一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

38 ギルドに行ってみよう。

 休みを終えた俺達は、今後の事を話し合っていた。
 因みにグリア―デは別の部屋を取っている。


「馬を買う金がない、まず俺達は、この町で金を稼がなければならない。町にある仕事斡旋所ギルドに赴き、皆で充分に金を稼ぐとしようじゃないか」


「ちょっと待たんかマルクス、上からの資金はもうないのか?! わしはかなりの額を貰ったと聞いておるぞ?」


「確かに貰ってはいるが、馬一頭を買うのには相当な金がかかるんだ。今はもう相当貴重な物になってしまったからな。今後の食費や宿代だって掛かるんだぞ、武器の調達だっているだろう。このペースで行くとラグナードに帰れなくなるぞ」


「馬の為ねぇ、本当は剣を買いたいだけなんじゃないか? もう結構減ってるんだろう? 怒らないから行ってみろよ」


「確かに俺は剣が欲しい。しかし馬が要るのは本当だぞ、あの荷台をこのまま手で運ぶのも大変だろう。グリア―デをこのまま放り出すのも可哀想だしな」


「馬は兎も角として、マルクスの魔法は、実際の剣を使うから補充は仕方ないよね。でもさ、いちいち違う種類の剣を買わなくても、一番安い値段の剣に統一したらいいんじゃないの?」


「それは違うぞガルス! 魂のこもっていない雑な物に、俺の魔法に耐えられる訳がないだろう! 使った瞬間ボロボロに崩れ去り、一振りも出来ないに決まっているんだ!」


「決まってるんだって、試しても居ないのに決めつけるのはどうかと思うよ?」


「…………おいマルクスよ、まさか旅の資金で武器を買ったりしとらんだろうな?」


「そんなの買うに決まっているじゃないか。俺にとって武器は使い捨てになってしまったんだぞ。当然至急してもらわないと戦うことも出来ないだろう。これは正当な権利というやつだ!」


「はぁ、お前も面倒な魔法を覚えたものだわい。確かに武器がなければ戦えもしないが、高い武器ばかり買うとは、支度金を払った者も思っておらんだろうに。だから旅の資金が尽きたんじゃないのか?」


「…………いや、それはきっと関係ないぞ…………もうそのことは忘れよう。それより、今は旅を続けるためにも金が要る。だからギルドに向かうとしよう。行くぞ皆、これは隊長命令だ!」


「ん! セリィ頑張る!」


 元気に返事をしてくれるセリィだけが癒しだ。


「う~む、やはりクジで隊長を選んだのは間違いだったかもしれんな」


「ドル爺、今更どうにもならないことを言ってもしかたないよ。もう諦めて従おう」


「じゃあギルドを探そうか。行くよ、セリィ」


「ん!」


 俺達はこの町の中の仕事斡旋所ギルドを探しに行った。
 ギルドとは、どの国や町にでもあるもので、雑用を主に、誰でも請け負う事が出来るもので、一時期は別大陸にまでその力を示していたらしい。
 しかし魔物が現れた影響により、各支部は分断され、今は各町でそれぞれに運営をして、落とし物探しから魔物討伐まで色々と手広くやっていると聞く。
 俺も詳しくは知らないが、最近では何とか連絡を取り、この状況を一変させようと、冒険者システムってものを作ろうとしているらしい。
 魔物討伐により恩賞を与えたり、ランク付けしたりと色々だ。
 それが上手くいけば、魔物討伐が活発に動き出すかもしれないな。


 さて、俺達はそんなギルドを探し出し、その中へと入っている。
 その中はというと、武具をつけた者が多く、結構繁盛している様に見えた。
 冒険者システムというのが上手くいってるのだろう。
 多くの人は、酒を頼んだり、料理を頼んだりと、それぞれに楽しんでいる。
 土産物までも売り出しているらしい。


 俺はその中を進み、受付の一人の女に話しかけた。
 金髪に赤のメッシュと緑までを入れたド派手な髪をした女性だ。
 前に置かれているプレートを見ると、彼女の名前が記してある。
 アリア・バンビーナ、そんな名前らしい。


「すまないが、何か金額の多い仕事を請け負いたいんだが、いい物はないか?」


「お客様、失礼ですが冒険者登録はお済ですか? まずはそれを済ませていただかないと、お仕事を受けられませんよ」


「そうか、ではそれを済ませるとしよう。では此処にいる五人の分を頼むよ」


「では此方にお名前と…………」


 軽く書類に目を通し、書き込むべきところに書き記すと、俺達はそれを提出した。
 簡単に説明すると、死んでも文句は言わない、本人にしか報酬は渡されず、家族にもそれを支払う義務はないとかだ。
 命を落としたりすると、色々と言われたりするのだろう。
 女はそれを確認した。


「…………はい、確認しました。それでは此方をお渡しいたします。出来れば無くさないでくださいね」


 全員に手渡された物は、安っぽい鉄のプレートだ。
 後には番号が書かれていて、それが俺を示す数字なのだろう。
 番号は二百七十一。
 仲間はそれに続き、二、三、四、五と続く。
 ラクシャーサが二で、ドル爺が三、セリィが四で、ガルスが五である。


「では彼方の依頼ボードにより、仕事をお選びください。あまり無茶なものを選んで、お仲間とかが死なれたとしても、此方は責任を持ちませんのでお気をつけてくださいね」


「ああ、了解だ」


 その依頼ボードを見ると、様々な依頼書の写しが張り付けられている。
 軽いものからキツそうなものまで色々ある。
 マリア―ドの首都に着くまでは、そう日にちもない。
 馬や剣、色々なものを手に入れる為には、やはりここは大きく危険なものを選ぶべきか。
 しかしあまり危険なものを選んで、また剣を失うようなこともしたくはない。
 出来る限り金が多く貰えて、尚且つそこそこのものは…………


「おいマルクス、これなんか良いんじゃないか? ハルケニアの丘って所に住み着いた竜種の討伐だってさ。行った奴は誰も帰ってきてないんだって」


 竜種。
 ドラゴンと呼ばれる幻の種族だが、魔物の出現によりそれに近いものが出現している。
 胴の長い蛇のようなタイプや、昔居たとされる恐竜種のようなもの、前脚がなく翼があるワイバーン種や様々だが、どれをとっても強力である。
 その体には刃物も通さないと言われているし、空を飛んだりされると厄介だ。
 俺の魔法を使ってもどうにもならないかもしれないし、被害の方がでかくなるかもしれない。


「駄目だな、竜種なんてやってられるか。他のを探せ、出来れば飛ばない奴の方がいいな」


「ふむ、ではこれなど如何だ。結構値段がいいぞ」


「どれ?」


 ドル爺が示したものは、この町に住む動物研究家のビル・クリフという人物が依頼したもので、魔物も動物の一種だとして、この地域に住み着いた魔物の種類を調べたいという。
 地域に住み着く魔物の特徴や、弱点を書き記す事が出来れば、今後の戦いが優位に進められるかもしれない。
 これは誰かがやらないといけないもので、金額も申し分なく、充分に魅力的な依頼書だ。
 これならば馬も買えてグリア―デにも多少渡してやれる。
 そして、なにより剣も買えるのだ!




 俺はその依頼書を持ち、受付の女に渡すのだった。



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