一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

46 洞窟に隠れ潜むもの。

仲間に怒られたが、まだ諦める時間ではない。今後じっくり集めれば良いと、今後の事を考えつつセリィに殴られた。吹っ飛ばされた俺は随分酷い状態だったらしく、ラクシャーサにより回復され、皆に優しくされるのだった。そんな状態の為に、宿で休息を取り回復をした俺だが、無一文のグリアーデに金を渡そうとするが断られてしまう。俺達と同行し、首都に向かいたいという言葉に、それもいいかと受け入れた。充分に用意が出来た俺達は、町を出発して次の町へと進んで行くのだが、途中巨大な川があり行く手を阻まれる。地図を見て確認すると、地下洞窟により向う岸へと行けるらしい。その場にいどうすると廃屋があり、その中に地下へと続く洞窟があった。だがその洞窟には馬車が侵入出来ず、積み荷を選んで馬だけを移動させる事に決めたのだった…………

マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)
ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)
ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)
ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)
セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘。エルフ種)
グリア―デ・サンセット    (真の領主?)






 積み荷の一部を馬に括り付けて行くのだが、水、食料、後は鉄鍋、それだけでも結構ゴテゴテしているが、俺の剣を十本取り付けると、もう流石に重すぎるかと思い、残りは自分で運ぶことになった。
 計十一本、それだけで二十数キロ、鎧も着こんでいるから俺の重量としては相当ある。
 洞窟を抜けるまでぐらいならなんとかなるが、町にまで進むのは相当辛いかもしれない。
 だが剣の一本でも置いて行く事は出来ない!
 やらなければならないのだ!
 俺は背なかに七本、腰に四本を差し、準備が出来た。
 背中の七本は抜く事は出来ないが、腰の四本なら何時でも抜ける。
 腰にはブロードソード三本と、大切な火炎ひえんもある。
 馬を階段の下にまでおろした俺は、旅の出発を宣言した。

「さてと、準備は出来た。じゃあ行くとしよう」

 だがそれはラクシャーサにより呼び止められてしまう。

「お~いマルクス、それ背負い過ぎじゃないのか? 絶対邪魔だろそれ」

「う~ん、確かに邪魔そうだよねそれ。戦いになったら邪魔になるんじゃないのかな?」

「うむ確かにな、少しぐらい此処に降ろして行けばいいんではないか? 帰りにまた拾えるのだからな」

 三人がこの姿に反対しているが、これは充分有用なのだ。
 それに剣を置いて行くのは絶対反対だ!

「何を言ってる! こんな所に置いて行って錆(さび)たら如何するんだ! 凄く手入れが大変なんだぞ!」

「お主、儂等に言った事を忘れておるな…………まあいいわい、その頑固さに負けたわ。少し持ってやるから寄越すがいい」

「セリィも持つ~!」

「持たなくても大丈夫だ。これは邪魔にならないし、背中に有る分防御力も上がっているはずだ! だからこれは俺が運ぶ!」

「あ~もう、いいよ、自分で持ちたいなら持てばいいじゃん! その代わり、後で泣いてもしらないからな!」

 俺は後悔はしない、これは大事なコレクションだからな。
 そんなやり取りを急かしつける人物は、町から追い出されたグリア―デだ。

「決まったなら行きましょう。私は一刻も早く首都に向かわなければならないのです!」

「ふ~む、確かにわしらも急がなければならない。では行くとしよう皆のもの!」

「そうだな、行こうか」

 ラクシャーサがランタンの灯りをつけ、暗い洞窟の中で俺は先頭を進んで行く。
 この地下洞窟は、ただ真っ直ぐ進むと思っていたのだが、どうもそれは違うらしい。
 右に左に曲がりくねり、たまに分岐したりしている。
 分岐した道もそう長くは続かず、百メートルもしない内に行き止まりとなっていた。
 たぶんだが、この洞窟は、三十メートル程は地下に掘られているだろう。
 深く掘らないと上の川ににより潰されるからと、かなり無理をして掘ったらしい。
 十年か、二十年か、かなりの年月がかかったのだろうが、それもずいぶんと昔の話なのだろう。
 少なくともここ数年ではない、たて付けられた木材の枠は、かなりの劣化が進行している。
 それだけならまだいいが、この洞窟の中には激しい獣臭と、その獣の物なのか、大きな糞が落ちていた。

 まだ臭いもあり、そう古い物ではない。
 この洞窟の中には、間違いなく何かが潜んでいる。
 ただの無害な動物であるならいいが、魔物である可能性も充分にあるだろう。
 注意して進まなければと、俺は全員に呼びかけた。
 まあ呼びかけるまでもなく全員気づいているだろうが。

「全員注意しろ、この洞窟に何か居るのは確実だ。食料の臭いに襲って来るかもしれない。全方位に意識を張るんだ」

「まあこの臭いを嗅げば誰でも分かるな。さて、何が出るやら」

「ほらガルス、盾役なんだから一番前に出ろよ。真ん中に居たら意味ないだろ!」

「わ、分かってるって、行くから押さないで!」

 ガルスがラクシャーサに押されて、俺の前に出た。
 盾を構えて敵を警戒しだす。
 だがこの中で一人だけ怯えているのは、戦う術がないグリア―デだ。
 暗く地下の洞窟で魔物に襲われているんだ、怯えるのも無理はないが。

「あ、貴方達、ちゃんと私を護ってくださるんですわよね?! こんな所で死ぬのはごめんですよ!」

「別に俺達は護衛を引き受けた訳じゃないからな、出来る限りは自分の身は自分で護ってくれ」

「こんな場所にまで連れて来て、護ってくれないのですか?!」

「護るにもここは狭すぎるからな。もし戦闘になったら、邪魔にならない様にしゃがんでいてくれ」

「絶対負けないでくださいよ、私はこんな所で死ぬ気はないですから!」

「ああ、俺達もそのつもりだ」

 分岐する道を一つ一つ潰して行くが、いまだに敵の襲撃はない。
 俺達の気配を知り、警戒して距離を取ったか?
 まあ何が待っているにしろ、俺達は先に進むしかないのだが。
 警戒し続けながら進み、たぶん川の中心辺り、更に臭いはキツクなり、セリィが顔をしかめ始めた。

「ラク~、臭い~」

「私も結構キツイんだけど。う~ん、少しだけ持って来た服で鼻と口を覆っておこうか」

「俺達もそうしよう、この臭いで肺をやられるかもしれないからな」

「うむ、そうしよう。だがガルスは警戒を解くなよ?」

「えええ、俺だけそのまま?! そりゃないよ~」

「安心しろ、俺が後ろから縛ってやるから、そのまま前を警戒しとけ」

「うう、わかったよ~」

 俺がガルスの口元に布をかぶせてやるが、ほんの一瞬布でガルスの視界が塞がれてしまった時、そのほんの少しが状況を変えたのだ。
 暗闇に潜み周りの壁に擬態していたその魔物が、突然ガルスの前に現れた。

「んあああああああああああ、来たあああああああ!」 

 魔物は二体、いや三体だ。
 体や頭は薄く、背中や頭には岩の様になっており、動いていなければ本当に分からない。
 俺はガルスの布を結ぶのを放棄し、腰のブロードソードを引き抜いた。
 ガルスは正面の一体を盾で防ぎ、俺はガルスの首元から右の奴に突きをくらわす。
 左側からはドル爺の長い槍がガルスの首元を通り過ぎ、その魔物の頭へと突き刺さっている。

「こわ! 怖いよ二人共! 動いてたら俺死んでたじゃないか!」

「文句は後で聞いてやる。まだ一体残っているんだ、目を離すんじゃない!」

「うむ、見失ったら厄介だぞ。セリィよ、矢を射かけてマーキングしてやれ!」

「ん、わかった!」

 ランタンの光から逃げ、自分の体を隠そうとしているその魔物に、必中の矢を放つ。
 俺達の体の隙間を抜け、天井ギリギリにまで高さを保ち、逃げる敵の背中へ急降下する。
 ザンと地面にまで貫通した矢が敵の動きを止め、それでもしぶとい魔物はバタバタと暴れ続けている。

 先頭を歩くガルスがそれに止めを刺し、俺達はこの洞窟を進んで行くのだった。

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