一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
39 魔物の生態調査。
俺はギルドの受付、アリア・バンビーナへと依頼書を渡した。
「では依頼を受け付けましたので、早速依頼者の元へ向かって貰いますが、その前にこれをお渡しします」
手渡されたのは先ほどの書類とは違う紙の束で、すべて同じ物だ。
線のみが引かれているが、このままでは全く用途がわからない。
俺はアリアにこの紙の使い道を聞いてみることにした。
「これは?」
「はい、ギルドは今後の為にも、敵の強さや冒険者の力を数値化しようと思っています。ですから倒した魔物や、見かけた魔物のデータを集めて欲しいのです。ビル様の依頼は、此方としても必要なことなので、この機会にやってもらおうかと。もちろんその分の報酬はお支払いします。ですから是非お願いします」
なるほど、能力の数値化か。
確かに、敵の種類や数値が分かれば、自分の能力で倒せるかの目安にもなるだろう。
何より依頼のついでに出来て、金を貰えると言うのが良い。
「分かった、それを受けよう。では俺達は依頼者の元に向かおうか」
「皆様にご武運を、行ってらっしゃいませ」
ギルドから出た俺達は、依頼者であるビル・クリフの元へ向かった。
この町の入り口付近にある小さな藁ぶき屋根の家。
ぱっと見そんなに金を持っていなさそうだが、使っていないだけの可能性もある。
見た目だけで判断してはいけない。
俺はその扉を叩くと、一人の男が現れた。
四十近いこの男こそがビル・クリフだろう。
ボサボサの黒髪には、所々白いものが混じり始めている。
眼鏡をかけた細身の男だ。
カジュアルな服装で、その上に白衣を着ている。
「はいはい何方様ですか。此方は動物研究所改め、万物生体研究所で~す。何かご依頼ですか、それとも私にご用ですか? なんにしろどうぞお上がりください、さあどうぞどうぞ」
「いや、俺達はアンタの依頼を受けに来たんだが…………」
「おお、やっと来ましたか! 直ぐに準備しますから、早速調査に向かいましょうか! …………いやその前に、私の助手に連絡しなければ」
いきなり俺達を置いて、走って行ってしまうビルさん。
追い掛けなければと思い至った頃には、もうその姿は見えなくなっていた。
「お~い、マルクス、追い駆けなくてもいいのか? 見えなくなっちゃったぞ」
「…………今更だな。追い掛けて道に迷うよりは、此処で待ってた方がいいだろう。どうせ戻って来るだろうしな」
「どうにも慌ただしい奴だわい。こりゃあ案外大変な依頼かもしれんぞ」
「いやいや、この依頼ドル爺が選んだんでしょ。他人事の様にいわないでくれよ」
「細かいことを言うでないわい。そんなんだから女にもてんのだ」
「そそそそそんな事ないよ、俺だってモテたりする気がしないでもないんだよ。セリィは俺の事好きだよね? ね?」
「セリィ、ガルス好き!」
セリィにはモテてるな。
ただし、セリィは俺達の全員に好きだと言いそうだが。
そしてその保護者であるラクシャーサは怒りだしている。
「おいコラガルス、まさかモテないからって、セリィの事を狙ってるんじゃないだろうな?! ゼ~ッたい駄目だからね!」
そういって弓に手を掛けようとしている。
「し、知ってるよ。しないしないしない!」
このまま他愛無い会話をし続け、一時間ほど待たされたが、助手の一人を連れて、ビルさんはこの家に戻って来た。
連れているのは、オレンジ色の髪をしたツインテールの少女で、十歳程度だろう。
動きやすい服装に、ビルと同じような大きな白衣を着ている。
護衛対象が二人になってしまったが、一緒に行動して貰えば、それほど難しくないだろう。
「ふいいいい、皆様、お待たせしました。助手のメリー君が中々起きなくてね、起こすのに手間取ってしまいましたよ。ほら、挨拶なさいメリー君」
メリーと呼ばれた少女は、手を上げて元気よく挨拶している。
「はい先生! 私メリー、ビル先生の助手をさせて貰ってます! よろしくお願いします!」
「ああ、此方こそよろしく。俺はマルクス、こっちにいるのは…………」
俺達全員の自己紹介をし、町の外へ出かける準備をしている。
徒歩だと時間が掛かり過ぎるので、馬を使うらしい。
それを聞いた俺は、ビルさんに提案し、馬の居なくなった荷台に、馬を繋ぐことを提案した。
ビルさんはそれを受け入れ、自分達の馬車で探索することになる。
あの荷台には、何時も使っている荷物が積んであるのだ、準備の必要もない。
もしかしたら最終的に馬をくれるなんて話にもなるかもだ。
そうなればいうこと無しなのだが…………
町の直ぐ外。
流石にこの辺りには魔物の気配はない。
そんな辺りを見回し、ドル爺がビルに尋ねた。
「この辺りには魔物は見当たらぬようですが、それでクリフ殿、何処から見て回るのですかな?」
「そうですねぇ…………とりあえずは適当に移動してみてください。発見次第調査をしましょう」
特に指定場所はないらしい。
依頼書には魔物の調査と書いてあったが、見つけた魔物を片っ端にということだろうか?
一応聴いておくか。
「ビルさん、魔物の調査ということでしたが、それは殆ど害にもならないものでも全てでしょうか?」
「それはもちろん当然です! 害がないのならばそれを記すことで、今後それが害の無いものだと分からせる事ができますからね! それに例えその魔物が害がなくても、同じタイプで害がある魔物が出れば、その対策にもなるかもしれません! 色々と使えるのですよ!」
「先生の言う通りです! ちゃんとキッチリ働いてくださいね!」
ビルにズイっと迫られ、助手のメリ―はそれに同意し、頷いている。
「そ、そうか、では見逃さないように移動しないとな。セリィ、頼めるか?」
「ん! セリィ頑張る!」
セリィは俺の頼みを聴き、荷台の屋根へと上り、周囲の見張りを始めるのだが、すると十秒も経たず、魔物の居場所を発見してしまう。
「セリィ見つけた!」
「おっと早いな、何処だセリィ?」
「あっち!」
指さす方向を見てみたが、その方向には本当に低い草むらぐらいしか見当たらず、魔物の影は見当たらない。
ガルスがそれを確認している。
「う~ん、俺には見えないなぁマルクスはどう?」
「俺も見えんな」
だが俺達はセリィの感覚を信用している。
例え俺達が見えないからと、魔物が居ないとは限らない。
俺はその方向に馬車を進める事を提案した。
「ドル爺、進んでみてくれ」
「おうよ!」
馬車を進ませて行くが、何も見当たらなかった。
だがセリィは近くの地面を指さす。
「そこ!」
その場所をよく見ると、草むらの中に緑色の丸い物体があった。
掌を二つ並べた程度の大きさしかないが、間違いなく魔物だ。
ビルも見て驚いている。
「おや、これは…………スライム種と呼ばれるものですね。保護色になっていて見つけるのは大変ですが、よく見つけましたね。メリー君、早速調査をしましょう」
「はい先生!」
「おい待て、小さいと言っても魔物は魔物だ。人を見たら襲って来る…………」
俺の注意を聴かず、二人はスライムと呼ばれる魔物に近寄って行く。
馬車から飛び降り触ろうとするが、ビルの顔面に跳びかかられ、顔に張り付いてしまっていた。
「ぐぼ…………」
「せ、先生! 大丈夫ですか先生?!」
「悪いがちょっと痛いぞ!」
このままでは窒息すると、俺は急いでスライムを引っぱたいた。
力強く叩くと、それは弾けて水のように消えていく。
スライムは消滅したが、ビルの顔面が少し焼けてしまっている。
これは治療しないと不味いな。
「いったああああああああああい!」
「ラクシャーサ、治療を頼む」
「ああ、任せろ!」
ラクシャーサによる治療を終え、馬車に戻ると、ガルスがギルドからの依頼の紙を見て悩んでいた。
「それでさぁマルクス、この紙にはなんて書こうか? 強さの数値は千までってことらしいんだけど」
ふむ、子供が襲われれば危険だが、冒険者や戦士、兵士としてもこのぐらいは軽く倒して欲しいレベルだ。
「そうだな、一番弱い設定でいいんじゃないか? 戦いを生業としている者として、こんなものを倒せないんでは、冒険者という職業自体やめた方がいいだろう。それと、子供では比較的危険だと書いといてくれ」
「分かった。じゃあ他にも色々あるけど、速さや力とかも壱でいいんだよね? じゃあ名前は? 適当に付けちゃう?」
その質問に答える前に、ビルさんがそれに答えてしまったのだ。
「名前はスモール・グリーンスライムです! 今私が命名しました! サイズによってグリーンスライム。ビック・グリーンスライムとしましょう!」
「流石です先生!」
「…………じゃあガルス、それで書いといてくれ」
「ん、了解」
殆ど見たまんまだが、分かり易いからいいだろう。
「では依頼を受け付けましたので、早速依頼者の元へ向かって貰いますが、その前にこれをお渡しします」
手渡されたのは先ほどの書類とは違う紙の束で、すべて同じ物だ。
線のみが引かれているが、このままでは全く用途がわからない。
俺はアリアにこの紙の使い道を聞いてみることにした。
「これは?」
「はい、ギルドは今後の為にも、敵の強さや冒険者の力を数値化しようと思っています。ですから倒した魔物や、見かけた魔物のデータを集めて欲しいのです。ビル様の依頼は、此方としても必要なことなので、この機会にやってもらおうかと。もちろんその分の報酬はお支払いします。ですから是非お願いします」
なるほど、能力の数値化か。
確かに、敵の種類や数値が分かれば、自分の能力で倒せるかの目安にもなるだろう。
何より依頼のついでに出来て、金を貰えると言うのが良い。
「分かった、それを受けよう。では俺達は依頼者の元に向かおうか」
「皆様にご武運を、行ってらっしゃいませ」
ギルドから出た俺達は、依頼者であるビル・クリフの元へ向かった。
この町の入り口付近にある小さな藁ぶき屋根の家。
ぱっと見そんなに金を持っていなさそうだが、使っていないだけの可能性もある。
見た目だけで判断してはいけない。
俺はその扉を叩くと、一人の男が現れた。
四十近いこの男こそがビル・クリフだろう。
ボサボサの黒髪には、所々白いものが混じり始めている。
眼鏡をかけた細身の男だ。
カジュアルな服装で、その上に白衣を着ている。
「はいはい何方様ですか。此方は動物研究所改め、万物生体研究所で~す。何かご依頼ですか、それとも私にご用ですか? なんにしろどうぞお上がりください、さあどうぞどうぞ」
「いや、俺達はアンタの依頼を受けに来たんだが…………」
「おお、やっと来ましたか! 直ぐに準備しますから、早速調査に向かいましょうか! …………いやその前に、私の助手に連絡しなければ」
いきなり俺達を置いて、走って行ってしまうビルさん。
追い掛けなければと思い至った頃には、もうその姿は見えなくなっていた。
「お~い、マルクス、追い駆けなくてもいいのか? 見えなくなっちゃったぞ」
「…………今更だな。追い掛けて道に迷うよりは、此処で待ってた方がいいだろう。どうせ戻って来るだろうしな」
「どうにも慌ただしい奴だわい。こりゃあ案外大変な依頼かもしれんぞ」
「いやいや、この依頼ドル爺が選んだんでしょ。他人事の様にいわないでくれよ」
「細かいことを言うでないわい。そんなんだから女にもてんのだ」
「そそそそそんな事ないよ、俺だってモテたりする気がしないでもないんだよ。セリィは俺の事好きだよね? ね?」
「セリィ、ガルス好き!」
セリィにはモテてるな。
ただし、セリィは俺達の全員に好きだと言いそうだが。
そしてその保護者であるラクシャーサは怒りだしている。
「おいコラガルス、まさかモテないからって、セリィの事を狙ってるんじゃないだろうな?! ゼ~ッたい駄目だからね!」
そういって弓に手を掛けようとしている。
「し、知ってるよ。しないしないしない!」
このまま他愛無い会話をし続け、一時間ほど待たされたが、助手の一人を連れて、ビルさんはこの家に戻って来た。
連れているのは、オレンジ色の髪をしたツインテールの少女で、十歳程度だろう。
動きやすい服装に、ビルと同じような大きな白衣を着ている。
護衛対象が二人になってしまったが、一緒に行動して貰えば、それほど難しくないだろう。
「ふいいいい、皆様、お待たせしました。助手のメリー君が中々起きなくてね、起こすのに手間取ってしまいましたよ。ほら、挨拶なさいメリー君」
メリーと呼ばれた少女は、手を上げて元気よく挨拶している。
「はい先生! 私メリー、ビル先生の助手をさせて貰ってます! よろしくお願いします!」
「ああ、此方こそよろしく。俺はマルクス、こっちにいるのは…………」
俺達全員の自己紹介をし、町の外へ出かける準備をしている。
徒歩だと時間が掛かり過ぎるので、馬を使うらしい。
それを聞いた俺は、ビルさんに提案し、馬の居なくなった荷台に、馬を繋ぐことを提案した。
ビルさんはそれを受け入れ、自分達の馬車で探索することになる。
あの荷台には、何時も使っている荷物が積んであるのだ、準備の必要もない。
もしかしたら最終的に馬をくれるなんて話にもなるかもだ。
そうなればいうこと無しなのだが…………
町の直ぐ外。
流石にこの辺りには魔物の気配はない。
そんな辺りを見回し、ドル爺がビルに尋ねた。
「この辺りには魔物は見当たらぬようですが、それでクリフ殿、何処から見て回るのですかな?」
「そうですねぇ…………とりあえずは適当に移動してみてください。発見次第調査をしましょう」
特に指定場所はないらしい。
依頼書には魔物の調査と書いてあったが、見つけた魔物を片っ端にということだろうか?
一応聴いておくか。
「ビルさん、魔物の調査ということでしたが、それは殆ど害にもならないものでも全てでしょうか?」
「それはもちろん当然です! 害がないのならばそれを記すことで、今後それが害の無いものだと分からせる事ができますからね! それに例えその魔物が害がなくても、同じタイプで害がある魔物が出れば、その対策にもなるかもしれません! 色々と使えるのですよ!」
「先生の言う通りです! ちゃんとキッチリ働いてくださいね!」
ビルにズイっと迫られ、助手のメリ―はそれに同意し、頷いている。
「そ、そうか、では見逃さないように移動しないとな。セリィ、頼めるか?」
「ん! セリィ頑張る!」
セリィは俺の頼みを聴き、荷台の屋根へと上り、周囲の見張りを始めるのだが、すると十秒も経たず、魔物の居場所を発見してしまう。
「セリィ見つけた!」
「おっと早いな、何処だセリィ?」
「あっち!」
指さす方向を見てみたが、その方向には本当に低い草むらぐらいしか見当たらず、魔物の影は見当たらない。
ガルスがそれを確認している。
「う~ん、俺には見えないなぁマルクスはどう?」
「俺も見えんな」
だが俺達はセリィの感覚を信用している。
例え俺達が見えないからと、魔物が居ないとは限らない。
俺はその方向に馬車を進める事を提案した。
「ドル爺、進んでみてくれ」
「おうよ!」
馬車を進ませて行くが、何も見当たらなかった。
だがセリィは近くの地面を指さす。
「そこ!」
その場所をよく見ると、草むらの中に緑色の丸い物体があった。
掌を二つ並べた程度の大きさしかないが、間違いなく魔物だ。
ビルも見て驚いている。
「おや、これは…………スライム種と呼ばれるものですね。保護色になっていて見つけるのは大変ですが、よく見つけましたね。メリー君、早速調査をしましょう」
「はい先生!」
「おい待て、小さいと言っても魔物は魔物だ。人を見たら襲って来る…………」
俺の注意を聴かず、二人はスライムと呼ばれる魔物に近寄って行く。
馬車から飛び降り触ろうとするが、ビルの顔面に跳びかかられ、顔に張り付いてしまっていた。
「ぐぼ…………」
「せ、先生! 大丈夫ですか先生?!」
「悪いがちょっと痛いぞ!」
このままでは窒息すると、俺は急いでスライムを引っぱたいた。
力強く叩くと、それは弾けて水のように消えていく。
スライムは消滅したが、ビルの顔面が少し焼けてしまっている。
これは治療しないと不味いな。
「いったああああああああああい!」
「ラクシャーサ、治療を頼む」
「ああ、任せろ!」
ラクシャーサによる治療を終え、馬車に戻ると、ガルスがギルドからの依頼の紙を見て悩んでいた。
「それでさぁマルクス、この紙にはなんて書こうか? 強さの数値は千までってことらしいんだけど」
ふむ、子供が襲われれば危険だが、冒険者や戦士、兵士としてもこのぐらいは軽く倒して欲しいレベルだ。
「そうだな、一番弱い設定でいいんじゃないか? 戦いを生業としている者として、こんなものを倒せないんでは、冒険者という職業自体やめた方がいいだろう。それと、子供では比較的危険だと書いといてくれ」
「分かった。じゃあ他にも色々あるけど、速さや力とかも壱でいいんだよね? じゃあ名前は? 適当に付けちゃう?」
その質問に答える前に、ビルさんがそれに答えてしまったのだ。
「名前はスモール・グリーンスライムです! 今私が命名しました! サイズによってグリーンスライム。ビック・グリーンスライムとしましょう!」
「流石です先生!」
「…………じゃあガルス、それで書いといてくれ」
「ん、了解」
殆ど見たまんまだが、分かり易いからいいだろう。
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