一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 生贄に選ばれてしまった彼女の運命は如何に!

 この日王国は、かつてない最大のピンチを迎えていた。
 ドスンドスンと地響きが鳴り響く足音に、誰もがそれを目撃した。


「な、何だあれはああああああああああああああ!」


「いやあああああああ、化け物おおおおおおおおおお!」


「ママぁ、アレなぁに?」


「駄目よ、メルちゃん、あんな物をみたら目が腐るわ!」


 空を見て回っていたべノムは、突然現れたそれにとんでもなく驚いた。


「何ッッじゃありゃあ! 待て、落ち着くんだ俺、もう一度よく見て…………やっぱりあれはデッカイ逸物か?! いや、デカすぎるだろう! と、兎に角城に状況を知らせないと!」


 べノムによって王城にも、そのモンスターの知らせは直ぐに届いた。
 だがその知らせを受けるまでもなく、もう城の中も大慌てになっていて、兵士が慌てふためいている。
 何度もの襲撃が有った王国は、もうあんな巨大な物を見逃す程、警備を甘くしたりはしていない。
 べノムは王国の王であるイモータルの元に行き、今の現状を報告した。


「た、大変ですイモータル様! 何かヤヴェえ物が町を徘徊してますよ! しかも攻撃して倒れでもしたら町に深刻な被害がでそうです!」


「報告は聞いておりますよ。 ……しかしです。見に行こうとすると、ガーブルに止められてしまうのですが…………」


 イモータル王の横には、ガーブルという親衛隊の男が立って居る。
 歳ももうそろそろ七十を超えるというのに、相当元気な爺さんだ。


「あんなものを見てはいけません! 王があんな物で、お目をお汚しになっては大変です! あれの対処は全て我々が致しますので、イモータル様はこの場で避難してください!」


 イモータルは少し興味があるのか、微妙にガッカリしている。
 そんな女王に見せないのは、あれの全容を知っているのだろう。
 確かに気の弱い女性があんな物を見たら、卒倒しても可笑しくはないし、まして国の女王に見せるものでもないだろう。


「べノムよ! 王に代わってこの儂が命を出す! 全軍を以てあの汚物を排除するのだ!」


 ガーブルの命を聞き、確認の為に女王を見た。
 女王もそうしろと頷いている。


「んじゃ指揮は俺が取りますから、全軍を以て排除して来ます。では早速向かいます!」


「ええ、頼みましたよべノム。では行きなさい!」


「了解しました!」


 べノムは早速大規模編成を行って、あの巨大モンスターの場所へと向かうのだが、女性陣は其れに近づきたくないのか後退りしている。


「う、あんな物に触りたくない。一体何なのこの汚物は!」


「いやああああああ、何か変な物が垂れて来そうだわあああ。きゃあああああああああああ!」


「もし私達の攻撃でアレが刺激されたら…………王国の街並みは恐ろしい事にッ!」


 そんなモンスターがどうやって動いているのかと、べノムはその付け根を見るのだが、どうにも見覚えのある顔を見つけてしまった。


「…………お前かバール! テメェ、こんなになって暴走してんじゃねぇよ! クッソ迷惑だろうが!」


 べノムがその場に降り立ち、その顔を殴ったのだが、その衝撃で立ち上がっている巨大モンスターの体がグラりと揺れた。
 その揺れが不味かったのだろう。
 巨大モンスターからボタリと”何かの”液体が落ちた。
 かなり巨大な水滴が落ち、ドバーンとそれが弾けた。
 その事により女性陣は逃げ惑い、辺りは混乱を増して行っている。


「ぎいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああ!」


「はわわわわわわわわ、あんなの相手にしていたら、きっと妊娠しちゃう、妊娠しちゃうううううう!」


「お前等ちょっとまず落ち着け! あれはただの汗だ! 色も透明だからあれは汗だ! 変なもんじゃない!」


「きゃああああああああああああああああ!」


 べノムの説得も聞かず、女性達はこの場から逃げ出している。
 それが本当に汗だとしても、他人の逸物から垂れた物なら、男でも嫌がるだろう。
 危険な事はまだある。
 こんなビンビンな状態の逸物から、妙な物体を発射されてしまったのなら、王国の町の名誉に関わる。
 それだけは絶対避けなければならない。


「チィッ! 町中じゃあ攻撃さえ出来やしないぜ! おい、残った奴等は、国の外まで誘導するぞ!」


「し、しかしどうすれば!」


 味方の兵は、行動出来ずに居た。
 べノムは誘導をしようとしてみるのだが、バールは其れに興味を示さず、触る事も出来ずに、動きを見守るしかなかった。


「畜生、これからどうすれば…………彼奴の好きな物と言えば女だが、バールの為に囮になってくれるような女は居ないぞ! ………いや待て、そういえば最近この馬鹿と付き合った女が居たと聞いた事が………全軍、至急バールが付き合っていた女を探し出せ! 大至急だ!」


「「「「「 了解!! 」」」」」


 兵士の必死の捜索により、バールの彼女だと思われる女が連れて来られた。
 それはフレデリッサという女で、少し前まで短剣に閉じ込められていた女性だった。


 透ける様な金色の髪を腰まで垂らし、瞳は吸い込まれそうなエメラルドグリーンである。
 見た目の年齢は十八ぐらいで、胸もそれなりに大きく、如何にもバールの好みだろう。
 その女は無理やり連れて来られたから、かなり不機嫌になっている。


「何でこの私が、あんな男の為に働かなくちゃならないのです! ちょっと、放してくださいませんか?!」


「悪いがバールをおびき寄せる為に、あんたには餌になって貰う。安心しろ、ちょっと裸にして町の中を走って貰うだけだからよ」


「はぁ?! そんな事を出来るはずが! というかそのバールは一体何処に?!」


「そんなの、あれに決まってるだろうが。バールと付き合ってたお前なら分かるんじゃないのか? あのでかい物体をよ」


「…………あれが、バールなのですか?」


「分かってくれたか? じゃあ早速服を脱いでもらおうか。王国のピンチなんだ、嫌とは言わせねぇ」


「そんなの嫌に決まって…………嫌ああああ、皆して服を脱がせないでえええええええええええ!」


 嫌がるフレデリッサを無理やり裸にして、少々恥ずかしい恰好で馬車の後ろに括り付けている。
 具体的に言うと…………恥ずかしい格好だ。
 本人は恥ずかしいかもしれないが、恋人に見られるのならば、別に大したことは無いだろう。


「オラァ! テメェの好きな女の裸だぜ! 目ぇかっぽじってついて来やがれ!」


「ぎゃああああああああああああああ! あんなの無理いいいいいいいいいい!」


 馬車を操るべノムが、バールの目の前を横切り、その注意を引いた。
 バールがブリッジをしながらフレデリッサの裸を見つめ、ボンッとその巨大な物が一段と大きくなる。
 そして、声を発してはいけな所から、凶暴そうな鳴き声を上げた。






「シギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



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