一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
17 新たなる力。
物資輸送の任務を終わらせた俺とラクシャーサは、城におもむき魔法という力を得ていた。
その力を試す為に、神都の南の野にいる魔物との戦闘を行っている。
敵の数は五体で、巨大な蟹が二体、筋肉質な豚が一体、緑色の小さな人型、ゴブリンが二体だ。
錆び付いた剣を持ったゴブリン二体に、ガルスとドル爺が、それぞれに分担して相手をしていた。
「こっちはこっちで手一杯だよ! 残りは自分でどうにかしてくれ!」
「おい、そっちへ行ったぞマルクスよ! 気をつけろ!」
「いや、それは魔法を使うのに丁度良い」
俺の元には豚の魔物が一匹、ラクシャーサの元に蟹の魔物が二匹向かっている。
愛用の剣の一本、シュヴァイツァーサーベルを手に取った俺は、目の前の豚の魔物に向けて、力を具現化させる言の葉を唱えた。
「神炎よ、我が剣に具現せよ! 出でよ、鳳凰の剣!」
剣の白刃に、燃え盛る炎が宿り、野に放たれた魔物の一体を斬り伏せた。
斬傷と共に、剣に宿る炎が、相手の体全体を包み込み、燃やし尽くす。
魔物は灰と化し、砕け散って消えている。
これは魔法という力を得た、俺の新たなる力の一つだ。
他にも風の力や、地の力を扱えたりもする。
威力としても申し分ないのだが、ただこれを使うと、数回で俺の愛剣が一本潰れるという困った事になってしまうのだ。
重要な場面でしか使いたくはない。
そしてもう一人、ラクシャーサも魔法の恩恵を受けている。
もう一体の大きな蟹の魔物に向かい、その力を試そうとしていた。
「炎熱の力よ、我が属性に力を与えよ! さあ顕現せよ、燃え盛る、神の水!」
ラクシャーサの力ある言葉により、魔物の上空から巨大な水の塊が落ちる。
火の力により過熱されたその水は、大きく湯気を立ち昇らせながら魔物はそれを頭からかぶった。
地にまで落ちた水は、一瞬で煙になって天に帰って行く。
その立ち昇る湯気でさえ相手の呼吸器にダメージを与えている。
この魔法は、魔物を圧死させるものでも、水死させるものでもなく、その熱によりゆで上げるというものなのだ。
簡単に言えば熱々の熱湯をかけているのと一緒だが、案外その効果は高い。
全身火傷なら、命すら奪ってしまえる程のもので、そこまでいかなくても皮膚や筋肉が収縮し、動きも鈍るのだ。
黒っぽい巨大な蟹の一体は、真っ赤に茹で上がっている。
案外美味いのかもしれないが、俺としては魔物の蟹など食いたくはないな。
「ラク、もう一体私、やる」
「大丈夫。このぐらい平気だから!」
もう一体の蟹は、魔法の範囲にはおらず、無事に逃げおおせたらしい。
ラクシャーサに向かい、体を左右に移動させながら近づいていた。
セリィが弓で牽制をしているが、硬い甲羅には突きささらない。
それでもラクシャーサは落ち着いている。
もう一つの魔法を試すのに丁度良いからだろう。
先ほどの水の力も相当強いものだが、彼女にはもう一つ魔法を与えられているのだ。
その魔法は、一度は前衛に立ちたいと言った、彼女の願いを叶えるものだった。
「泥の渦よ、我が力を伝える形となせ! 現れよ、土塊の人人形!」
地にある土の塊から、人の形が形成される。
その土人形は、鎧を着た神兵をイメージしたものだろう。
二メートルぐらいの身長と、力強い肉体再現している。
手には石の剣と、石の盾を持ち、彼女の魔力で動かせる物らしいのだ。
動きはそれほど素早くないが、力としては相当なものらしい。
巨大な魔物の体当たりにもビクともせず、石の剣を頭上から振り下ろしていた。
その石の剣に切れ味なんてものはなく、ただその重さと形状のみで巨大な蟹の甲羅を叩き割る。
ガルスとドル爺もそれぞれにゴブリンを倒し、魔物達は全滅したのだった。
「ふぅむ、中々硬そうな良いものなのではないか? これだったらガルスは要らぬなぁ。仕方ない、これからは荷物持ちとして頑張っていけよ」
「えっ? 荷物持ちでいいなら俺はそっちが良い! だって盾って怖いんだもん!」
「今のは冗談だわい! 全く、だもん、じゃないわい。ガルスよ、お前には自分の仕事にプライドというものはないのか?!」
「全くないよ! 武器を持った相手に突っ込むのも怖いけど、魔物なんて何してくるか分かんないんだからもっと怖いんだよ! そもそも止まらない事もしばしばあるし、やめられるならやめたいんだ!」
このまま盾役をやめられても困るな。
少し説得してみるか。
「安心しろガルス、俺はお前をやめさせたりはしない。だから自分の職をやめたいなど言うんじゃない。無理に逃げようとすれば、神国の掟により打ち首になってしまうぞ」
「ええぇ、そんな掟があるんだ?! し、知らなかった。 …………し、死にたくないから頑張るよ」
本当はそんな掟はないのだが、やめないのならそれでいいだろう。
「よし、魔法の威力確認も出来たことだし、一度隊舎に戻るとしようか」
そして俺達は隊舎に戻るのだが、何故か厳つい大きな置物が椅子の上に座ってる。
場所を間違えたのかと一瞬思ったのだが、この中は間違いなく俺達の隊舎だ。
昔誰かが書いた落書きが此処から見える。
その置物だが、いかつい顔は見た事があるし、その巨大な姿は間違えるはずもない。
「だ、大隊長、何でここに居るんですか?!」
セリィ以外はビシッと直立不動になり、セリィもそれに真似て同じ格好をしてくれる。
「実はな、最近お前達の隊の活躍が目覚ましいのでな、少し重要な任務を与えようと思っているのだが、当然受けるのだよな?」
大隊長が直々に来て頼みごとをしているのだ。
この言い方をみてもどうせ断れないだろう。
否定するだけ印象が悪くなると、俺はそれを受け入れた。
「ハッ、当然です。それで、任務とはどんな内容なのでしょうか」
「お前達はこれからマリア―ドに向かい、その国の国宝であるレッドダイヤモンドを取って来て欲しいのだ。安心しろ、泥棒をしてこいと言ってる訳ではない。ちゃんとこの国に譲渡される手筈になっている。
「レッドダイヤモンドですか…………」
色付きのダイヤなんて俺達が見たこともない程の値段がつく。
しかも隣国の国宝だとしたら、扱いには気をつけなければ。
もし無くしたり落としたり、奪われたとしても俺達の命はないだろう。
断れるなら断りたいが、絶対聞き入れてはくれないな…………
「詳細はこの書類に書き記してある。急ぎラグナードへと向かうのだ」
「ハッ、では早速準備に取り掛かります。行くぞ皆!」
「「「了解!」」」
「かい!」
俺達は大隊長から書類を受け取ると、ラグナードへの出発の準備に取り掛かった。
その力を試す為に、神都の南の野にいる魔物との戦闘を行っている。
敵の数は五体で、巨大な蟹が二体、筋肉質な豚が一体、緑色の小さな人型、ゴブリンが二体だ。
錆び付いた剣を持ったゴブリン二体に、ガルスとドル爺が、それぞれに分担して相手をしていた。
「こっちはこっちで手一杯だよ! 残りは自分でどうにかしてくれ!」
「おい、そっちへ行ったぞマルクスよ! 気をつけろ!」
「いや、それは魔法を使うのに丁度良い」
俺の元には豚の魔物が一匹、ラクシャーサの元に蟹の魔物が二匹向かっている。
愛用の剣の一本、シュヴァイツァーサーベルを手に取った俺は、目の前の豚の魔物に向けて、力を具現化させる言の葉を唱えた。
「神炎よ、我が剣に具現せよ! 出でよ、鳳凰の剣!」
剣の白刃に、燃え盛る炎が宿り、野に放たれた魔物の一体を斬り伏せた。
斬傷と共に、剣に宿る炎が、相手の体全体を包み込み、燃やし尽くす。
魔物は灰と化し、砕け散って消えている。
これは魔法という力を得た、俺の新たなる力の一つだ。
他にも風の力や、地の力を扱えたりもする。
威力としても申し分ないのだが、ただこれを使うと、数回で俺の愛剣が一本潰れるという困った事になってしまうのだ。
重要な場面でしか使いたくはない。
そしてもう一人、ラクシャーサも魔法の恩恵を受けている。
もう一体の大きな蟹の魔物に向かい、その力を試そうとしていた。
「炎熱の力よ、我が属性に力を与えよ! さあ顕現せよ、燃え盛る、神の水!」
ラクシャーサの力ある言葉により、魔物の上空から巨大な水の塊が落ちる。
火の力により過熱されたその水は、大きく湯気を立ち昇らせながら魔物はそれを頭からかぶった。
地にまで落ちた水は、一瞬で煙になって天に帰って行く。
その立ち昇る湯気でさえ相手の呼吸器にダメージを与えている。
この魔法は、魔物を圧死させるものでも、水死させるものでもなく、その熱によりゆで上げるというものなのだ。
簡単に言えば熱々の熱湯をかけているのと一緒だが、案外その効果は高い。
全身火傷なら、命すら奪ってしまえる程のもので、そこまでいかなくても皮膚や筋肉が収縮し、動きも鈍るのだ。
黒っぽい巨大な蟹の一体は、真っ赤に茹で上がっている。
案外美味いのかもしれないが、俺としては魔物の蟹など食いたくはないな。
「ラク、もう一体私、やる」
「大丈夫。このぐらい平気だから!」
もう一体の蟹は、魔法の範囲にはおらず、無事に逃げおおせたらしい。
ラクシャーサに向かい、体を左右に移動させながら近づいていた。
セリィが弓で牽制をしているが、硬い甲羅には突きささらない。
それでもラクシャーサは落ち着いている。
もう一つの魔法を試すのに丁度良いからだろう。
先ほどの水の力も相当強いものだが、彼女にはもう一つ魔法を与えられているのだ。
その魔法は、一度は前衛に立ちたいと言った、彼女の願いを叶えるものだった。
「泥の渦よ、我が力を伝える形となせ! 現れよ、土塊の人人形!」
地にある土の塊から、人の形が形成される。
その土人形は、鎧を着た神兵をイメージしたものだろう。
二メートルぐらいの身長と、力強い肉体再現している。
手には石の剣と、石の盾を持ち、彼女の魔力で動かせる物らしいのだ。
動きはそれほど素早くないが、力としては相当なものらしい。
巨大な魔物の体当たりにもビクともせず、石の剣を頭上から振り下ろしていた。
その石の剣に切れ味なんてものはなく、ただその重さと形状のみで巨大な蟹の甲羅を叩き割る。
ガルスとドル爺もそれぞれにゴブリンを倒し、魔物達は全滅したのだった。
「ふぅむ、中々硬そうな良いものなのではないか? これだったらガルスは要らぬなぁ。仕方ない、これからは荷物持ちとして頑張っていけよ」
「えっ? 荷物持ちでいいなら俺はそっちが良い! だって盾って怖いんだもん!」
「今のは冗談だわい! 全く、だもん、じゃないわい。ガルスよ、お前には自分の仕事にプライドというものはないのか?!」
「全くないよ! 武器を持った相手に突っ込むのも怖いけど、魔物なんて何してくるか分かんないんだからもっと怖いんだよ! そもそも止まらない事もしばしばあるし、やめられるならやめたいんだ!」
このまま盾役をやめられても困るな。
少し説得してみるか。
「安心しろガルス、俺はお前をやめさせたりはしない。だから自分の職をやめたいなど言うんじゃない。無理に逃げようとすれば、神国の掟により打ち首になってしまうぞ」
「ええぇ、そんな掟があるんだ?! し、知らなかった。 …………し、死にたくないから頑張るよ」
本当はそんな掟はないのだが、やめないのならそれでいいだろう。
「よし、魔法の威力確認も出来たことだし、一度隊舎に戻るとしようか」
そして俺達は隊舎に戻るのだが、何故か厳つい大きな置物が椅子の上に座ってる。
場所を間違えたのかと一瞬思ったのだが、この中は間違いなく俺達の隊舎だ。
昔誰かが書いた落書きが此処から見える。
その置物だが、いかつい顔は見た事があるし、その巨大な姿は間違えるはずもない。
「だ、大隊長、何でここに居るんですか?!」
セリィ以外はビシッと直立不動になり、セリィもそれに真似て同じ格好をしてくれる。
「実はな、最近お前達の隊の活躍が目覚ましいのでな、少し重要な任務を与えようと思っているのだが、当然受けるのだよな?」
大隊長が直々に来て頼みごとをしているのだ。
この言い方をみてもどうせ断れないだろう。
否定するだけ印象が悪くなると、俺はそれを受け入れた。
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色付きのダイヤなんて俺達が見たこともない程の値段がつく。
しかも隣国の国宝だとしたら、扱いには気をつけなければ。
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