一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

54 お金が足りなくて進めない。

サイクロプスと戦いが始まった。大きいわりに振り回される棍が恐ろしい為近づけず、ラクシャーサがゴーレムを呼び出すもたった二発の攻撃で粉砕されてしまう。だがそのたった二発の間にサイクロプスに近づいた前衛陣は、丸太のような足を斬り裂いた。それでも危険な為直ぐに離れ、ラクシャーサの熱湯の魔法が直撃した。その体全体に火傷を負うが、その傷は再生を始めている。だがそれも傷が増える度に再生能力が落ちるのに気付く。一撃に賭けるのはまだ早いと、俺達は敵の体を攻撃し続ける。それも決定打に欠け、何方がじり貧なのか分からない状態に。刀しかない俺は、魔法を使うのを躊躇うのだ。他に何かと考えた俺は、ゴーレムの背に乗って、その首元を斬り裂いた。多量の血が噴き出すも、その傷もゆっくり再生されてしまい、ちょっと不味いかと思ったが、血を作るのが間に合わず、サイクロプスはフラフラと動きを遅らせる。俺達はチャンスと見て一気に畳み掛け、倒れた相手にも確実に止めを刺したのだった…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
グリア―デ・サンセット    (真の領主?)
ヘン(塔の調査員)
グレ(塔の調査員)






 サイクロプスを倒した俺達は、正直このまま探索するのかを悩んでいた。
 このサイクロプス一体でも、相当な強さだったのだ。
 これを倒して十万ゲットなんて喜べないレベルの強さだし、他の柱にはこれ以上の強さのものが潜んでいてもおかしくはない。
 もうこれで切り上げた方がいいかもしれない。
 そう思った俺は、全員に撤退の意思を伝えた。

「たった一つしか開けていないが、二つ目を開けるのは止めておこう。これ以上は生命に関わるからな」

「でもさでもさ、それだけじゃ全然足りなくない? それだとまた歩きになっちゃうよ。此処から歩いて行くのは、またすごい大変だよね?」

「うむ確かに、馬車に追いつけなかった魔物まで寄って来るからな。もうあんなのはごめんだわい」

「て言ってもさ、次の扉開ける勇気あるのか? もしあんなのが二匹出てきたら勝ち目がないぞ」

「う~ん、なら別の仕事をさがしてみるとか? どうするのマルクス?」

 皆が俺の顔を見ている。
 このまま探索を続けるのは論外だ。
 まず俺の武器が火炎ひえんだけでは全然足りない。
 しかも魔法で武器が壊れてしまえば、逆に赤字にもなりかねないのだ。
 やるなら必要な物全部を上層階に上げて、慎重に何日もかけてやるべきことだが、俺達にはそんな時間はない。
 任務の為には急いで先に進まなければならないのだ。

 とはいえ、先に進む為には資金がいる。
 この報酬、たった十万では馬を買うには不足だが、幸いグリア―デに支払わなかった分の金はまだ残されている。
 今回の報酬と、その分で何か何か方法は…………

「…………いっそ俺達で、荷車を作ってみるか? 多少雑であっても動きさえすれば問題無いからな」

「う~む、簡単に言うがな、たかが荷車とはいえ、そう簡単には作れんぞ? 頑丈に作らねば魔物の攻撃にも耐えれんし、動かしただけでも壊れる恐れがあるからな。それに相当時間が掛かってしまうぞ」

「だったらそうだな……材料は持ち込みで職人を雇ってしまうか。大事な部分だけ作らせて他の部分は俺達でなんとかしよう。それなら相当時間が短縮できるだろう、デザインなんてどうでも良いしな」

「まあそれが一案安全かもな。じゃあ下に戻るか」

「そうだな」

 双子からは倍額にしてもいいから続けてくれと言われるが、俺はそれを断り下層へと戻って行った。
 報酬は問題無く支払われ、ラクシャーサとドル爺、それにセリィは、馬車作りに向かってもらっている。
 セリィとドル爺が居れば力仕事は充分だし、ラクシャーサはあれで器用な所があるから細かいところもやれるだろう。

 俺とガルスはというと、やはりここはギルドだと、良い依頼はないかと見に行くのだった。
 この町のギルド、やはり壁に埋もれたようなそんな建物で、周りの建物や壁に同化している。
 ただマークだけはギルドのそれを示し、此処がそうだと告げていた。
 俺とガルスはそのギルドに入り、依頼ボードを見つめている。

 色々と依頼が張り出されているのだが、その中の半数以上を占めている物がこの塔にまつわるものだった。
 そしてその依頼書の殆どが、グレとヘンの名前が書いてある。
 内容はというと、俺達がやったものと全く同じものだ。
 第十層ぐらいから、二百五十五階にまで、ずっとそれが続いている。

「はぁ、なんか必死だよね。でもそんな高い所までやらなくても別に困らないと思うんだけどなぁ」

「いや、塔を制覇して行けば安全な場所がそれだけ増えるんだ。高い景色を見たいと思う者も居るだろう。金を持っているなら、それだけでも金で買いたくなるものだ。それに家畜を買ったり農地を広げるにしても、どれだけ広い土地があっても困らない。といっても、あんな魔物の強さでは、やる人間も少ないみたいだがな」

 ギルド内には大勢の人間が居るのだが、一つとしてそれが剥がされていない。
 それ以外の依頼書はバンバン剥がされて行くのに、それだけが残されている。
 この町の者は、それがどれだけ危険か理解しているのだろう。

「ふ~ん、で、俺達はどんなのをやるつもりなのさ?」

「それを今探しているんだが…………」

 俺は依頼ボードを指でなぞり、見渡して行く。
 塔関係を外すとなると………ペットの捜索、町の外を調査し魔物の討伐。 
 人探し、仲違いした仲間と仲直りしたいとか、まあ本当に色々あるが、やはり軽いものだと高額なものは見当たらない。
 ならもう少し高い物はと見渡していると、ギルドの係員が依頼書を、追加で張り出している。
 俺の近くに張られたその中から、一つだけ興味を引くものを見つけたのだ。
 これも塔関連だが、あまり危険な物ではない。
 内容はというと、二百階層にある別荘から逃げ出したペットの捕獲。
 まだ完全に制覇されていない階層の為、危険度はそれなりに高く設定されている。
 罠に掛からなければ、魔物の戦闘もないだろう。
 報酬はペット探しにしてはかなりの高額で、あの魔物退治よりも全然美味しいものだ。
 見つければ百万、充分な額だ。
 最初からギルドに行っておけば、こんなに苦労しなかったかもしれない。
 それを取るべきか悩んでいると、他の冒険者達も集まって来ている。
 俺は他の奴等が剥がす前にと、その依頼書を破り取り、ギルドの受付でそれを受けたのだった。

「ん~と、マルクス、どんなのを選んだの?」

「二百階層のペット探し、今度こそ簡単なものだ。敵は出て来ないとは思うが、一応武器は取りに行った方がいいかもな」

「じゃあ宿に戻ってからだね。というかその刀も、使わないんなら置いて行けばいいんじゃない? 腰に差してるだけじゃ重いだけでしょ」

「違うぞガルス、刀とは腰に差さなければ駄目なのもなんだぞ。そう、これはブシの魂なんだからな!」

「ブシって何だろ? まあいいや、じゃあそれが壊れたらマルクスも死んじゃうんだね?」

「その通りだガルス、この刀が壊れてしまえば、俺はボロクズの様倒れ伏し、百パーセントやる気を失うだろう。もしそうなってしまえば、お前達もピンチと化してしまうぞ。出来る限りこの刀に配慮して欲しい」

「…………やっぱり置いて来た方がいいんじゃないの?」

「それは無理だ!」

 ガルスの問いに、キッパリと答えた俺は、宿から武器を持ち出し、依頼の場所へと向かうのだった。


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