一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 小さく大きな物語11

 次の日の朝、泊めて貰った礼というよりも、戦いの為に泊められた俺とストリアは、もうそろそろ別の宿の奴等と戦う事になっている。
 因みにこの宿の親父が言うには、俺の使うクロスボウは、子供のおもちゃだと馬鹿にしていた。
 自分で弦を引く事も出来ない物を、認めないらしい。
 ということでストリア一人が戦う事になっているんだが、そもそもストリアは、遠距離より近距離の方が得意なんである。


 それで今回使う弓という武器だが、決闘には相当不向きな武器なのだ。
 どの位不利かというと、近づかれたらほぼ勝ち目がない。
 剣に切り替えれば良いと言う話だが、クロスボウも否定する親父はそれを許さないだろう。


 矢を手に持って連射するにしても、それなりに時間が掛かるし、持ち歩くには嵩張ってしまい、そう多くは持ち運べないのだ。
 その矢を入れる矢筒やづつだが、相当大きくても十数本入るかどうかで、近づく相手から逃げなきゃいけないけど、逃げながら弓を放つのも相当大変で、当然手元がぶれるから名人でもなければ狙った所に行かない。


 言わずと知れた事だが、矢は正面にしか飛ばなし、二人が同時に来た場合、一方はフリーになる。
 もう一つ言えば、対戦相手は剣と盾の相手なのだ。
 盾の相手、重装備だった場合は、鎧にすら刺さらない可能性だってあるという。


 不利な部分を並べてみると、相当多い事が分かると思う。


 で、リッド達が親子水入らずで居る、広場とは逆側の、建物の裏側の平原。
 決戦の為にそこで俺達が待っていると、別の二つの宿からも、対戦相手を引き連れ、宿の親父達がやって来た。


 剣の宿からは、魔物用の巨大な大剣を両手で持ち、動きやすい様に装備も軽い物になっている、大柄の男だった。
 皮をベースに、所々鉄で補強された鎧と、頭の上部だけを護る兜をかぶっている。


「ふっ、決着をつける日が来た様だな! 弓のアーノルド、盾のレイドリッヒ!」


 盾の宿からは、殆どフルプレートと同じ鎧を付けて顔も見えないが、体型からすれば男で、攻撃を受け止める分厚い盾と、あまり重くならない軽めの剣を持っている。


「今日こそ決着をつけてやるぞ。剣のデッド、弓のアーノルド!」


「誰が相手だろうと弓が負けるはずはねぇ! 二人纏めて掛かってこいや!」


 そしてストリアと俺を連れた弓の親父。
 今運命の戦いが始まろうとしていた!(他人任せで)


「レティ、勿論私を応援してくれるよな?」


「当ったり前だろ! 勝ってこいよストリア!」


「ああ、任せておけ!」


 そして戦う三人が顔を合わせた。
 最初に声を発したのは、盾の宿の男だ。


「さて、先ずは自己紹介でもするのかね?」


「ハンッ! 別に仲良しごっこをする訳じゃないんだ、名乗り合いなんて不要だ! だが、この剣で斬られて生きていられると思うなよ?」


「それが私に当てる事が出来るのならだがな。さあ何時始める? 私は何時でも良いんだぞ」 


 敵のこの二人は、この時代に旅を続ける猛者だ。
 しかも俺を含め、ストリアは旅を始めたばかりの未熟者だ。
 相手の方が格上と見て良いだろう。
 そしてやはり弓しか持たせて貰えてないストリア。
 危なくなったら俺が止めに入るか。


「「「………………」」」


 三人は睨み合い、暫く無言でいたのだが、合図をするまでもなく、戦いが開始された。
 まず動いたのはストリアだ。
 後方に跳び距離を取ると、後ろを振り向かずに走り出す。


「逃がすかあああああああああああ!」


「ぬおおおおおおおおおおおおお!」


 剣と盾の男は弓の距離を与えるのを良しとせず、同時にそれを追って動き出すのだが、盾の男は自分の重さで走る事が難しく、早々に諦めて剣の男に斬り掛かる。


「貴様、やはりそう来たか!」


「この私を忘れるな!」


 剣の男はそれを大剣で受け止めるのだが、充分な距離を取ったストリアから、弓の一撃が放たれた。


 狙ったのは、防具の少ない剣の男ではなく、鎧の堅そうな盾の男だ。
 鎧の隙間を狙った様だが、そこまでの腕がないストリアの矢は、分厚い鎧に弾かれてしまう。
 たぶん盾の男との一騎打ちは避けたかったのだろう。
 弓だけでは攻撃力が足りないから。


 弓で分厚い鎧を抜けないというのに、再び盾の男を狙った矢を放つ。
 今度は盾で防がれるのだが、剣の男がストリアを追うのを一旦諦め、盾の男に斬り掛かった。


「これで終わりだああああああああああ!」


「その程度でッ!」


 それは手に持った剣で受け止められるのだが、両手持ちの大剣を、片腕で受け止めきるのは不可能だった。


「うぬううううううううううう! …………ぐおおおおおッ」


 押し返されて鎧の上から大剣の一撃を与えられた盾の男は、肩の部分の鎧が凹んで、相当なダメージを受け、それにより持っていた剣を落としてしまった。
 その瞬間ストリアは狙いを変え、剣の男の脚を狙って、連続で矢を放った。


「ぐあああああああああああああ!」


 脚に矢が刺さった剣の男は、その場で蹲って動けなくなり、そんな男に止めを刺したのは横に居た男の盾による強撃だった。


「やったぞ、やはり盾の勝ちだ! 残りの弓も叩き潰してしまえ!」


 もう勝った気でいる盾の親父だが、戦いは続いているのだ、まだ結果は分からない。
 そして残ったのが盾の男とストリアだが、剣が使えなくなったとはいえ、弓でその防御を打ち破るのは難しい。


 距離を取るかと思われたストリアは、弓を構えたまま、逆にその距離を詰めていく。
 盾の男はストリアの動きを見続け、その出方を窺っていた。


「まさかその弓でこの私に殴り掛かる積もりではあるまいな? 非力な女の腕でこの鎧を崩す事は出来んぞ! それとも先ほどの怪我の部分でも狙う積もりか? やれるものならやってみるがいい!」


 盾を構えた男は、全く隙を見せない。
 ストリアから見ても、男に狙うべき場所はなかっただろう。
 矢を放ったストリアは、その男の構えた盾を狙ったのだ。


 やはりというかその盾には刺さる事もないのだが、その一瞬で方向を変えた。
 動きながら矢を放ち、落ちている盾の男の剣を掴んで、弓を投げ捨てた。


「「「はぁ?!」」」


 驚く親父達だが、別に落ちている剣を使ってはいけないというルールはない。
 得意な剣を使い始めたストリアの猛攻に、盾の男は防戦一方になっている。
 実際盾で殴るぐらいしかできない男には、もうストリアを止める事が出来なかった。






 剣を盾にぶつけて、その隙に傷ついた腕を蹴り付け、最後には男が負けを認めた。



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