一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
35 三つ目の力の解放。
必至で走り続けた俺達は、やっとのことで止まっていた馬車に追い着いた。
馬は居なくなり、荷台だけが残されている。
たぶんセリィがやってくれたのだろう。
この場所まで走り続けていた俺達は、相当体力が落ちているのだが、運命の神は、このまま休ませてくれる気はないらしい。
六体の魔物に囲まれ、今も戦闘中だ。
「いやあああああ、こっちへ来ないでええええええええええ!」
「まかせろ、セリィ、やる!」
セリィとグリア―デが必死に戦っている。
馬に置き去りにされた荷台には、魔物居襲われて幾つもの傷がつき、ボロボロになっていた。
襲っている魔物は、三本の角を持つ人間大もある巨大なクワガタだが、その腕や足は昆虫のそれじゃない。
カモシカのような足と、猛獣のような腕が生え、地上であっても素早く動き続けている。
頭についたその角は、大きく広がり鋭く閉じる、その巨大な角に挟まれれば、鋭く刻まれてボロボロにされてしまう。
二人共無事なのは良かったが、注目するべきはそこじゃない。
戦うグリア―デの手には、俺の秘蔵のフランベルジュが握られている!
其の剣を振り回し、魔物を斬り付けながら、時には馬車の骨組みにガンっとぶつけたりしているのだ。
「おい、俺の剣を傷付けるんじゃない!」
俺は今までの疲れも吹っ飛び、送れている仲間を待たずに、二人の元へと走り出した。
手に持つのは腰に差した火炎ではなく、使い込まれたロングソードだ。
この剣なら壊れても良いとは言わないが、大量生産品なので比較的安く、危なく成れば魔法を使うのを躊躇わないで良い値段の武器である。
その剣を使い、荷台の入り口近くに居る一体に、全力で斬り込んだ。
「クッ!」
怒りのままに背後から頭の甲殻へ、全力で剣を打ち込んだのだが、手の方が痺れ、危うく剣を落としそうになりそうになる。
打ち付けた剣を見ると、刃が欠けてしまっている。
だが相手にも多少のダメージはあるらしい。
打ち付けた個所がほんの少しだけ凹み、こちらに気付き、振り向いた。
大きく角を開き、それを閉じたり開いたりと、妙な音を出して、こちらを威嚇している。
「キュイイイイイイイイ、ギチギチギチ」
そしてグッと体を沈ませると、鋭い角を真っ直ぐ前に、激しく矢のように走り出した。
俺は横へ回転してそれを避けるのだが、先ほどの鳴き声は仲間を呼んだ音だったらしい。
残りの魔物達に周りを囲まれてしまう。
周りには六匹、隙間を塞ぐように、全方向から距離を詰められた。
「チィッ!」
だがそこに助けの手が入った。
俺を追って来た仲間達が、やっとのことで合流したのだ。
「マルクス、手伝うよ!」
「うおおおおおおおお、こちらを向かんかい!」
「セリィ、助けに来たよ!」
「ラク、こいつカタイ!」
「ああ、分かってる!」
六体に囲まれ、逃げ出す隙間さえなかったが、ようやく駆けつけた仲間によって、三体の注意を惹きつけてくれた。
俺は崩れた陣形の隙間から脱出し、一度体勢を立て直す。
残った敵は三体。
刀ならば斬れるかもしれないが、もし刃こぼれでもしたら大変だ。
この国では直す手段はないだろう。
「極力使いたくはないが……俺の剣を刃こぼれさせた報いだ。とっておきを見せてやろう!」
俺は敵の攻撃を掻い潜り、ロングソードへと、広大な大地の力を注ぎ込んだ。
「大地の神よ、我が剣に具現せよ! 出でよ、轟烈の剣!」
剣の先がユラユラと揺らめき、収縮しているような力の結晶が現れる。
握った掌からもヴヴヴと振動する感覚が分かる。
力の顕現を発動した俺へと、魔物の一体が大きく角を広げて襲い掛かって来たのだ。
俺は慌てず、上空へ振り上げた剣を、ただ真っ直ぐに振り下ろした。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
向かって来た魔物は、俺の剣先にも触れていないが、揺らめく力のヴィジョンに触れた瞬間、その体を大地に沈めている。
硬い甲殻はひび割れ、頭はつぶれてしまっていた。
魔物と言えど生きてはいないだろう。
教えて貰った者からは、この力は磁力と引力に関わるものだと聞いている。
力のヴィジョンに触れたものを、圧倒的な力で押し潰すのだとか。
だがこの力はそれだけではない。
俺は次の一体を狙い、駆けだしたのだ。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
一体の攻撃を躱し、もう一体の魔物の翅に、強烈な斬り上げを放つ。
バゴォンと魔物の翅を砕き、遥か空の果てへ、巨大な体を弾きと飛ばした。
豆粒のようになったクワガタは、飛翔能力を失い地に落ちて行く。
たとえ魔物だとしても、あの高度から落ちれば無事では済まないだろう。
俺は結果を見ることなく、残りの一体を順当に斬り伏せた。
残りは三体だが、こちらに気がない敵など相手にならない。
まずは逃げ回るラクシャーサが相手をしている奴に、交差するように横薙ぎの一閃を。
弾き飛ばされる魔物を後目に、ドル爺の元へ向かい、その相手に跳びあがりの上段をくらわせた。
その一撃で敵は沈み、残りはガルスが受け持つたった一体。
だがそこで限界が来たのだ。
手に持った剣が砂の様に粉々に消えて行く。
「…………さようならロングソード君、君の事は忘れないよ」
「えええええ、なに黄昏てるの?! ボーっとしてないでないで助けてよ!」
仕方ない、俺は腰の刀を…………
駄目だ、まだこれを使うべき時ではない。
ラクシャーサやドル爺も応援に来てくれている。
セリィも援護射撃をしているし、たぶん大丈夫だろう。
俺は一度馬車の荷台に剣を取りに行くとしよう。
「ガルス、少しの間待っててくれ。俺は使える剣がないからちょっと取りに行かなくちゃならないんだ。大丈夫だ、残りはこの一体だけだ、ガルス、お前なら出来る! あとの事は頼んだぞ!」
「ちょっとおおおおおおおお! ええええええええええええええ!」
俺はなるべく急ぎ荷台にまで走ると、とりあえずグリア―デが持っている剣をバッと奪い取る。
人の物を使うなと説教でもしてやろうかと思ったが、まあ緊急事態だったからそれは諦めた。
俺がカットラスを持ち出し戦場に戻ると、仲間は硬い体に苦戦をしている。
移動が速いこの相手では、ラクシャーサの魔法は狙いが定まらない。
ゴーレムでは動きが鈍く、その動きに対処が出来ないのだ。
他のガルス達も、普通の攻撃だと腕や足でも斬る事も刺す事も出来ず、俺はガッカリしながら諦めて、もう一度魔法を使ったのだった。
馬は居なくなり、荷台だけが残されている。
たぶんセリィがやってくれたのだろう。
この場所まで走り続けていた俺達は、相当体力が落ちているのだが、運命の神は、このまま休ませてくれる気はないらしい。
六体の魔物に囲まれ、今も戦闘中だ。
「いやあああああ、こっちへ来ないでええええええええええ!」
「まかせろ、セリィ、やる!」
セリィとグリア―デが必死に戦っている。
馬に置き去りにされた荷台には、魔物居襲われて幾つもの傷がつき、ボロボロになっていた。
襲っている魔物は、三本の角を持つ人間大もある巨大なクワガタだが、その腕や足は昆虫のそれじゃない。
カモシカのような足と、猛獣のような腕が生え、地上であっても素早く動き続けている。
頭についたその角は、大きく広がり鋭く閉じる、その巨大な角に挟まれれば、鋭く刻まれてボロボロにされてしまう。
二人共無事なのは良かったが、注目するべきはそこじゃない。
戦うグリア―デの手には、俺の秘蔵のフランベルジュが握られている!
其の剣を振り回し、魔物を斬り付けながら、時には馬車の骨組みにガンっとぶつけたりしているのだ。
「おい、俺の剣を傷付けるんじゃない!」
俺は今までの疲れも吹っ飛び、送れている仲間を待たずに、二人の元へと走り出した。
手に持つのは腰に差した火炎ではなく、使い込まれたロングソードだ。
この剣なら壊れても良いとは言わないが、大量生産品なので比較的安く、危なく成れば魔法を使うのを躊躇わないで良い値段の武器である。
その剣を使い、荷台の入り口近くに居る一体に、全力で斬り込んだ。
「クッ!」
怒りのままに背後から頭の甲殻へ、全力で剣を打ち込んだのだが、手の方が痺れ、危うく剣を落としそうになりそうになる。
打ち付けた剣を見ると、刃が欠けてしまっている。
だが相手にも多少のダメージはあるらしい。
打ち付けた個所がほんの少しだけ凹み、こちらに気付き、振り向いた。
大きく角を開き、それを閉じたり開いたりと、妙な音を出して、こちらを威嚇している。
「キュイイイイイイイイ、ギチギチギチ」
そしてグッと体を沈ませると、鋭い角を真っ直ぐ前に、激しく矢のように走り出した。
俺は横へ回転してそれを避けるのだが、先ほどの鳴き声は仲間を呼んだ音だったらしい。
残りの魔物達に周りを囲まれてしまう。
周りには六匹、隙間を塞ぐように、全方向から距離を詰められた。
「チィッ!」
だがそこに助けの手が入った。
俺を追って来た仲間達が、やっとのことで合流したのだ。
「マルクス、手伝うよ!」
「うおおおおおおおお、こちらを向かんかい!」
「セリィ、助けに来たよ!」
「ラク、こいつカタイ!」
「ああ、分かってる!」
六体に囲まれ、逃げ出す隙間さえなかったが、ようやく駆けつけた仲間によって、三体の注意を惹きつけてくれた。
俺は崩れた陣形の隙間から脱出し、一度体勢を立て直す。
残った敵は三体。
刀ならば斬れるかもしれないが、もし刃こぼれでもしたら大変だ。
この国では直す手段はないだろう。
「極力使いたくはないが……俺の剣を刃こぼれさせた報いだ。とっておきを見せてやろう!」
俺は敵の攻撃を掻い潜り、ロングソードへと、広大な大地の力を注ぎ込んだ。
「大地の神よ、我が剣に具現せよ! 出でよ、轟烈の剣!」
剣の先がユラユラと揺らめき、収縮しているような力の結晶が現れる。
握った掌からもヴヴヴと振動する感覚が分かる。
力の顕現を発動した俺へと、魔物の一体が大きく角を広げて襲い掛かって来たのだ。
俺は慌てず、上空へ振り上げた剣を、ただ真っ直ぐに振り下ろした。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
向かって来た魔物は、俺の剣先にも触れていないが、揺らめく力のヴィジョンに触れた瞬間、その体を大地に沈めている。
硬い甲殻はひび割れ、頭はつぶれてしまっていた。
魔物と言えど生きてはいないだろう。
教えて貰った者からは、この力は磁力と引力に関わるものだと聞いている。
力のヴィジョンに触れたものを、圧倒的な力で押し潰すのだとか。
だがこの力はそれだけではない。
俺は次の一体を狙い、駆けだしたのだ。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
一体の攻撃を躱し、もう一体の魔物の翅に、強烈な斬り上げを放つ。
バゴォンと魔物の翅を砕き、遥か空の果てへ、巨大な体を弾きと飛ばした。
豆粒のようになったクワガタは、飛翔能力を失い地に落ちて行く。
たとえ魔物だとしても、あの高度から落ちれば無事では済まないだろう。
俺は結果を見ることなく、残りの一体を順当に斬り伏せた。
残りは三体だが、こちらに気がない敵など相手にならない。
まずは逃げ回るラクシャーサが相手をしている奴に、交差するように横薙ぎの一閃を。
弾き飛ばされる魔物を後目に、ドル爺の元へ向かい、その相手に跳びあがりの上段をくらわせた。
その一撃で敵は沈み、残りはガルスが受け持つたった一体。
だがそこで限界が来たのだ。
手に持った剣が砂の様に粉々に消えて行く。
「…………さようならロングソード君、君の事は忘れないよ」
「えええええ、なに黄昏てるの?! ボーっとしてないでないで助けてよ!」
仕方ない、俺は腰の刀を…………
駄目だ、まだこれを使うべき時ではない。
ラクシャーサやドル爺も応援に来てくれている。
セリィも援護射撃をしているし、たぶん大丈夫だろう。
俺は一度馬車の荷台に剣を取りに行くとしよう。
「ガルス、少しの間待っててくれ。俺は使える剣がないからちょっと取りに行かなくちゃならないんだ。大丈夫だ、残りはこの一体だけだ、ガルス、お前なら出来る! あとの事は頼んだぞ!」
「ちょっとおおおおおおおお! ええええええええええええええ!」
俺はなるべく急ぎ荷台にまで走ると、とりあえずグリア―デが持っている剣をバッと奪い取る。
人の物を使うなと説教でもしてやろうかと思ったが、まあ緊急事態だったからそれは諦めた。
俺がカットラスを持ち出し戦場に戻ると、仲間は硬い体に苦戦をしている。
移動が速いこの相手では、ラクシャーサの魔法は狙いが定まらない。
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