一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

53 サイクロプス。

ツナギを着た双子に、俺達は塔の二百五十五階にまで連れて行かれた。転移装置を使い楽々行けたのだが、その双子に丸投げされると俺達はこの階の調査に向かう。何処を探そうかと相談するも、結局総当たりしかないと手前にある柱の入り口を覗いたのだ。かなり大きな扉の中は暗く、一つ目の巨人の石像がある。その中を調べようと扉を開くが、石だったその石像の色が変わり出した。動き出した一つ目のサイクロプスと、俺達の戦いが始まった…………


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
グリア―デ・サンセット    (真の領主?)
ヘン(塔の調査員)
グレ(塔の調査員)






 俺達を狙うサイクロプスの攻撃は、この巨大な塔を揺らすが如く、強烈で苛烈なものだった。
 その巨大な棍の一撃は、自分の眠っていた柱の壁を粉砕し、地面の一部をひび割れさせる。
 まあそれで崩れる程軟い造りではないのは嬉しいが、その威力の程は知れるというものだ。
 やはり受け止められるレベルの攻撃ではなく、避けるのが正解だったらしい。
 だからと言って、近寄らなければ攻撃が当たらないのは、前衛の辛い所だ。
 だがそれも、その道筋も、仲間達が用意してくれる。

「泥の渦よ、我が力を伝える形となせ! 現れよ、土塊つちくれ人人形ひとにんぎょう!」

 ラクシャーサのゴーレムが、サイクロプスの攻撃を受ける盾となる。
 相手の四メートルと、二メートルでは大人と子供程に違うものだが、それでも二発、たった二発だけでも耐えてくれたのだ。
 俺とガルス、それにドル爺は、ゴーレムが壊れる寸前に、敵の懐に滑り込んだ。

「二人共、一気に斬り刻むぞ! この一瞬で立てなくしてやれ!」

「おお、儂の槍に任せるがいい!」

「や、やってやるうううう!」

 俺は右脚、ガルスが左に、ドル爺は正面から敵へと攻撃を仕掛ける。
 だが俺の腰には火炎(ひえん)しかないのである。
 敵が出て来ないからと油断してたから仕方ないが、今は躊躇ためらっている場合ではないと、俺は腰から火炎ひえんを引き抜いた。

 ヒュヒュン!
 俺達の攻撃は、サイクロプスの足を切り裂き、ドル爺の突き上げる槍の一撃は相手の胸へと突き刺さる。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 相手は大きく叫び、棍を激しく振り回す。
 それを見ると俺は、もう一度ヒュッと脚を斬り裂き、直ぐに相手との距離を取った。
 かなりの深手を負わせた思うのだが、膝を突くには足りないらしい。
 ガルスとドル爺も同じように敵から離れ、後方からセリィの矢と、そして動きが鈍ったサイクロプスに、ラクシャーサによる極熱の水の魔法が発動する。

「私、やる!」

「炎熱の力よ、我が属性に力を与えよ! さあ顕現せよ、燃え盛る、神の水! いけえええええええええ!」

 巨大な目を狙ったセリィの矢は防がれたが、ラクシャーサが放った極熱の水は、その頭から直撃したのだ。

「ラク、ごめん、はずした」

「いいんだ、このまま続けるぞ!」

 熱湯はその体に大きな火傷を負わせたが、その傷が、たちどころに治り始めている。
 それだけではなく、俺の負わせた傷も、治り始めていたのだ。
 これ程の再生能力のある魔物か、かなり厄介だ。
 撤退も視野に入れなければならないか?

 時間を掛けて攻防を続ける俺達だが、相手の傷は塞がり続けている。
 ただ、その傷が増える度に、回復能力が落ちている。
 いや、分散されているのかもしれない。
 火傷の痕は残されたままだし、大きな傷は完全には塞がっていない。

 …………つまりは、このまま再生能力以上の攻撃を与え続け、相手が倒れるまで持久戦を続けるか、このサイクロプスの心臓、もしくは脳を一撃で破壊するしかない。

「ラクシャーサ、ゴーレムを出来るだけ出せ! 手数を増やして相手にダメージを与え続けろ! セリィはそのまま目を狙え、相手がガードするのならそれだけ楽になる」

「分かった、じゃあゴーレムを出すからね!」

「セリィ、頑張る!」

「ガルス、ドル爺、少し危険だが、前に出続けて攻撃を続けるぞ。回復能力以上に傷を与えてやれ! ただし、攻撃は受けるなよ! さっきも言ったが受けたら普通に死ねるからな!」

「マルクス、そういうのを待っとったぞ! 儂の槍捌きを見せてやるわい!」

「どうせやらなきゃ倒せないんだし、俺もやるよ! なるべく後ろ側に回るけど…………」

「では各自散開、狙われたら無理せず逃げろ。さあ行くぞ!」

「「「応!」」」

「お~!」

 正面に三体のゴーレムを配置させ、俺は再び相手の右脚へと配置についた。
 
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「とりゃああああああああああああああ!」

「てやああああああああああああ!」

 連斬、連刺、連打どれもこれもが傷を与え、相手の体力を削って行く。
 その度に傷の治りはゆっくりと遅延するが、決定的なダメージは与えられない。
 しかし、こんな時ではあるが、正直俺は迷っている。
 決定的なダメージを与える為には、魔法を使えば良いのだが、もう一度言っておくが、今俺の腰にあるのは武器は火炎ひえんだけしかない。
 もし魔法を使って、この刀が崩れ落ちでもしたら、俺は一体どうしたらいいのか。
 というか、もし魔法を使って刀が壊れてしまえば、俺はタダの役立たずで、ダメージ量が減れば他の皆も辛くなってしまう。
 決して刀が失ってしまうのが怖いだけじゃないのだ!

 しかし、このまま続けても何時まで掛かるのかも分からない。
 ゴーレムを操るラクシャーサの魔力も持つのか微妙だ。
 魔法を使わず勝つ為には………… 

「やってやれない事はないか? ラクシャーサ、次のゴーレムはゴーレムの背後につくれ!」

「何をするか知らないけど、分かった!」

 サイクロプスの前に並ぶゴーレム三体。
 ガンと一体が壊され、残された二体の後ろにもう一体が作られようとしている。

「泥の渦よ、我が力を伝える形となせ! 現れよ、土塊つちくれ人人形ひとにんぎょう!」

 俺は急ぎその上へと乗ると、その頭を踏み台にして、前にあるゴーレムを踏みしめ更に飛ぶ。
 暴れる腕の上をすり抜け、俺はその首元を斬り付けた。

 ザンッと首の横から後方へと抜け、サイクロプスの首からは赤い血が噴き出ている。
 だがそれもゆっくりと収まるり、これでも駄目かと別の手を考えようとするのだが、それより俺の身が不味いことになっていた。
 …………四メートルって結構高いよな。
 このまま刀を持って手を突いたら絶対この刀に傷がつく。
 それだけは駄目だと剣を鞘に納めるが、着地が間に合わずゴロゴロと転がり、意外と痛くてビックリしたのだ。
 だがそれでも直ぐに後を振り向き、攻撃体制をとるも、サイクロプスの動きがにぶくなってきているのに気付いた。
 なる程、傷は治るが血はそうはいかない。
 例え血まで再生するとしても、それを作る為には体の水分も奪って行くのだ。
 相手は貧血状態で、ここが攻撃のチャンスだ!

「今だ! 全員で畳み掛けろ!」

「おおお、やってやるわい!」

「これなら安心して戦えるよ!」

「行けゴーレム!」

「セリィ、やる!」

 五人の攻撃は、敵の体を確実に傷つけ、そして…………
 俺は最後の止めにと、サイクロプスの股下から盛大に斬り上げた。

 サイクロプスは膝を突き崩れ落ちるも、流石にもう大丈夫だとは思いつつ、全員が全力で止めを刺したのだった。


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