一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

62 マリア―ドの古都。

新たなる馬車を手に入れた俺達、馬に繋げて町から旅立つも、旅の途中にグリア―デが居ないことにハッと気づいた。戻ろうかと相談するが、時間的にあまり時間がないからそのまま進むことに。まあ三日ぐらいで戻れるから、そのぐらいなら死なないだろうと思っていたが、そんな俺達を追い越す黄色い物体が。あれは巨大化したヒヨコだと気付き、その背に掴まって、振り落とされそうになっていたグリアーデ。追って来たのかと、それを追い掛けるも、グリア―デはヒヨコに置いて行かれてしまう。置き去りにされたグリア―デに、ラミアという魔物が襲い掛かる。武器も持っていないグリア―デは如何にか逃げようとしているが、回り込まれて襲われる。俺達はなんとかそれを救う為、かなり遠くからセリィの弓をとばすのだった。かなりの力で引き絞られた弓は、人の力以上に距離を伸ばし、ギリギリ魔物を仕留めたのだった…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
グリア―デ・サンセット    (真の領主?)







「いやあああああああ、死ぬ、死ぬううううううううううううう!」

 倒れたグリア―デの横には、同じく倒れたラミアの残骸がある。
 まあ顔の横に白目をむいたそんな物があれば、怖くても仕方ないが、それはもう安全だ。
 俺達はバタバタと暴れるグリア―デを引きずり出し、ラミアの下から助け出した。
 そして自分が助かったと安心すると、俺達の事に気付いて罵倒しだす。

「貴方達、まさかこの私を置き去りにするとは思っていませんでした! 自分で言った約束も忘れるとは、この剣しか頭にないクズ! 私のことを敬いなさい! そして首都にまで連れて行くのです!」

 クズとまで言われるとは、まあ置いて行ったのは確かだし、多少は大目にみるか。

「失敬な、兵士や戦士であれば剣を大事にするのは当たり前のことだぞ」

「う~む、確かに、こ奴は剣の事ばかりのクズではあるが、一応隊の事とかも考えておるぞ。それ以外の事もそこそこやるが、まあ剣のことだけで百パーセントマイナスだがな」

 ドル爺め、マイナスとはどういうことだ、十パーぐらいはプラスだろうに!

「ちょっと待て、俺は隊のことは最優先で考えているぞ。それにどうしようもなくなったら、使うことだって惜しまない! そう、この火炎ひえん以外は!」

「煩(うるさ)いクズ! そしてあんたも酒臭いだけのジジイでしょう! 人のことを言う前に、その臭い口をなんとかしたらどうなんですか! 臭い、臭い、臭い!」

「いや、儂はそんなに飲んでないと思うんだがな…………」

「まあ確かに酷いよね、私も多少は控えて欲しいと思ってたよ」

「貴女も貴方です! 男の前で平気で着替えたり、裸になったりするなんて恥知らず! 女としての恥じらいはないんですか?!」

「いやいや、いちいち男達を追い出したら時間が掛かるだろ。旅してるんだし、外も危険だし」

「ラク、恥知らず?」

「ち、違うんだよセリィ、私はそんなのじゃないんだよ?!」

「貴女も、そんな体をして何も知らないなんて言わせませんよ! なんですかその胸! 何でそんなに大きいんです! そんなにあるんなら私に分けてください!」

「?」

 セリィ言われた意味が分かっていないらしい。
 まあたぶん、最後のはグリアーデの願望か何かだろう。
 まだガルスだけ言われていない。
 それにホッとして安心しているらしい。

「あれ、俺の事は何にも言わないのね? よかった~」

「貴方は普通なんだから普通にしていれば良いのです! この普通人間!」

「えっ? 普通人間って、それ誉めてるの? けなしてるの?」

「いや、知らんけど、普通だと言ってるんだから普通なんじゃないのか?」

「無視しないでください、ちゃんと私の話を聞きなさい!」

「「「「はいはい」」」」

「は~い!」

 俺達は適当に返事をして、それからもう少し罵倒が続く。
 まあ神都の部隊として低~い位置にいる俺達には、日常めいた言葉だ。
 特に全員怒る事もなく、ただそれを聞き流して行く。
 そして言う事だけ言いまくったグリア―デが、早く進めと馬車に乗り込んだ。

「もういいです! 早く私を首都に連れて行ってください!」

「やっと終わったか、じゃあ出発するぞ。ドル爺、頼む」

「おう、行くぞイーグル号!」

 これ以上言い合うのもなんだと、俺達は首都への旅路を続けるのだった。
 馬車の中はグリア―デが怒っているだけで、特に何時もと変わらなかった。
 言われた事を気にもしていないし、特にそれで変わる事もない。
 そしてマリア―ド首都に近づくにつれ、敵の襲撃は殆どなくなってきていた。
 魔物もキッチリ倒し、平和や秩序を維持しているのだろう。
 そんな安全な旅路が続き、やっとこのマリア―ドの首都に到着したのだった。

 この大陸最古の都市マリア―ドは、色々と年期の入った建物が多い。
 その為、町中の建物に修繕のあとが見られ、色や形がチグハグになっていたりしている。
 俺達の目的は、城での宝石の譲渡を行って貰うことだが、その約束の日まではほんの少しだけ猶予はある。
 魔物の出現が低かったから、多少時間的猶予が増えたのだ。
 まあ実際の所は、この町に入った時点で、王城へは通達が行ってるだろうが、早く着いたからと言って受け取りの日にちが変わることはない。
 取引場所のチェックでもしておくか?
 俺はそう提案しようと思ったのだが、先にグリア―デが俺達に命を出した。

「貴方達、城に向かってください! そこで私は再び、権力を手にするのですから! さあ早く!」

「俺達は別にお前の部下じゃないんだけどな。行くのなら勝手に行って貰っても構わないぞ」

「こんなボロボロの恰好で一人で行った所で、追い返されるだけでしょう! 貴方達が居れば、ミジンコ程度には約に立つかもしれません。貴方達だって報酬は欲しいでしょう?! いいからサッサと向かいなさい!」

 グリア―デが貴族だとしても、約束もないのに城に行っても良いものか?
 それなりの知名度があれば、軽く通ることも出来るだろうが、こいつにそんな実力があったり?
 このまま言うことを聞いて、行った方が良いのかと俺が悩んでいると、ドル爺がそれに賛成した。
 
「ふ~む、まあいいんじゃないのか? 一度城に挨拶に行くのも一興だろう。もしかしたらそれで全て終わらせてくれるかもしれんしな」

「俺も賛成。早く終われる可能性があるなら、行ってみてもいいんじゃないかな?」

「私もそれで良いぞ。どうせ行かされるんだし」

「そんな相談してないで、早くなさい!」

「「「「はいはい」」」」

「は~い!」

 セリィの元気な返事と共に、俺達はマリア―ドの城へと向かって行く。
 王国との戦いの為、まだ修繕が行われていない部分もあるが、おおむね町並みと同じで、結構色とかが変わっている。
 何時修繕された物か分かり易くしてあるのか、緑や赤、黄色と、派手さが際立っている。
 もう元の下地が一体どの色かさえも分からないが、そんな城へと馬を走らせた。
 マリア―ドの城の前、派手な城とは違い、深い青をベースとした鎧を着ている普通の兵士達が、門を護っている。
 俺達を見ると、門を塞ぐように、二人の兵士が長い槍で行く手をさえぎった。

「見て分かるだろう、ここはマリア―ドの城だ。用のない者は立ち去るがいい」

「それとも、牢獄にでも行きたいのか? 捕まえて欲しいのならそう言え、今直ぐ牢へ送ってやる」

 止められるのは仕方がないが、そんな事はお構いなしに、グリア―デは門番に詰め寄った。

「貴方達、ラングリオの町の領主、グリア―デ・サンセットが王城に到着したと上に伝えなさい! さあ早く!」

「ラングリオの町だと?」

「あの町は確か、ワルザー様が治めているが…………いや待て、その前に落ちぶれたサンセットという領主が居たと聞いたことも?」

「誰が落ちぶれてるっていうの! 貴方達が何を言おうと、あの町はこの私に治められるのが正道なのです! いいから王に面会を希望します、上に伝えなさい!」

 グリア―デのうったえが聞いたのか、二人が話し合っている。

「おいどうする、伝えた方がいいのかこれは?」

「本物かもしれないし、一応伝えとこう。まあ何か有ったら上が判断するだろう。ではそこで待っていろ」

 一人の兵士が城に入り、俺達はそのまま待たされている。
 そのまま待っていると、先ほどの兵士が戻って来た。
 そしてグリア―デに向かってこう言った。

「もうワルザー様が領主になったのは確定してるので、今更訴えても無理だってことだ。上も会わないって言ってるから、もう諦めて帰ってくれ」

「なんですってえええええええええええええええ!」

 まあ大体予想がついたけど、やっぱり断られたらしい。
 支度金すら貰えなかったグリア―デは、ただその場で絶叫するのであった。

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