一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

10 女難の相が見える。

 横に寝ていたフレーレさんが、服を着て朝食を作っている。 まるで俺の家の中に何があるのか知り尽くしている様だ。 俺が寝てから色々見られていたのかもしれない。


 いや、今そんな事はどうでも良い! 大事なのは、俺とフレーレさんがしちゃたのかどうかだ!


「イバスくーん、ごはん出来たわよー」


「あ、はい…………」


 フレーレさんの朝食は豪快な料理が多い、肉を炒めただけの物とか、野菜を三種類炒めた物とか、卵を炒めた物とか、パンを炒めた物とか、兎に角炒め物が多く並んでいる。 しかし味付けはとても美味しい、俺が作る物よりも断然上だろう。 そんな料理をパクパク食べて、とても美味しい時間を…………って違う!


 そうじゃなくて、俺が聞かないといけない事があるだろう。 本当に聞いておかないと色々不味いのだ。 もしそうなって色々出来ていたら、俺は知らない内にお父さんになってしまう。


 いや俺は別に子供は嫌いでは無いし、フレーレさんの事も綺麗だとは思っている。 だけどこういう事には覚悟がいるのだ。 親になる覚悟や、それを守り抜く覚悟とか色々と。


 き、聴かなければ…………。


 勇気を振り絞って、俺はフレーレさんに尋ねてみた。 俺の気のせいでありますように。


「あの、フレーレさん…………僕が寝ている間に、何かしませんでしたか?」


「え、うんそうよー、イバス君ったら服を脱がせてもちっとも起きないんだもの、私も頑張ったのよー? 色々触ったりしてみたんだけど、やっぱり起きなかったからー、ちょっとまぐわってみちゃったわー」


「ま、まぐ…………」


 そんな事があって何で俺は起きないんだ! 一切何も覚えていないんだけど!


 ・・・・・駄目だ、ちょっと落ち着かないと。


 うん、まぐわうって意味がもしかしたら違う意味なのかもしれないし、フレーレさんが言葉の使い方を間違えている可能性だってある。 きっとその可能性もあるはずだ!


「つ、つまり、僕と子作りしたと?」


「そうねー、ちゃんと入れてバッチリ最後までしちゃったわ。 イバス君ったらやっぱり起きていなかったのね、じゃあもう一回しちゃおうか?」


「ゴフォッ!」


 あまりの事に、俺は吐血でもした気がした。 もしこれが嘘だったとしても、俺にそれを確かめる術は無い。 あの四人が見ていたらと思いもしたが、もし見ていたのなら、今こんな平和な時間にはなっていない。 待って待って待って待って、ちゃんと考えないと…………。


 一、やってしまったのは本当でも、ただ何も無く平穏に暮らしていける。


 俺としてはこの一を選びたい所だが、それを選べるのは俺ではない。 今後フレーレさんが誰にも話さず、四人との関係も良好で。 …………無理だ。 今この行動力を見る限り、それがどれ程少ない可能性なのか分かるだろう。


 二、これが嘘だったとしても、眠っていた俺にはその真偽を確かめようがない。


 フレーレさんの行動や発言次第で、やっぱり地獄とかす。


 三、子供は生まれなくても本当にしていた場合、女の人に手を出した挙句、付き合いもしない最低男となる可能性もある。


 フレーレさんの発言次第で、やっぱり地獄とかす。


 四、もしこれが本当だったとして、そのまま放置していたら、フレーレさんと俺の子供が生まれる。


 これが一番最悪だ。 あの四人がそれを見て諦める訳がないし、否応なしにパパになってしまう。 永久に命を狙われ続け、最悪子供まで巻き込みかねない。 そして子供になにかあれば、フレーレさんが四人を殺害…………。 それは不味い、とても不味い。


  駄目だ、この人は最強過ぎる、俺にはもう如何にも出来ないかもしれない。 このまま子供が出来ようと出来まいと、もう俺は観念するしかなくなってしまったらしい。


「いやあの…………もう直ぐ仕事の時間なので、出来ればもう一度夜に話し合いたいんですが…………」


「ああ、そうよねー、仕事の皆にも報告しておかなくっちゃね」


「いやいやいやいやいやいやいやいや、待ってください、それはまだ早いと思います! まだ色々とやる事があるでしょう! ほらあの、えっと、あの、まだデートとかもした事がないじゃないですか。」


「じゃあ仕事が終わったらデートしましょうか、中央広場で待ち合わせしましょうねー」


「あの、えっと、はい…………」


 そして俺はフレーレさんと別れて、何時も通り仕事に向かった。 このまま今までの事を忘れ去って仕事に没頭したい所なんだけど、どうにもそういう分けには行かなかった。 俺は誰にも手を出していないというのに、何でこんな状況になっているのだろうか。


 …………誰か俺を助けてください。


 今日もあの四人を避ける様に、色々なルートを移動しながら兵舎へと向かって行ってるのだが、俺はその道で占い師に出会った。


 老婆というのが似合いそうなお婆さんで、その横を通り過ぎた時に声を掛けられた。


「そこのお前さん、少し待つのじゃ。 お前さんの運命には女難の相しか見えないぞい。 むしろお前さんこそ女難の相と呼べるレベルじゃ、このまま進んで行けば間違いなく破滅するぞい」


 まさか本物なのかと思いつつも、俺はそのお婆さんの言う事を聞いてみる事にした。


「お婆さん、じゃあ僕は如何すれば良いのですか?! 如何すれば助かるのですか?! 是非アドバイスをしてください!」


「良かろう、特別にタダで占ってしんぜよう。 …………ふむ、どうやらお前さんの先祖が原因らしいぞい。 お前さんのひい爺さんが物凄い遊び人でな、遊び捨てられた女達がその爺さんを呪ったらしいのじゃ。 しかしその爺さんは呪いに気づき、功名な呪術師にお祓いを受けたらしいのじゃ。 しかしどうやらそれも失敗したらしく、百年後の子孫にあたるお前さんに全部降りかかったという流れじゃ」 


 それが本当だったら、全部そのお爺さんの所為じゃないか。 俺は全く関係ないじゃないか!


 …………いやちょっと待って、占いでそんな細かい事まで分かるはずがないじゃないか。 これは全部嘘に決まっている。


「お前さん嘘だと思っておるな? いきなりこんな事を言われても信じられぬだろうが、全部本当の話じゃよ。 その呪いを掛けたのも解呪に失敗したのも、このワシだからじゃ」


「…………はあああああああああああああ! 一体なんて事してくれるんですか! 僕が酷い目に遭っているのは全部貴女の所為なんですか?! 今直ぐこの呪いを解いてください! さあ早く!」


「まあ少し落ち着くのじゃ、このワシとて失敗したくて失敗したわけじゃないわい。 その日は何となく日が悪くてのぅ、助手だった奴が関係ない材料を入れてしまったのじゃ。 まあ運が悪かったと諦めるのじゃな。 だが安心せい、優しいこのワシが、一応お前さんの為に薬を作ってあるぞぃ。 これを飲めばお主の呪いも解けるだろう。 どうじゃ、もし欲しいのであれば、百万用意せい」


「…………タダじゃないじゃないですか! 何ですかその値段は! 全部貴女の所為だというのに、それは酷過ぎるでしょう!」


「占いはタダにしてやったじゃろうが。 材料費もそれなりに掛かっておるのでな、これでも随分まけてやっているのだぞぃ。 必要無いのならわしゃ帰るが、それでも良いのじゃろうか?」


「うっ…………」






 今この状況を変える事が出来るならと、俺はそのお金を分割で支払う事にした。 正直騙されている気しかしないが、貰った解呪薬を飲み干し、兵舎へと向かって行った。



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