一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
30 人の心の内。
「はっ、ここは…………」
揺られる馬車の中で、俺は目を覚ました。
この馬車は何時も乗っている馬車の中で、グリア―デも一緒に乗っている。
しかし俺はそんなことよりも、腰に差した刀があるのを確認し、凄くほっとしたのである。
「おい皆、マルクスが目を覚ましたぞ。もう落ち着いたんじゃないか?」
「この隊の中で一番駄目なのは、マルクスなんじゃないのかな?」
「う~む、此奴は武器屋に近づけん方がいいな。面倒事が増えそうだ」
「だな~!」
何故か色々失礼な事を言われているが、今後もそれを止めるつもりはない。
「それは諦めてくれ。俺にとって剣を集めるのは、もう宿命のようなものだ。それを止めては生きられない。そんな無駄なことを話すより、グリア―デ、今後の話をしよう」
「もう皆さんにお話しましたけど、ではもう一度…………」
この町の先代の領主、つまり彼女の父親だが、その父親が死んだあとに、彼女がそれを引継ぐはずだった。
だがその継承式で事件が起こった。
継承の儀で必要な剣が見つからず、彼女はその権利を失ってしまう。
それで任命されたのがスコルピオ・ワルザーだった。
別にスコルピオはタダ任命されただけなのだが、この彼女はそうは思っていないらしい。
儀式剣を隠したのがスコルピオだと疑っているのだ。
だから彼女は屋敷へ忍び込み、奪われた儀式剣を探していたと。
正直言って、彼女の話に乗るのは分が悪い。
スコルピオが取ったという証拠もないし、その剣が屋敷にあるかも分からないのだ。
ただの逆恨みとも思えるが、俺にとってはそれはどっちでもいいことだ。
「で、グリア―デは俺達に何をさせたいんだ? まさか俺達に盗んで来いなんて言わないよな?」
「ええ、貴方達はどんな剣を探すのかも知らないから、探すのは難しいでしょう。もう他の人達には話してありますが、このまま私を連れてワルザーの屋敷に向かってください。貴方達の仲間と言えば信用するでしょうから」
「内部調査のついでに探すのか。まあそれなら別に害はないか? 良いだろう、ではこの隊でフォローするとしようか」
「何言ってるのマルクス。そんな刀まで買って貰っておいて、今更やらないとかないでしょ。もう今更かっこつけたって無駄だよ。ね、セリィ」
「ん! マルクスかっこわるい!」
二人は勘違いをしている。
俺は別に格好つけている訳じゃないし、ただ普通に話しているだけだ。
それに、好きな物に対して必死になって何が悪いと言うのだろう。
別に誰にも迷惑をかけていないからな。
ま、そのことは後でじっくり話し合うとして、俺達はスコルピオの屋敷へと向かった。
グリア―デにはバレない様に変装してもらっているから、たぶん大丈夫だろう。
その屋敷は大勢の使用人が働く立派な屋敷で、シンメトリーに作られたガーデンは、よく手入れされていた。
使用人達は嫌がる雰囲気もなく、明るい様子で、楽し気に作業をしている。
スコルピオに、特に不満があるようには思えない。
あの門前の兵士達にも言えるが、部下や使用人に対しては、かなり慕われているらしい。
この屋敷の部屋数も相当なもので、数えるのも面倒な程だ。
元領主の娘のグリアーデなら、内部の状況もわかるだろうか?
そうするにしても、まずは屋敷の中に入らなければな。
俺は門前の兵に話、屋敷の中へ通された。
大きな来客室に案内され、スコルピオとの面会を果たしたのだが…………
「ほおぉ、立派に情報収集しているではないか。我が屋敷を調べたいと言うならば、存分に調べるがいい。ただし、物を壊せば弁償してもらうがな。いいか、この屋敷のどれをとってもお前達が一生働いても買えぬような物ばかりだ。もし一つでも壊そうなら、貴様等全員強制労働だからな。おい、こいつ等が何かしないか見張っていろ」
「「ハッ!」」
先手を打たれ、俺達には二人の見張りがつけられた。
やはり信用はされていないな。
ま、この部屋の中だけでも相当な部類だと思われる銅像やら壺やらがあり、壁にも剣が飾られている。
サーベルという種類の剣だが、たぶんこれではないだろう。
…………そういえば、どんな剣なのか聞いていなかった。
隙を見てあとで聞くとしよう。
「それではワルザーさん、探させてもらいます」
「ふん、サッサと行くがいい!」
俺達はこの部屋を出て、屋敷の中を探し始めた。
案内をしてくれるのが、この屋敷の警護をしている男二人で、ロングソードを腰に差しているのが、ウレン。
そして同じくロングソードを刺しているのがカルージャだ。
因みに見分けるのには鍔の部分に傷が有るかないかだが、普通の人だと分からないだろうから、軽く説明しよう。
ウレンは百九十はある長身の、茶髪の優しそうな男だ。
カルージャは対照的に小さく、百六十に満たない身長の、ちょっと太った男である。
カル―ジャの方はあまり喋らず後に付いて来ているが、長身の男ウレンは、率先して案内をしていた。
「さて皆様、何処を見ます? 何処でもご案内いたしますよ」
「そうだな…………その盗賊の狙いが分からないんだ。まずは屋敷の中を全部を見せてもらうとしようか」
「了解しました! では上層階から順に見て行きましょうか!」
三階部分から順に見始めるのだが、このウレンという男、主人のスコルピオの寝室や仕事部屋に勝手に入り、どうぞと手招きしてたりするのだ。
この男は、そこまでスコルピオに信用されているのか?
少し気になるので聞いてみるべきだな。
「ウレンさん、部屋に勝手に入ってもいいのでしょうか?」
「ああ、大丈夫です。あの人口は悪いですけど結構いい人なんですよ。屋敷の全員を誘って昼食を一緒に食べたりとか、健康を気遣ってくれたりとか、素晴らしい人なんです。口だけは悪いですけど。町の人達達全員慕っているでしょう」
その話を聞いていたグリア―デが、ギリリと歯ぎしりをしているのを見逃さなかった。
しかしあの男の印象が俺のものと全く違うのだが、部下の働きっぷりを見れば案外そうなのかと思えてしまう。
部下に慕われる良い領主か、それとも領主の座を奪った悪い領主か…………
人の心というのは複雑だ。
どれ程の人物であろうと、人である以上は好き嫌いはある。
俺にはまだ判断がつかない。
何方にも身を振れるように、行動には注意しなければな。
揺られる馬車の中で、俺は目を覚ました。
この馬車は何時も乗っている馬車の中で、グリア―デも一緒に乗っている。
しかし俺はそんなことよりも、腰に差した刀があるのを確認し、凄くほっとしたのである。
「おい皆、マルクスが目を覚ましたぞ。もう落ち着いたんじゃないか?」
「この隊の中で一番駄目なのは、マルクスなんじゃないのかな?」
「う~む、此奴は武器屋に近づけん方がいいな。面倒事が増えそうだ」
「だな~!」
何故か色々失礼な事を言われているが、今後もそれを止めるつもりはない。
「それは諦めてくれ。俺にとって剣を集めるのは、もう宿命のようなものだ。それを止めては生きられない。そんな無駄なことを話すより、グリア―デ、今後の話をしよう」
「もう皆さんにお話しましたけど、ではもう一度…………」
この町の先代の領主、つまり彼女の父親だが、その父親が死んだあとに、彼女がそれを引継ぐはずだった。
だがその継承式で事件が起こった。
継承の儀で必要な剣が見つからず、彼女はその権利を失ってしまう。
それで任命されたのがスコルピオ・ワルザーだった。
別にスコルピオはタダ任命されただけなのだが、この彼女はそうは思っていないらしい。
儀式剣を隠したのがスコルピオだと疑っているのだ。
だから彼女は屋敷へ忍び込み、奪われた儀式剣を探していたと。
正直言って、彼女の話に乗るのは分が悪い。
スコルピオが取ったという証拠もないし、その剣が屋敷にあるかも分からないのだ。
ただの逆恨みとも思えるが、俺にとってはそれはどっちでもいいことだ。
「で、グリア―デは俺達に何をさせたいんだ? まさか俺達に盗んで来いなんて言わないよな?」
「ええ、貴方達はどんな剣を探すのかも知らないから、探すのは難しいでしょう。もう他の人達には話してありますが、このまま私を連れてワルザーの屋敷に向かってください。貴方達の仲間と言えば信用するでしょうから」
「内部調査のついでに探すのか。まあそれなら別に害はないか? 良いだろう、ではこの隊でフォローするとしようか」
「何言ってるのマルクス。そんな刀まで買って貰っておいて、今更やらないとかないでしょ。もう今更かっこつけたって無駄だよ。ね、セリィ」
「ん! マルクスかっこわるい!」
二人は勘違いをしている。
俺は別に格好つけている訳じゃないし、ただ普通に話しているだけだ。
それに、好きな物に対して必死になって何が悪いと言うのだろう。
別に誰にも迷惑をかけていないからな。
ま、そのことは後でじっくり話し合うとして、俺達はスコルピオの屋敷へと向かった。
グリア―デにはバレない様に変装してもらっているから、たぶん大丈夫だろう。
その屋敷は大勢の使用人が働く立派な屋敷で、シンメトリーに作られたガーデンは、よく手入れされていた。
使用人達は嫌がる雰囲気もなく、明るい様子で、楽し気に作業をしている。
スコルピオに、特に不満があるようには思えない。
あの門前の兵士達にも言えるが、部下や使用人に対しては、かなり慕われているらしい。
この屋敷の部屋数も相当なもので、数えるのも面倒な程だ。
元領主の娘のグリアーデなら、内部の状況もわかるだろうか?
そうするにしても、まずは屋敷の中に入らなければな。
俺は門前の兵に話、屋敷の中へ通された。
大きな来客室に案内され、スコルピオとの面会を果たしたのだが…………
「ほおぉ、立派に情報収集しているではないか。我が屋敷を調べたいと言うならば、存分に調べるがいい。ただし、物を壊せば弁償してもらうがな。いいか、この屋敷のどれをとってもお前達が一生働いても買えぬような物ばかりだ。もし一つでも壊そうなら、貴様等全員強制労働だからな。おい、こいつ等が何かしないか見張っていろ」
「「ハッ!」」
先手を打たれ、俺達には二人の見張りがつけられた。
やはり信用はされていないな。
ま、この部屋の中だけでも相当な部類だと思われる銅像やら壺やらがあり、壁にも剣が飾られている。
サーベルという種類の剣だが、たぶんこれではないだろう。
…………そういえば、どんな剣なのか聞いていなかった。
隙を見てあとで聞くとしよう。
「それではワルザーさん、探させてもらいます」
「ふん、サッサと行くがいい!」
俺達はこの部屋を出て、屋敷の中を探し始めた。
案内をしてくれるのが、この屋敷の警護をしている男二人で、ロングソードを腰に差しているのが、ウレン。
そして同じくロングソードを刺しているのがカルージャだ。
因みに見分けるのには鍔の部分に傷が有るかないかだが、普通の人だと分からないだろうから、軽く説明しよう。
ウレンは百九十はある長身の、茶髪の優しそうな男だ。
カルージャは対照的に小さく、百六十に満たない身長の、ちょっと太った男である。
カル―ジャの方はあまり喋らず後に付いて来ているが、長身の男ウレンは、率先して案内をしていた。
「さて皆様、何処を見ます? 何処でもご案内いたしますよ」
「そうだな…………その盗賊の狙いが分からないんだ。まずは屋敷の中を全部を見せてもらうとしようか」
「了解しました! では上層階から順に見て行きましょうか!」
三階部分から順に見始めるのだが、このウレンという男、主人のスコルピオの寝室や仕事部屋に勝手に入り、どうぞと手招きしてたりするのだ。
この男は、そこまでスコルピオに信用されているのか?
少し気になるので聞いてみるべきだな。
「ウレンさん、部屋に勝手に入ってもいいのでしょうか?」
「ああ、大丈夫です。あの人口は悪いですけど結構いい人なんですよ。屋敷の全員を誘って昼食を一緒に食べたりとか、健康を気遣ってくれたりとか、素晴らしい人なんです。口だけは悪いですけど。町の人達達全員慕っているでしょう」
その話を聞いていたグリア―デが、ギリリと歯ぎしりをしているのを見逃さなかった。
しかしあの男の印象が俺のものと全く違うのだが、部下の働きっぷりを見れば案外そうなのかと思えてしまう。
部下に慕われる良い領主か、それとも領主の座を奪った悪い領主か…………
人の心というのは複雑だ。
どれ程の人物であろうと、人である以上は好き嫌いはある。
俺にはまだ判断がつかない。
何方にも身を振れるように、行動には注意しなければな。
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