一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

3 無敵の怪物となったあの人は、ただ欲望のままに追い続ける。

 フレデリッサを餌にして、巨大なモンスターと化したバールを誘導していくのだが、王国の正門からは、どうやっても通らない。


「嫌あああああああ! 早く目を覚ましなさいよバール!」


 フレデリッサがバールの事を心配して……ではなく、とんでもないものを向けられて、自分の体を狙われているのに恐怖している様だ。


 このまま突き進んで行ったら、正門にぶつかってしまう。
 それでもし恐ろしい事にでもなれば、取り返しのつかない事になる
 もういっそ正門を破壊するしかないだろう。


「全隊、正門を破壊せよ! 急いでこの馬鹿を通せるだけのスペースを作るんだ! 急がないとまた変な液体ぶちまけられるぞ!」


「「「「「 応!! 」」」」」


 かなりの人数が正門の破壊に乗り出すが、魔物の進入を防ぐ為に頑丈に作られた正門は、簡単には壊れなかった。
 門が破壊される間にも、巨大なモンスターとなったバールの”首”が、フレデリッサに向けられている。
 壊されるまで馬車を止めていては、あのモンスターの餌食になってしまう。
 開け放たれた門の外に出なければ。
 べノム達が門の開閉を待っていると、そのモンスターはグググっと頭を倒し、(起こし)ゆっくりと目的のフレデリッサを食らおうとしていた。


「そ、そんなの入れたら死んでしまうわよ! 無理無理無理! そ、そんなにやりたいんなら、元に戻ってからにしてくれませんか! や、やめて、本当にやめて! きいいいいいいいいいやあああああああああああああ!」


「お、俺まで巻き込むんじゃねええええええええええええ!」


 想像できるだろうか?
 圧倒的な巨大な男根が、馬車に振り下ろされる所が。
 そんなものが人間に当たれば、普通に死は免れないだろう。


 そしてそんな死に方をしたい者は、きっと誰も居ない。
 だがそこへ、べノム達の助けに入った兵士が居た。 


「べノムさん、この門は僕がやります! さあ行くぞアストライオス、その力を見せてやれ! とりゃああああああああああ!」


 イバスの操った、天動兵器と呼ばれた巨大天使型兵器が、その巨大な剣により、開きかけていた正門を一気に断ち切った。
 そしてそのまま体当たりすると、門がバカンと吹き飛び、モンスターが通れる隙間が出来たのだった。


「さあべノムさん、今の内に!」


「うおおおおおおおおおお、あんなのに潰されてたまるかあああああああああああああ!」


 馬車が走り出し、正門から脱出したべノム達。
 逸物は巨大だと言っても、その足であるバール自体の体はそう大きくない。
 馬車が走り出すと、相手との距離が離れだし、王国を巻き込まないぐらいの距離を目指した。
 走り出した馬車に逃げられそうになったモンスターは、もう一度首を起こし、(倒し)馬車を追いかけてきている。


「うおおおおおおおおおおおおお、もう少しだああああああああああああああ!」


 巨大モンスターを誘導し、王国の被害が出ないであろう平原まで誘導に成功した。


「よし、全隊、攻撃を開始しろ!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」


 王国兵がそのモンスターへ攻撃を開始するのだが、どれ程の炎や、稲妻、剣や槍の攻撃も弾かれてしまう。
 ならばと、イバスの操ったアストライオスで攻撃を仕掛けるのだが、巨大な剣の一撃を以ても、モンスターはビクともしない。
 むしろその刺激を受けて、血管が浮き上がっている。
 まさか、アレが意思を持って怒ったのかだろうか?
 有り得ない状況が続く中、圧倒的な巨大生物が、反撃に転じた。


 その首をしならせながら、この中で一番攻撃力を持って居るだろうアストライオスに襲い掛かった。
 硬くなったといっても、それはバールのチ〇コである。
 恐ろしく硬いアストライオスにはダメージは無いと思われていた。
 しかし、二百五十メートルもある質量は膨大で、いくらチ〇コと言っても受け止める事は出来なかった。


「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!」


 棒で打ち返される球の様に、アストライオスは遠くへ消えて行った。
 機体へのダメージも深刻だろう。
 戦いへの復帰は難しいと思われる。


「一体なんだこの強さは! バールの奴、明らかに可笑しいだろうが! クソッ、だったら…………チ〇コが駄目なら本体を叩け! 体とチ〇コのバランスも悪い、脚を崩せば勝手に倒れて起き上がれなくなるだろう! さあ狙ええええええええええ!」


 途方もない程の攻撃が、バールの体に突き刺さる筈だった。
 しかしその尽くが、体に突き刺さる前に、妙な防壁によって防がれてしまう。
 これは魔法ではない。
 魔法ならば三回で効果が切れるはずだが、全く消える気配がない。
 今このバールという男は、無敵状態となっているのだ。


「ちょ、ちょっと貴方! 私は何時までこんな格好をしとけばいいのですか?! 早くロープを解いてほしいのですれけど!」


 攻撃は効かないのだが、唯一誘導出来るのがこのフレデリッサという女だった。
 今この女に逃げられては不味いと、べノムはその提案を無視する事にした。


「攻撃が効かないとなると、ちょっと不味いな…………いや、一つ手があるか? あの体格なら絶対抜け出せないだろう。良し! 此奴は大土竜の墓場へと誘導して落としてやる! 此奴の注意を引く、全員フォローを頼むぞ!」


「ねぇ、ちょっと貴方! 私の話を聞きなさい!」


「じゃあ出発だ! 邪魔するキメラが居たら、殲滅しろ!」


「「「「「 応!! 」」」」」


 全体が散らばり、進路の邪魔者を薙ぎ払って行った。
 べノムは馬車を、大土竜の墓場と呼ばれる大穴へと進まて行く。


「わ、私は何時まで裸体を晒せばいいのです?! 何時までも愚民共に裸を見られるのは辛いのですが!」


「安心しろ、今お前に興味あるのは、お前に向かって来ているあの馬鹿しかいないぜ。皆王国のピンチに必死だからな! 例えあんな馬鹿が相手でもだ」


「だったら貴方は私の裸に興味ないのかしら? 貴方だって男でしょうに」


「わりいが、家には嫁が居るんでね。あいつも案外おっかないからな、女に目が行くような下手な事は出来ねぇのさ。まあもう少し我慢しといてくれ。彼奴を誘導したら、とりあえずは解放してやるからよ」


「誰も振り向かないというのも、案外屈辱ですわね! この屈辱の恨みは、後でこの馬鹿男で晴らしてやります!」


「おう、此奴が生きてたらそうしとけ!」






 馬車の後ろからは巨大なモンスターが、欲望のままに、フレデリッサの裸を追い掛け続けている。



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