一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

29 壮絶な戦いの末に。

 五人の戦いが始まっている。
 まず狙われたいるのが、一番強いと思われているフレーレさんだ。
 俺を中心に繰り広げられた戦いは、段々激しさを増していく。


 そんな俺は、戦いの中心で、しゃがみ込んでいる。
 当然の様に矢が飛び交い、魔法が炸裂するこの場で、立ち上がったら危ないからだ。


「うひいいいいいいいいいいいい!」


「ぎゃああああああああああああ!」


「こっちに飛ばすなあああああああああああ!」


 流れ弾が観客とかを巻き込み、暴発していたりする。
 辺りには無数のクレーターやら、瓦礫がれきが散乱し、地面から出て来る大きな蔦が、フレーレさんを追い掛け、地面やら教会やらを壊している。


 もうこの会場は、地獄絵図と化していたりする。
 そろそろ怪我人も出そうな雰囲気だが、この場に呼ばれた者達は、ある程度力のある兵士とかだ。
 まあそう簡単にはやられたりはしないだろう。


「このぐらいじゃ、私に勝てないわよー! イバス君を奪われたくないのなら、もっと本気で掛かってきなさい!」


「貴女の様な方に、ご主人様を渡しません!」


 大地から無数のつたが伸び、前後、左右、更にその間に四本、計八本の蔦がフレーレさんの周りを囲み、一斉に襲い掛かった。


 一斉に攻撃を仕掛ける他三人だが、フレーレさんは、その中の一方向を選び、鋭い蹴りで切断して脱出している。
 それでも再生し、フレーレさんを追い駆ける無数のつただったのだが、その先に居るアスメライさんとぶつかりそうになり、その動きを止めた。


「ちょっと、私が危ないじゃないの! あんた、まさか私を先に?!」


「今はあの女が先です! 貴方なんて後で幾らでもやれますからね!」


 争いだしたその二人を置きざりにして、フレーレさんは別方向へ進んでいる。
 この中では、一番動きが良いレーレさんの元へ。


「クッ、この私に挑むとは、良い度胸です! 返り討ちにしてあげましょう!」


 その攻撃と動きははかなりのものだが、フレーレさんは全てを避け、いなし、本当に軽いジャブを放って当てている。


「イバス様は渡しませんが、やはりこの方は化け物ですわね! 悔しいですが、一人では勝てません!」


「だったら私の出番ですね! はあああああああああああああ!」


 その二人の戦闘に参戦したのが、近距離でも戦えるエリメスさんだった。
 その参戦にフレーレさんは喜んでいる。


「さあ、ドンドンかかってらっしゃい! もっと、も~っと、私を楽しませてねー!」


 その二人エリメスとレーレの息の合った……とは微妙に違う、横の奴もついでに斬り付けてやろう的な攻撃も、ものともせず、来た攻撃を受け流し、もう一方の人物へと、方向を変えさせている。


 やはり目の前に集中しなければ無理と判断して、エリメスさんとレーレさんは、フレーレさんのみを狙い、その攻撃の鋭さを増していく。


「エリメスさんは後をお願いします!」


「任せなさい!」


 元々チームだった二人は、徐々に位置を変え、フレーレさんの前後に陣取り、更に激しい攻撃が始まった。
 しかしそんな攻撃さえ、片手片足、あとは体捌きのみで攻撃を避け続け、フレーレさんは戦いを続けていた。


 そんな三人の攻防も、次のタイミングで終わりを迎えた。
 二人の剣先を同時にハシっと掴み、腕力のみでその剣を引っ張った。
 武器を離さないようにと、しっかり握り続けていた二人は、もの凄い力で引っ張られ、バランスを崩して地面に転がっている。


「さあイバス! 私達の特訓の成果を見せてあげる!」


「御主人様、私の活躍を、とくとご覧ください!」


 その一瞬だった。
 時間にすれば一秒にも満たない硬直を、必殺のタイミングを見計らっていた残りの二人アスメライとルシアナリアは、ここがチャンスと見て、一気に動き出した。


「「合体魔法! エターナル・アイヴィー!」」


 フレーレさんの足元から、無数の蔦が伸び、その体に絡みつく。
 細かった蔦は、ドンドン太さを増して、倒れた二人をも巻き込み、殆ど大樹と呼べるものが出来上がって行く。


「! …………クッ!」


「わた…………!」


「イバスさ…………!」


 大人五人が囲んでもまだ足りないような幹に成長し、三人はその中に埋まって行った。
 完全に閉じ込められてしまった三人を見て、今協力していた筈のアスメライとルシアナリアさんは、絶対三人が動かないのを確信すると、横に居た邪魔者を排除しようと動き出した。


「フフフッ……残りは一人、この私こそ御主人様に相応しいのです! 貴方にはここで退場して貰いましょう!」


「ヤレるもんなら、ヤッてみなさい! 返り討ちにしてあげるわ!」


 アスメライが強がっているが、相性としては不利だった。
 ルシアナリアさんの攻撃は、地面の何処からでも発射される。
 動き続けなければいけないアスメライは、決定的な大魔法を放つことも出来ないのだ。


 ルシアナリアさんの勝利で終わるかに見えたこの戦いだが、ミシミシと成長していた大樹の成長が止まり、その中から一人の女性が飛び出した。
 飛び出て来たのは、やはりフレーレさんだった。
 たぶんだが、あの大樹の中で腕を振り回し空間を作り、自分が動ける領域を作ったのだろう。


「ふう、ちょっと危なかったわー! 対応が遅れていたら、完全に動けなくなっていたもの!」


「「なッ!」」


 慌てた二人アスメライとルシアナリアは、フレーレさんの対処を間違えた。
 もう一度彼女を閉じ込めようと、先ほど使った魔法をまた使ってしまったのだ。


「「が、合体魔法! エターナル・アイヴィー(ィ)!」」


 二人の詠唱がズレ、魔法は発動しなかった。
 フレーレさんの足元には、だが。
 詠唱をずらしてしまった為、その効果は、観客席に発動してしまったのだ。


「ぬあああああ、何すかこれええええええ! 折角祝に来たのに、俺っち巻き添えっすか!」


「おいちょっと、何してくれてんだイバス、俺達を巻き込むなああああああああ! 娘が、娘が待ってるんだぞおおおおおおおお!」


「ああ畜生! 何で俺まで巻き込んでやがる! テメェ後でぶん殴ってやるぞおおおおおおおお!」


「ああああああ、どうせ巻き込まれるなら、女の子の隣が良かったああああああああああああ!」


 妙な事に、数多くの男だけがそれに飲み込まれていた。
 必死に抵抗している者もいるのだが、それも無駄に終わっている。
 観客席がカオス状態に陥っているが、フレーレさんはそれを気にせず、アスメライに向かって一撃を入れた。


「……わ、私の、い、ばす……グフッ…………」


「負けてなるものですかあああああああああああ!」


 残されたルシアナリアは、必死の抵抗を見せるも、伸ばした蔦の束を逆に掴まれ、開いた距離を一気に詰められ、ドンと一発くらわされた。
 最後に残ったフレーレさんが、俺の方に走って来ている。


「イバスく~ん、勝ったわよー! じゃあ、私と結婚ねー!」


 俺は王様を見ると、行けと指で合図され、もう良いかと思ってフレーレさんの元に向かおうとするのだが、リタイアしたと思われた、エリメスさんとレーレさんが、バキッと大樹の中から、同時に現れた。
 二人が助かったのは、フレーレさんが作った空間が味方したのかもしれない。


「イバスさんをおおおおおおおおおおおおお!」


「御主人様をおおおおおおおおおおおおおお!」


「「渡してなるものかああああああああああああああ!!」」


 戦いはまだまだ続き、フレーレさんが誰かを倒すと、倒されていた誰かが復活し、その戦いは、何日間も続いたという。


 俺はその結果をまだ知らない。
 実はあまりにも長かったために、イモータル女王が解散を宣言して、全員帰らされてしまったのだ。
 まあ、仕事にも支障が出るし、それは仕方ないだろう。


 今あの場に残されているのは、戦っている五人と、大樹に飲み込まれてしまった男達だけだった。
 男達は、まあその内助け出されるだろう。


「寝よ」




 家に帰った俺は、それはもうグッスリと眠りについた。
 何かよく分からない現実から逃げ出す為に。



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