教会の中じゃないということも考えられるが、その時はその時だろう。

「さてと、明日この中で譲渡される予定だが、流石にこんな人の多い中央ではやらないだろうな。分かりやすく、わざわざその為に人の出入りを規制するとも思えないからな」

「じゃあさじゃあさ、それじゃあここの人に聞いてみたら? 教会の中を使うんだから、立会人ぐらいは居ると思うんだけど」

「ガルスよ、それは有り得んだろう。例えそ奴が知っていたとしても、国の重要案件を簡単に口にはしないだろうな。もし喋ったら首が飛ぶわい」

「ふ~ん、じゃあ行ける所に行ってみるか、両側の扉の中とかさ。国主導だから何にも起きないとは思うんだけどな」

「それでも念の為ってやつだ。何か有ってからでは遅いからな。じゃあ右側から行ってみるぞ」

「ご~ご~!」

 右の扉を入ってみると、ここの職員の為の小さなな休憩室や、聖書などが置かれている部屋、さらに道が続き、右には階段が上に伸び、正面には懺悔室の扉がある。
 左の扉もあるが、これは中央にあった壇上に上がる道だろう。
 俺達は階段を上ると、そこは教会内をぐるりと囲む通路になっており、下の風景を見下ろせる様になっている。
 その下を覗き込み、ラクシャーサは危険性を指摘した。

「マルクス、もし中央で受け渡しが行われるなら、ここから矢で狙われるかもしれないぞ。私とセリィなら普通に狙える距離だ」

「セリィやれる~!」

「人に紛れてということもあり得るか? 一応この上部には注意を払うとしようか」

「う~ん、盾を上に構えていれば防げるかな? 武装の持ち込みはありなんだよね?」

「特に指定はなかったはずだ。むしろなければ緊急時の対処が出来ないからな。向う側が言わない限りは持ち込むとしよう。もちろんこの火炎ひえんは外さない! 言われても外さない!」

「そんなんだから剣馬鹿とか言われるんだよ。言われたら外さないと不味いだろ。他国なんだから言うことは聞いとけマルクス!」

「いや、これは魂だからって言えば、なんとかならないだろうか?」

「ならないよ!」

「無理だな」

「うん、無理だね」

「むり~!」

 火炎ひえんを外すのはとても躊躇(ためらわ)われるが、そうなれば仕方がない。
 だが武器が何もないと不安だから、短剣でも懐に忍ばせておこうか。
 もちろんもしもの為にだ。

 しかし俺は短剣は持っていない。
 ラクシャーサ達も使うことになるし、俺も何か買っておいた方がいいだろう。
 うん、これは武器屋に寄らないと不味いな。
 うん、無いと絶対に不味い。
 武器屋に寄る口実…………いや、任務の為に行かなければならない。

 上部の通路を歩いて見るが、そこには幾つが部屋のようなものもあったが、立ち入り禁止と書かれ、鍵が掛けられていた。
 左側から降りる階段は見当たらず、同じ場所には扉があり、やはり鍵が掛けられている。
 予想ではこの扉の中には階段があるのだと思う。
 この分では、一階にあった左側の扉も、鍵が掛けられて入れない気がする。
 見るものをみた俺達は、一度一階に降りて左の扉を確認するが、鍵が掛けられて入れなくなっていた。
 入れないなら仕方がないと、俺達はこの教会を後にした。
 教会を出た俺達は、行くべきところがある。

「教会の見回りも終わったことだ、もしもの為に、忍ばせられる武器を持って行かなければならない! つまり、ここは武器屋に行くべきタイミングだ!」

「あ、大丈夫だよ、私の予備があるから、それ持って行けば?」

 予備がある……だと?
 いや、予備があるとしても精々二本ぐらいだろう。
 全員の分には足りないはずだ!

「…………それは駄目だ。その予備はセリィの為に渡してやるんだ。いや、むしろガルスやドル爺の分も必要だ! もちろんこの俺の分もだ! やはり武器屋には行かなければならないだろう!」

「いや、セリィの分はもうあるから、私の予備も二本あるし。必要なのは一本ぐらいだから、私とセリィで買いに行って来るよ。マルクスは宿でも取って来て」

「セリィ、いく~!」

 このままでは俺が武器屋に行けなくなってしまうじゃないか!
 それは駄目だ、そうなったら剣が見れないじゃないか!
 もしレアな物が有ったらどうするんだ。
 俺が手に取ったり、買ったりできないじゃないか!

「それは駄目だぞ二人共! 全員に渡してしまったら、もしもの為の予備がなくなってしまうだろう! 帰りの旅の為にも、皆の分を新調するべきだ!」

「マルクスよ、お主どうしても武器屋に行きたいらしいな。まあ武器屋に行くのは構わんが、短剣以外は買うんじゃないぞ」

「そんなのは当然だろう、俺は隊の為に言っているのだから! 買うのは後でも出来るからな!」

「ああ、後で買うんだね。う~ん、マルクスは何時もと変わらないよね」

「よし、全員納得したな、納得したら武器屋に向かうぞ!」

「おい誰か納得したのか?」

「いや、儂は納得しとらんが」

「俺もしてないね」

「セリィも~!」

 まだ全員納得していないらしいが、このまま説得するよりはと、俺は武器屋に向けて足を進めていくのだが、武器屋の中には俺の持っている物しか置いていなかったのだ。
 結局小さく隠せるナイフを買い揃え、俺達は目的の日を待つのだった。

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