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秀典

35 暴走するフレデリッサ。(五国トーナメント開催編END)

 王国のキメラ研究所内。 俺達の体を研究したり、魔物達の研究をしていたり、色々やっている研究所。 その研究所で、フレデリッサさんの、何日もの実験と検証の結果を表す日。


 かなり密閉された白い部屋の中、中心には同じく白い台が設置され、その上に置かれた短剣こそがフレデリッサさんだ。 そして真っ白な研究服とマスクをした研究者が、俺の目の前でフレデリッサさんを解放しようとしている。


 一切の輝きを失わない短剣の刃を、器具により二つに両断すると、その刃の中から輝きと共に、美しい女性が現れた。 あれがフレデリッサさんなのだろう、俺が幻で見たものとそっくりだった。


 透ける様な金色の髪は腰まで垂らし、瞳は吸い込まれそうなエメラルドグリーンだ。 見た目の年齢は十七か十八かその位だろうか、しかし生きていた年齢を数えれば三、四百歳ぐらいだろうか?


 そんな彼女が嬉しさの為か、その場で笑い始めた。


「うふふふふ、外だわー! やっと外に出られたわー! うふふふふふふ。 私復活! 私復活! わたしぃ、ふッッッかああああああああああああああつ! ふはははははは、ありがとう皆様、この私の復活に手を貸してくださって、とッッッても感謝しておりますわ。 お礼として・・・・・全員ぶッッ殺してあげますわあああああああああああ!」


 あ、やっぱり暴走し始めてるし。 ・・・・・まあ彼女の性格だったら、そんな事もあり得るのかなと思っていたが、まさか本当にそうなるとはなぁ。 残念だ、あんなに綺麗に別れたというのに。


 止めるのも面倒臭いんだが、一応関わった者として俺が止めなければならないんだろうなぁ。


 彼女は自分の懐から短剣を取り出すと、近くに居る研究者へと斬り掛かって行く。 でもまあ研究者と言っても弱くないんだよな、自分の手で新な武器を作り出そうとしている人達だし、素振りや試し切りは当たり前にしている、結構な剛の者だ。 そんな攻撃など軽く躱して逃げて行く。


「フフフフフフフ、逃げろ逃げろ、この私を閉じ込めた王国の人間達よ。 我が手によって全員殲滅してあげましょう!」


 俺と一緒に見ていた他の研究者達は、大きな音を鳴らす警報器を使おうとしていた。 それはちょっと不味い、このままそれを使われたら、きっと怖い人達が来てしまうだろう。 もしそうなれば、フレデリッサさんの命も危うい。


「俺が止めて来ます、警報器を鳴らすのはもう少し待ってください!」


「そ、そうですか、では任せますね。」


 俺はその人を制止し、自分が止めるとその部屋に侵入した。


「フレデリッサさん、ちょっと落ち着きましょう。 頭に来てるのは分かりますけど、あんまりそういうのは止めた方が良い意と思いますよ? その内恐ろしい人がやって来て蹂躙して行きますからね。」


「ああ、バールではないですか、貴方には随分とお世話になりましたね、この私を短剣から出してくれて、本当に感謝しているのですよ。 それはそれとして、あの遺跡で行った仕打ちをよもや忘れてはおるまいな! あんな汚らしいものを私の顔にッ・・・・・絶ッッッ対にぶっころしてやる!」 


 汚らしいものって何の事だ? 俺は特になにもしてな・・・・・そういえばパンツの中に入れたりした気がする。 やっぱり謝った方が良いのだろうか?


「フレデリッサさん、パンツの中に突っ込んだのは謝りますから、もう許してください。 短剣から無事に出れたんですからもう良いじゃありませんか! もう止めて俺の家に来てくださいよ、歓迎しますから!」


「誰が貴様の家になど行くものか! 私の体でも狙っているのだろうが、そんな事はさせるものか! 今でもあの感覚が残っているのだ、私の顔にハッキリと! お前の様なゲスでクズでエロいカスは、私の前から永遠に消し去ってやるわ!」


 どうもアレが何かトラウマになっているらしい。 う~む、女性に武器を向けるのはそんなに好きじゃないし、もう少し説得してみようかなぁ。


「フレデリッサさん、もう無駄な事は止めましょうよ、貴方だって知っているでしょう? あんなドラゴンを倒せる人に、貴女が勝てる訳がないって。 だからもう大人しくしてください。 大人しくしてくれれば、悪いようにはしませんから。」


「ふん、お前こそ勘違いをしているぞ。 たった一人の人間に、あんなドラゴンが倒せる訳がないだろう! 一応教えておいてやるが、あのドラゴンな、この私が天使に頼み込んで呼び出したものなのだ! あのドラゴンが倒されたのはな、外に出る為のタダの演技なのだ!」


 あの戦いをどう見れば演技だと思うんだろうか?  ・・・・・あっ、そういえばフレーレが戦っている時に、短剣は懐にしまっていた気がする。 そうか、ちゃんと見てないのか・・・・・あのブラちゃんは今では立派なペットになっているというのに。 


「・・・・とはいえ、長い封印の中で私の声すら忘れているらしいがな。 まあそれでも私が呼べば彼奴は答えるだろう。 フフフ、今度は本気のドラゴンを見せてやろう。 あの力を以てすれば、お前達等簡単に全滅させられるだろしな。 死にたくないというのであれば、この国をこのわたくしに明け渡すのだな!」


「フレデリッサさん、きっと無駄ですから、もう諦めましょうよ。」


「ハッタリだと思っているのか? ではその目に焼き付けるがいい! 盟友ブラグマガハよ、我が呼びかけに答え、この場に降臨せよ!」


 ・・・・・そのまま数十秒の時が流れ、やっぱり何も起こらない。


「・・・・・な、なにをしているのだブラグマガハよ! 我が元へ・・・・・はっ? 今フレーレ様と買い物しているから行けない? そもそもお前誰だって? ・・・・・この蜥蜴頭め! この私がお前の主であろうが! おい貴様! この私を・・・・・おい!」


 やっぱり駄目だったらしい。 う~む、どうしよう。 ちょっと可哀想になって来たぞ。


「こ、こうなれば私自らが相手をしてやろう! この私が弱いと思っているのなら大間違いだからな! この私の雪魔法で、もうたっぷりと地獄を味わうがいいわ!」


 なる程、フレデリッサさんは雪の魔法を使うのか。 昔のブリガンテの人なのに魔法を使うとはちょっと驚いた。 でも雪の魔法ってあんまり聞いた事がないな、たぶん氷系統なのだろうが、普通に氷では駄目なのだろうか? 俺は多少警戒を強め、防御の体勢をとった。


「食らうが良い、我が極限の雪の魔法を! デッド・ブリザード!」


 フレデリッサさんの魔法が発動した。 この部屋の中に暴風が巻き起こり、白い雪の結晶が辺りを覆い尽くす。 荒れ狂う雪は俺の視界を奪い、フレデリッサさんの姿を消していってる。 たった数メートルだというのに、その姿を確認できない。


 ダメージは無い、ただこのまま時間が過ぎれば、俺の体は寒さで動けなくなるだろう。 この魔法、案外厄介な魔法らしい。  仕方ない、フレデリッサさんには悪いが、もう倒してしまうとしよう。


 俺は腕を出来るだけ伸ばし、そのまま横へと振り切った。


「ぎゃ・・・・・。」


 フレデリッサさんの小さな悲鳴が聞こえる。 ゴイーンと手応えが感じられたし、俺の感覚からすると、彼女の頭に直撃したみたいだ。 きっと俺の動きが見えなかったのだろう。 自分の視界まで塞いじゃうから、今現在まで継承されていかなかったんじゃないだろうか?


 吹雪も止んで、倒れたフレデリッサさんが雪に埋もれている。 顔から倒れて居るし、このままでは窒息させてしまう。 俺は彼女を雪から掘り起こし、このままこの場に置いておくのも面倒なので、自分の家に連れて帰った。


 このベットに横たわる女性、喋らなければとても美しい姫だ。 しかしどうしようコレ、いっそ俺の物にして・・・・・いやいや駄目だ駄目だ、そんな事をしても彼女の暴走は収まらない。 むしろ悪化するんじゃないだろうか?


 でも結構迷惑かけられたし、キスぐらい貰ったって罰は当たらないだろう。 此処は俺の部屋だ、辺りには誰も居ない。 そして喋らなければ美少女のフレデリッサは今は眠っている。 今なら誰も文句を言わない! そう、今までの事はキスで全てチャラにする、それで終わりだ。


 俺は軽く唇を押し当てた。 ・・・・・こう見ると可愛いのでもう一回だけしよう。


「この、ゲスがあああああああああああああああああ!」


「ぐはあああッ!」


 二回目のキス成立した瞬間、彼女の拳が俺の頭にクリーンヒットした。


「私が寝ている間に何をした、この変態が! 私の唇を奪うとは、もう許して置けん! デッドブリザー・・・・・。」


 また同じ魔法か、俺は彼女の口を手で塞ぎ、彼女の抵抗が収まるのを待った。 俺が何の抵抗もせずに待ち続けると、彼女は諦めた様に力を抜いた。 覚悟をしたのだろうか? でも俺にはそんな気はない。


「えっと、いやあのですね、さっきのはちょっとした仕返しで、別に貴女を襲おうとしたわけじゃ・・・・。 ご、ごめんなさい。」


「・・・・・。」


「ああ、ごめんなさい、今手を放します。」


 手を放してみたが、彼女はもう抵抗する気がないらしい。 自身の最高の魔法を突破されたからだろうか? まあ兎に角大人しいのは良い事だ。


「ふん、もう好きにすると良い、私を抱きたいのなら好きにしろ。 ただし、お前は私に永久に恨まれる事になるがな!」


「えっ? つまり抱いて良いんですね? 合意してくれるのであれば俺は遠慮しませんから。 じゃあ早速・・・・・。」


「こ、こら、今は遠慮する場面じゃないの!」


「あ、俺そういうの気にしないんで。 じゃあ行きますよー!」


「ちょ、ちょっと、ああああああああああああああッ・・・・・。 あ・・・・。」






 彼女の体を存分に堪能した俺は、次の日から彼女に狙われ続ける事になった。 まあ他の人達に手を出さなくなっただけ随分マシになっただろうか。






                  END



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