一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 ラングリオの町

 休憩中の俺達だが、休憩しているのは主に馬だけだ。
 何度目かの魔物の襲撃は、俺達を休ませてはくれなかった。


「お、おい、そいつを早く始末しろ!」


 馬車の中から、スコルピオが偉そうに指示をしている。


「言われなくても、やっているでしょ!」


「煩いわい! 後からゴチャゴチャ言わんでくれ! 気が散るんだ!」


「言い合ってないで支援をください! 一人じゃ無理いいいいいい!」


「ガルス、そのまま押さえて居ろ! 俺が一気に決めてやる!」


 剣の一閃で魔物が沈み、ようやく静けさを取り戻した頃。
 このまま朝までこの場に留まるか、それとも安全な町まで進むべきか悩んでいた。
 まだ夜は始まったばかりで、朝までは、かなりの戦いが予想される。
 それよりは、多少無理をして町へ向かうかどうかだ。
 だが町に着いたは良いが、町の門が閉じられている。
 そんな事も考えられるのだ。
 だから俺は嫌々ながらも、スコルピオに相談してみた。


「ワルザーさん、この先の町のことなのですが、今このまま進んだとして、夜間の入場は可能でしょうか?」


「おい貴様、私のことはワルザー様と言え」


 そのまま沈黙の時間が流れる。
 どうもそう言わなければ答えないらしい。
 ここは隊の隊長として我慢をするべきか…………


「…………ワルザー様、それで、どうなのですか?」


「そうだな……この先の町はラングリオと呼ばれる我が領土の一つだ。例え夜だとしても、この私が到着したならば門は開かれるだろう」


「なるほど、それなら進むという選択肢もありだろうか…………情報提供を感謝するぞワルザー」


「おい、貴様、今私の名前を呼び捨てにしなかったか?!」


「気のせいだ。では全員出発の準備を急げ。警戒も怠るなよ!」


「おうよ、もう殆ど整っとるわい。いつでも出発出来るぞ」


「行くよセリィ、急いで馬車に乗るよ!」


「お~!」


 煩いスコルピオの小言を聞き流しながら、ラングリオの町へと向かい始めた。
 移動中の戦闘は激しく、四本もの剣が消失してしまった俺は正直もう戦いたくなくなっている。
 手持ちの武器も含めて、もうあと十六本しかない。
 今度の町で補充しなければと思いつつ、その町の門に到着したのだった。
 だが門は硬く閉じて、夜間の見張りすら見当たらない。


 その門前に立ち、スコルピオが大声で叫び出した。


「この町の主人、スコルピオ・ワルザーが帰還したぞ! 直ぐに門を開けるのだ! …………おい、誰も居らぬのか?! 返事をしろ!」


 激しく叫び続け数分、やっとのことで見張りの兵の一人が顔を出した。
 暗くて顔はよく分からないが、たぶん男だろう。


「お待たせしてすみませんワルザー様。じつは町中に盗賊が現れまして、ワルザー様の屋敷に忍び込んだのです。今必死で追い掛けておりますので、今門を開ける事は出来ないのです! 出来る限りの支援を致します、ですのでその場で待機していてもらえませんでしょうか!」


「わ、私の屋敷に忍び込んだだとおおおおおおおおおおお! おい、被害はどうなっている?! いったい何を盗まれたのだ?!」


「す、すみませんワルザー様。私もまだ把握できていないのです。状況確認出来たら直ぐにお知らせいたしますので、そのまま暫くお待ちください! では私も盗賊を追い掛けますので、失礼いたします!」


「お、おい! 私はこのままか! おいいいいいい!」


 見張りの男は行ってしまった。
 それから何時間も待っていたが、その男は帰って来ず、結局朝まで門の前ですごしたのだった。
 日が昇り辺りが明るくなると、やっとのことで門が開かれ、町の中に入る事ができたのだが、結局盗賊は捕まらなかったとかで、スコルピオが激怒している。


「おい貴様、確かマルクスと言ったな?! 貴様達に命じる、我が屋敷に侵入した盗賊をひっ捕らえろ!断るのならばこの町から出してやらんぞ!」


「はぁ、なんだと! 命を救ってやったのに、よくもそんなことを言える物だ! マルクス、こんな奴に付き合う必要はない、今直ぐ出発するぞ!」


「では罪人としてひっ捕らえてくれようか。お前達には受けるしか道はないのだ。大人しく私に従え!」


「「ッ!………………」」


 その言葉に、ザっと兵隊たちが集まって来ている。
 すでにこちらより人数が多く、戦えば無事では済まない。


「…………言っておくが、俺達も国の命で来ているんだ。邪魔するのなら外交問題になるぞ?」


「断る気か? 外交問題になる前に、魔物に殺されたことにしても良いのだぞ!」


「…………チッ、やはり助けるべきではなかったな…………分かった、その依頼受けてやろう。ただし明後日までだ、それ以上邪魔をするなら、強行突破させてもらうからな」


「ふん、ではその日までに賊を捕まえるのだな。出来なければ、永久にこの町に留まってもらおうか。ふはははは!」


 スコルピオが去って行く。
 自分の屋敷にでも行くのだろう。


「どうするんだよマルクス! 彼奴の言う事を聞いて盗賊を探すのか?! 私はそんなのしたくないぞ!」


わしもだ! あんな奴の言うことを聞くことはない! 今直ぐ町をでるべきだ!」


「でもさでもさ、兵士の人達がこっち見て睨んでるよ。あの人達と戦うなんて嫌だよ。人数的にも勝てそうもないし」


 律儀にスコルピオの言うことを聞き、兵士達が戦闘体勢を維持している。
 あんな男だというのに意外と忠義には厚いらしい。
 案外やることはやっているのか?


「…………今は彼奴の言うことを聞くしかないだろうな。まだ約束の時間までには時間はあるが、あまり時間を掛け過ぎては任務に支障が出そうだ。明後日までに賊を見つけ出すぞ」


「ぐぬぬぬぬ! やりたくはないが、やるしかないだろうな。こ奴等もタダ彼奴にしたがっているだけなのだしな」


「あああ、もうムカつくな! あんなのの言うこと聞きたくないよ!」


「ないよ~!」


「ラクシャーサ、落ち着いてよ。セリィまでマネしちゃうだろ。で、具体的にどう行動するのマルクス」


「そうだな…………まず第一に武器の調達だ。魔法の為に俺の武器が少なくなっている。今後の為にも優先的にやらなければならない。まずは武器屋を見つけるんだ。もしかしたら珍しい武器も見つけられるかもしれない。では行くぞ皆!」


「「「一人で行って来い!」」」


「い!」


 今後魔法を使う為にも、武器の補充は急務だというのに、一体何故だろうか。
 俺には理解出来ない。


 何度か説得を続けるものも、ことごとく俺の提案は却下され、結局スコルピオの屋敷へ向かうこととなった。






 だがスコルピオの屋敷を探し出そうと聞き込みを続ける俺達の元に、それを阻止するかのように、一人の女性が現れたのだった。



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