一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
34 走れセリィ。
グリア―デはラングリオの町には向かわず、俺達が向かっていた町に向かっているようだ。
きっと積み荷を売り払い、当面の生活費にでもするのだろう。
だがそんなことをさせる気はない。
あの馬車に積み込んである剣は、どれも町中を駆けずり回り、とても苦労して手に入れたものなのだ。
他の荷物はどうなっても良いが、俺の剣だけは売られる訳にはいかない!
例え一本だろうと、勝手に売られる訳にはいかないのだ!
俺達がこのまま走っても追いつけないが、たった一人だけ可能性がある人物が居る。
エルフであるセリィなら、その可能性があかもしれない。
その身体能力は高く、人よりも速く走れるのだ。
「セリィ、全力で追い掛けて馬車と馬の繋ぎを切ってこい! 馬を奪うことに成功したら、いくらでもお菓子を買ってやる!」
「ん! やるうううううう!」
お菓子の為に走り出したセリィは、俺達を抜き去り、高速度で走り出した。
あっと言う間に見えなくなるが、追い着けるのかは微妙なところである。
一人で行かせたのは少し危険だが、俺達といても危険なのは変わりはしない。
むしろあんな身体能力があるのなら、一人の方が行動しやすいだろう。
まあセリィの保護者のラクシャーサは怒っているが。
「マルクス、セリィ一人に行かせるなよ! 何かあったら危ないだろ!」
「セリィなら大丈夫だ! それよりこちらの事だ。今はまだいいが、このまま何時までも走り続けて居たら、何れ体力がなくなる。そんな状態で魔物に襲われれば、全滅もありうるぞ。食料も水も馬車に積んだままだしな! 馬車が奪われたままでは旅の継続も危ういからな!」
「ひいいいい、俺は走るのは苦手だよお! 出来ればゆっくり行きたいんだけど!」
「ガルスよ、ここで走らなくて何処で走るというのだ! 気合を入れて走らんかい!」
「頑張って走ってるだろおおおおおおおおお!」
俺達は三十分程走り続けるのだが、まだ馬車の影も見えて来ない。
セリィも頑張って走り続けているようだ。
で、こちらの状況はあまりよくない。
馬車に追いつけず、セリィにも置いて行かれた魔物達が、道の近くで縄張り争いをしていたりするのだ。
俺達はそれに鉢合い、斬り伏せながら進み続けている。
前方には三体のカエルとナメクジ、それにヘビの様な魔物が、奇しくも三竦みの状態になっていた。
どれも普通のサイズではなく、人以上に大きい。
だが相手を威嚇するのに夢中で、まだ此方には気づいていない。
出来ればそのまま動くなよ!
「ドル爺、カエルを頼む! ガルスはナメクジを、俺はもう一匹をやる! ラクシャーサは最後の止めを刺してやれ!」
「止めなんぞ要らぬわ! 儂の槍で一撃で仕留めてやるわい!」
「うう、なんかヌルヌルしてそう。盾が汚れそうだよ」
「そのぐらいいいだろ! 死にたくなきゃやるんだよ! ほら、行くぞガルス!」
「や、やるよお!」
敵三体は此方に気付いているものの、目の前の二体が居る為に動けずにいる。
「行くぞ、散開しろ!」
「「「応!」」」
ドル爺はカエルの腹を槍で一撃。
ガルスは巨大な盾でナメクジを叩きつけ、逆手の剣で斬り抜ける。
「ついでだ、試し斬りをさせてもらうぞ!」
俺は蛇の首を狙い、腰の刀を引き抜いた。
俺の愛刀となったこの刀の火炎は、シュランと鞘から抜き放たれ、蛇の首を通り抜けた。
振り切りと共に、ヒュンと剣先が制止する。
たった一振りではあるが、この刀に、血のくもりはない。
…………手応えはあった。
だがこれは剣とは違う。
俺の手の中には、肉の中をただ通過した、そんな感覚だけが残っている。
俺は鞘へと剣を戻し、少しの間反撃を待つが、それはもう必要のないものだと知った。
こちらに振り向こうとした大きな蛇は、ただそれだけで首を落とし、体のみが此方に向かって来ようとしている。
ただ、それも直ぐに終わり地に転がると、少しの間動き続け、やがてその動きを止めて行った。
「…………他は?!」
カエルの腹には穴が開き、頭には数本の矢が射ち込まれていた。
ナメクジも同じような状況で、もう殆ど死にかけている。
…………出来ればもう一回ぐらい斬りたかった
俺は三人の状況を見渡し、全員が敵を打ち倒したと知ると、再び走れと号令をかけた。
「さあ続けて走るぞ! 少しでも距離を縮めるんだ!」
「ふぅ、ふぅ、俺の限界は近いかも…………」
「セリィもまだ走っとるんだ。もう少し頑張らんかい!」
「そ、そうはいっても……盾とか激しく重いんだよ。じゃあドル爺持ってくれない?」
「年寄にそんな物を持たす気か? 儂だってそこそこ重い武具を背負っとるんだぞ」
「じゃ、じゃあマルクス…………」
「…………ああ、そうだガルス、少し言い忘れていたが、ナメクジの粘液には触るなよ? 変な寄生虫が居ると死ぬ事があるらしい。一度熱湯で消毒しとくといいかもな。後でラクシャーサに頼むと良いぞ。じゃあ気を付けて運んでくれ」
「ひいいいいい…………」
俺達は魔物達を撃退し続け、グリア―デの跡を追って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その頃、馬車を追い掛け続けていたセリィは、その背後の姿を捉えていた。
「あ~、見つけたあああああ!」
背中に取り付けた弓を外し、走りながら弓を構える。
矢筒から矢の二本を取り出すと、弦を引き絞った。
馬車の背後からはグリア―デの姿は見えない。
ヒュヒュンと連続で放たれた矢は、馬車の左右を周る様な軌道を画き、グリア―デの乗る、馬車の中心付近へと向かったのだ。
「きゃッ!」
何処からともなく現れた矢に、ビックリするグリア―デ。
何が起こったのかと周りを見渡し、馬車の後方に居るセリィを見つけた。
直ぐに馬を走らせようと、ムチを入れようとしたのだが、繋いであった馬の姿がなくなっている。
先ほどの二本の矢が、馬と馬車との繋ぎを断ち切ってしまったのだ。
馬のいなくなった馬車は、進む事も出来ずその場で止まっていた。
何故そうなったのかも分からず、グリア―デは魔物の襲撃かと武器を探している。
「ちょ、ちょっと、こんな所で止まらないでください! 不味い不味いわ、もしこんな状況で魔物が来たら。 ……な、何か武器を!」
グリア―デは、荷台にある武器を探し始め、武器の一本を手に取った。
クネクネと波打つ刃を持つその剣は、フランベルジュというマルクスのお気に入りの一本である。
その剣を見つけ、少し安心したグリアーデだが、振り向いた時にセリィの姿を見つけて激しく動揺していた。
「ななな何で貴女が此処に居るのです?!」
「セリィ走った!」
「走ったぁ?! そ、そんなことは人の足では無理…………あ、貴方まさか魔族なの?! わ、私をどうするつもりなのです?!」
グリアーデはセリィの事を魔族と勘違いしている。
「んんん? わかんない」
「わ、分からないって、まさか拷問でも…………だ、駄目だわ、こんな所で争っていたら魔物に襲われてしまう。あ、貴女に相談があるります。もう逃げるのは諦めるから、私と協力してくれないでしょうか? ここで魔物に襲われるのは貴女も嫌でしょう? ど、どうでしょうか…………?」
「ん! セリィ協力する!」
「い、いいですか、町に着くまでは私を捕まえるのは無しですからね?」
「ん、分かった!」
元気に返事をしたセリィは、グリアーデと一緒に馬車に立てこもっている。
町にはまだ遠く、マルクス達が来るのを待っていた。
きっと積み荷を売り払い、当面の生活費にでもするのだろう。
だがそんなことをさせる気はない。
あの馬車に積み込んである剣は、どれも町中を駆けずり回り、とても苦労して手に入れたものなのだ。
他の荷物はどうなっても良いが、俺の剣だけは売られる訳にはいかない!
例え一本だろうと、勝手に売られる訳にはいかないのだ!
俺達がこのまま走っても追いつけないが、たった一人だけ可能性がある人物が居る。
エルフであるセリィなら、その可能性があかもしれない。
その身体能力は高く、人よりも速く走れるのだ。
「セリィ、全力で追い掛けて馬車と馬の繋ぎを切ってこい! 馬を奪うことに成功したら、いくらでもお菓子を買ってやる!」
「ん! やるうううううう!」
お菓子の為に走り出したセリィは、俺達を抜き去り、高速度で走り出した。
あっと言う間に見えなくなるが、追い着けるのかは微妙なところである。
一人で行かせたのは少し危険だが、俺達といても危険なのは変わりはしない。
むしろあんな身体能力があるのなら、一人の方が行動しやすいだろう。
まあセリィの保護者のラクシャーサは怒っているが。
「マルクス、セリィ一人に行かせるなよ! 何かあったら危ないだろ!」
「セリィなら大丈夫だ! それよりこちらの事だ。今はまだいいが、このまま何時までも走り続けて居たら、何れ体力がなくなる。そんな状態で魔物に襲われれば、全滅もありうるぞ。食料も水も馬車に積んだままだしな! 馬車が奪われたままでは旅の継続も危ういからな!」
「ひいいいい、俺は走るのは苦手だよお! 出来ればゆっくり行きたいんだけど!」
「ガルスよ、ここで走らなくて何処で走るというのだ! 気合を入れて走らんかい!」
「頑張って走ってるだろおおおおおおおおお!」
俺達は三十分程走り続けるのだが、まだ馬車の影も見えて来ない。
セリィも頑張って走り続けているようだ。
で、こちらの状況はあまりよくない。
馬車に追いつけず、セリィにも置いて行かれた魔物達が、道の近くで縄張り争いをしていたりするのだ。
俺達はそれに鉢合い、斬り伏せながら進み続けている。
前方には三体のカエルとナメクジ、それにヘビの様な魔物が、奇しくも三竦みの状態になっていた。
どれも普通のサイズではなく、人以上に大きい。
だが相手を威嚇するのに夢中で、まだ此方には気づいていない。
出来ればそのまま動くなよ!
「ドル爺、カエルを頼む! ガルスはナメクジを、俺はもう一匹をやる! ラクシャーサは最後の止めを刺してやれ!」
「止めなんぞ要らぬわ! 儂の槍で一撃で仕留めてやるわい!」
「うう、なんかヌルヌルしてそう。盾が汚れそうだよ」
「そのぐらいいいだろ! 死にたくなきゃやるんだよ! ほら、行くぞガルス!」
「や、やるよお!」
敵三体は此方に気付いているものの、目の前の二体が居る為に動けずにいる。
「行くぞ、散開しろ!」
「「「応!」」」
ドル爺はカエルの腹を槍で一撃。
ガルスは巨大な盾でナメクジを叩きつけ、逆手の剣で斬り抜ける。
「ついでだ、試し斬りをさせてもらうぞ!」
俺は蛇の首を狙い、腰の刀を引き抜いた。
俺の愛刀となったこの刀の火炎は、シュランと鞘から抜き放たれ、蛇の首を通り抜けた。
振り切りと共に、ヒュンと剣先が制止する。
たった一振りではあるが、この刀に、血のくもりはない。
…………手応えはあった。
だがこれは剣とは違う。
俺の手の中には、肉の中をただ通過した、そんな感覚だけが残っている。
俺は鞘へと剣を戻し、少しの間反撃を待つが、それはもう必要のないものだと知った。
こちらに振り向こうとした大きな蛇は、ただそれだけで首を落とし、体のみが此方に向かって来ようとしている。
ただ、それも直ぐに終わり地に転がると、少しの間動き続け、やがてその動きを止めて行った。
「…………他は?!」
カエルの腹には穴が開き、頭には数本の矢が射ち込まれていた。
ナメクジも同じような状況で、もう殆ど死にかけている。
…………出来ればもう一回ぐらい斬りたかった
俺は三人の状況を見渡し、全員が敵を打ち倒したと知ると、再び走れと号令をかけた。
「さあ続けて走るぞ! 少しでも距離を縮めるんだ!」
「ふぅ、ふぅ、俺の限界は近いかも…………」
「セリィもまだ走っとるんだ。もう少し頑張らんかい!」
「そ、そうはいっても……盾とか激しく重いんだよ。じゃあドル爺持ってくれない?」
「年寄にそんな物を持たす気か? 儂だってそこそこ重い武具を背負っとるんだぞ」
「じゃ、じゃあマルクス…………」
「…………ああ、そうだガルス、少し言い忘れていたが、ナメクジの粘液には触るなよ? 変な寄生虫が居ると死ぬ事があるらしい。一度熱湯で消毒しとくといいかもな。後でラクシャーサに頼むと良いぞ。じゃあ気を付けて運んでくれ」
「ひいいいいい…………」
俺達は魔物達を撃退し続け、グリア―デの跡を追って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その頃、馬車を追い掛け続けていたセリィは、その背後の姿を捉えていた。
「あ~、見つけたあああああ!」
背中に取り付けた弓を外し、走りながら弓を構える。
矢筒から矢の二本を取り出すと、弦を引き絞った。
馬車の背後からはグリア―デの姿は見えない。
ヒュヒュンと連続で放たれた矢は、馬車の左右を周る様な軌道を画き、グリア―デの乗る、馬車の中心付近へと向かったのだ。
「きゃッ!」
何処からともなく現れた矢に、ビックリするグリア―デ。
何が起こったのかと周りを見渡し、馬車の後方に居るセリィを見つけた。
直ぐに馬を走らせようと、ムチを入れようとしたのだが、繋いであった馬の姿がなくなっている。
先ほどの二本の矢が、馬と馬車との繋ぎを断ち切ってしまったのだ。
馬のいなくなった馬車は、進む事も出来ずその場で止まっていた。
何故そうなったのかも分からず、グリア―デは魔物の襲撃かと武器を探している。
「ちょ、ちょっと、こんな所で止まらないでください! 不味い不味いわ、もしこんな状況で魔物が来たら。 ……な、何か武器を!」
グリア―デは、荷台にある武器を探し始め、武器の一本を手に取った。
クネクネと波打つ刃を持つその剣は、フランベルジュというマルクスのお気に入りの一本である。
その剣を見つけ、少し安心したグリアーデだが、振り向いた時にセリィの姿を見つけて激しく動揺していた。
「ななな何で貴女が此処に居るのです?!」
「セリィ走った!」
「走ったぁ?! そ、そんなことは人の足では無理…………あ、貴方まさか魔族なの?! わ、私をどうするつもりなのです?!」
グリアーデはセリィの事を魔族と勘違いしている。
「んんん? わかんない」
「わ、分からないって、まさか拷問でも…………だ、駄目だわ、こんな所で争っていたら魔物に襲われてしまう。あ、貴女に相談があるります。もう逃げるのは諦めるから、私と協力してくれないでしょうか? ここで魔物に襲われるのは貴女も嫌でしょう? ど、どうでしょうか…………?」
「ん! セリィ協力する!」
「い、いいですか、町に着くまでは私を捕まえるのは無しですからね?」
「ん、分かった!」
元気に返事をしたセリィは、グリアーデと一緒に馬車に立てこもっている。
町にはまだ遠く、マルクス達が来るのを待っていた。
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