一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

10 水分の重要さ。

 レシュトリアから放たれた攻撃は、今までよりも激しく強くなっている。
 口からだけではなく、杖の先からも黄色いものが放たれた。
 杖の先から出ているものは口からのものよりかなり弱いが、なるべくならあれは当りたくない。


「貴様のチ〇コを寄越せええええええええええええええ!」


「ひいぃ、何なんですかあの女は、まさか切り取って食べたりするんですの?!」


「おいバール、あんな男にとって危険な女は退治しちまってもいいんだよなぁ?!」


「はい、でもなるべく生かしてくださいよ。流石に殺すのは可哀想なので」


「ああ、出来ればやってやるぜ!」


 隊長がレシュトリアの後ろに出現し、先ほどと同じように攻撃するのだが、バチンと弾き飛ばされた。


「同じ攻撃を二度とくらうものか! 観念して、貴様の物を寄越せ!」


 掴みかかろうとするレシュトリアの手をかわす隊長だが、隊長が動きを止めて、地面にゆっくりと降りて行く。
 そして地に降りると、股間を押さえてうずくまった。


「ぬぐ、うおおおおおおおおおお! なんか玉がキュンキュンするぞ! 一体なんだこれはああああああああ!」


「ふっ、貴様には玉がキュンキュンする呪いをかけた。全ての男は私の前では無力になるのだ! さあ大人しくズボンを下ろせ!」


「や、やめろ! 俺の大事なモノに触るんじゃねぇ!」


 なんて恐ろしい攻撃なんだろうか。
 男の玉がキュンキュンするのは稀に良くある現象だが、その痛みは動くのに困るぐらいには痛いのだ。
 動けない隊長をこのまま放って置くのは不味い。
 レシュトリアによって、男としての機能を切り取られてしまう!


 俺はちょっと怖かったが、盾でレシュトリアへとぶつかり、弾き飛ばす予定だった。
 ガンとぶつかった俺だが、俺より体重の軽いだろうレシュトリアは、そのまま止まったまま動きもしない。


「パパ、無駄な事はしないほうがいいのよ。さあパパにもかけてあげる」


 レシュトリアの手が俺の股間近くに伸ばされ、ペロッとでた。
 手は触れていない。
 触れてはいないのだが、俺の玉がキュンキュンしだした。
 しかも何かたまにくるものよりも異常に痛い。


 痛みで顔面から倒れこんだ俺は、レシュトリアに尻を突き出した状態になってしまう。
 ああ、地面が異常に冷たい。
 まるで氷ついてるみたいだ。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「さあパパ、もう少しよ! 私と一緒に帰れるのよ!」


 レシュトリアはうずくまった俺の背後から、ズボンに手を掛けた。
 女性にそれをされるのは別に構わないのだが、アレが切り取られるのは絶対に無理!
 しかし俺は痛みで動けず、隊長も動けなくなっている。


 もう彼女を放っておけば、全世界の男の敵になってしまう!
 それは不味い!
 男のチ〇コを切り取られまくったら子供が出来なくなって、本当に世界が滅びてしまう!


 たっけてフレデリッサ、世界を救えるのはもう君だけだ!


「待ちなさい、その男のモノを斬り落とされては、私もほんの少しだけ困りますわ。止めさせてもらいましょうか!」


「ふん、おばさんが今更何の用なの? 邪魔だから逃げ帰れば良いのに」


「ふふふ、今は何方がおばさんなのか、貴女の方がおばさんなのではなくて? ふふふ」


「へ~、私と戦おうというの? おばさんがは自分が勝てない相手だと理解出来ないのかしら?」


 フレデリッサはどう動く?
 普通にやっても勝ち目がないし、攻撃も弾かれる。
 だが、フレデリッサは不敵な笑みを絶やさない。


「確かに貴女の攻撃はすさまじく、攻撃も効かないのなら打つ手がありませんね。でしたら、それが攻撃ではなければ如何いかがでしょうか?」


「おばささん、まさか時間稼ぎでもしようというのかしら?」


「いいえ、もうすでにその時間は終わっておりますわよ。貴女が、その二人の男に気を取られている間にね」


 レシュトリアの目の前に雪の結晶が舞い落ちた。


「…………ッ!」


 俺と隊長、フレデリッサが居る場所以外は、地面に霜が立ち、天井からは氷柱が伸びている。
 普通なら周りが冷えれば、気付く者もいるだろう。
 だが俺達だけは、その温度を体感していない。


 フレデリッサが操る雪の魔法とは、水に熱引いた魔法で、使うのはベースとなる水、それに炎という熱を操る魔法を加え、極限にまで熱を除去した魔法。
 そう、その熱の魔法を使い、俺達の周りにだけ今までと同じ気温を作り出していたのだ。
 気付くはずもない。


「それが一体なに?! 私には何もダメージは…………!」


「気付きましたか? 自分の足が動かなくなっている事をね。それだけでは御座いませんわよ。貴女は湿度と言う物をご存知かしら? ……まあ化け物なんですから知りませんわよね。貴女の周りにだけ、それが限りなくゼロになっているとしたら、今の貴女の状態は…………」


 レシュトリアは自分の手で喉を押さえて、苦しみ始めた。


「う、げほッ、げほッ! がッ、かは…………」


「そうなりますわよね。もう口は開かない方が宜しいですわよ? 直ぐに乾燥して肺にまで影響がでますので」


「げほッ、げほッ、げほッ…………!」


「動けず、口も開けず、残る手段はその杖だけですが……その状態で使えるのでしょうか? 諦めて降参なさったら如何いかがですか?」


 抵抗しようと立ち上がるレシュトリアだが、今こうしている間にも別の効果を表し始めている。
 それは寒である。
 薄着のドレスしか装着していないレシュトリアにとって、冷気というのは大敵だったのだ。


 体や腕をブルブルと震わせ、落ちるのも時間の問題だ。 
 これは入念に準備を進めていたフレデリッサの勝ち。
 キュンキュンしていた玉の痛みも徐々に収まって来ている。
 体調の万全になった俺達三人に、体を震わせ、息も満足に出来ないレシュトリア。






 もう勝負は決まり、そして俺達に掴まった彼女は、狭い個室に閉じ込められて、両手両足を鎖で繋がれた。



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