一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

32 小さく大きな物語 1

 シャイン達が旅をした期間、約七年。 やっとの事でレティシャスの親を見つけ出し、探し終えたのだが、既に両親は他界し、結局レティシャスはシャインの手で育てられる事になった。


 行く当ての無くなったシャイン達だが、ラフィールの勧めで一つの行き先を提示された。 それはベトムの村。 その村にはかつて冒険者だった家族が暮らしている、そんな村だ。


 最初はその姿により、村人からかなりの警戒と蔑みの目まであったのだが、七年もの長い時の中で、それは少しずつ改善されていった。


 そして子供達の新しい物語が始まる。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 そう大きくない小さな民家。 そこで俺、レティシャスは母ちゃんと暮らしていた。 母ちゃんの名前はラーシャインという。 まあ俺はシャインと呼び捨てにしているんだがな。 昔は王国という国で暮らしていたらしいのだが、色々あってこの村に移住したらしい。 まあ昔の話だから俺は良く知らない。


 何だかぼんやり何かを思い出しそうになるけど、きっと気のせいだろう。 旅をしている時の記憶も曖昧だし、そんな赤ん坊の時の記憶を覚えているはずがない。 たまにそんな人も居るとか聞くけど、俺はそんなんじゃないと思う。 たまに記憶を過るのは、見たことも無い国で暮らしている大人の俺。 もうそんな物は妄想でしかないだろう。


 実は俺とシャインとは本当の親子じゃないらしい。 でもそんな事は関係ない、長い時間は俺とシャインの絆を深めているんだ。 血が繋がって無くとも、俺達はもう完璧な親子なのだ。


 そして母ちゃんには男もいない。 もうそろそろ三十五にもなるしもし、このまま誰も貰わないのなら俺が貰ってやっても良いと思っている。 というかもうそろそろ貰ってやらないと本気でヤバイ。 このまま五十、六十になったら誰も相手にしてくれないぞ。 まあ兎も角、自分でもなんでこんなに好きなのか分からないけど、俺はシャインを愛しているんだ。


「ねぇシャイン、俺の嫁になってよ。 血が繋がってないし良いだろ?」


「子供が馬鹿な事を言うな。 もうお前には相応しい相手が居るだろう。 そんな馬鹿な事をを言ってる前に、そろそろお前の友達の所に行くんだろ?  もう用意はしてあるんだろうな?」


「おう、バッチリだぜ!」


「そうか、じゃあ気を付けて行って来るんだぞ」


「おう、行って来るぜ! じゃあシャイン、行って来ますのキスしてよ」


「お前は一体何時まで甘えているんだ。 お前ももう十四だろう。 キスなんてせがまずサッサと行って来い」


 俺のキスを拒むとは、親子なのにそんなに恥ずかしがらなくても良いのに。 もう少しやり取りを楽しんでいたいが、友達も待たせているし、そろそろ行かないといけない。


「じゃあ行って来まーす」


「行ってらっしゃいレティ、気を付けるんだぞ」


 親子レは家から走り出し、友達との待ち合わせの場所に急いだ。


 家から続く何時もの道を通り、村の入り口付近にあった小山の一本木を訪れた。 そこが俺達の何時もの待ち合わせ場所だ。


 此処からは村の外も良く見え、魔物が襲って来ても直ぐに発見出来る。 でも今は空を飛べる人も何人か居るし、現在はそれ程つかわれてはいない。


「遅いぞレティ! 何時まで私を待たせる気なんだ! 私はお前が来なくて寂しかったんだぞ!」


 そんな場所に到着するのだが、もう友達は集まっていた。 真っ先に声を掛けて来たのは、生まれた時から一緒に育ったストリアという金髪の女の子だ。 歳も一緒だし、背もそんなには変わらない。 少しだけ向うが高いだけだ。


 因みに俺の事が好きみたいだ。 たまに積極的なアピールをして来る事が有る。 まあ俺にはシャインが居るから、それに答える気はないのだが。 そしてこの場にはもう一人。


「やぁレティ、やっと来たんだね。 もう少し待って居たら、前転しながらこの山から転げ落ちようかと思っていたよ。 そうだ、君も一緒にやらないか?」


「遠慮しておくよ。 前にそれやった時に、転がり過ぎて木にぶつかったからな。 あの日俺は死にかけたんだ。 俺はもう二度とやらないぞ」


 俺と同い年のこの男、名をリッドという。 顔はそこそこイケメンなのだが、性格がとても変だ。 屋根の上に登って全裸で歌を歌いだしたり、親指二本で体を支え、横に回転しながら村の中を一周したりするおかしな男だ。 そんなんだから俺達以外の友達は皆無だ。


 それはまあ此奴に付き合ってる俺達にも言える事なんだが。 この二人以外の友達は居ないと言って良い。 俺達と同年代の子も居ないし、村に子供が少ないってのもあるけどな。


「じゃあレティ、今日は一体何をやるつもりだ? 私なら何でもついて行ってやるぞ!」


「う~ん、そうだなぁ・・・・・」


 そんなに遊びまわる歳でもないし、ただ話し合うのもつまらない。 何か面白い事はないだろうか。 そんな感じで回りを見渡すと、村の外に出発する大人達を見かけた。 きっと皆で魔物退治でもする気なんだろう。


「良し決めた。 あの大人達に付いて行って、魔物退治を手伝ってみる事にしよう!」


「ふむ、面白そうだなレティ、私はそれで構わないぞ。 リッド、お前は如何するんだ」


「任せてくれ! この時の為に、母さん達から特訓してもらっていたんだ。 この俺の訓練の成果を見せてあげるよ!」


「じゃあ隠してある武器を持って、大人達を追い掛けるぞ!」


「「お~!」」


 もしもの為に隠してあった木剣を持ち出し、俺達は大人達の跡を追って行った。 見つからない様に少し距離をあけて追跡して行ったのだが、村から出て壱キロもしない内に気づかれてしまった。


「おいコラ、お前等はまた危ない事しようとしてやがんな。 お前等にはまだ早ぇえ。 帰って訓練でもしてやがれ。 その内嫌でも呼んでやるからよ」


 その人は空から俺達を発見し、地面に着地して俺達に声を掛けた。 勿論知ってる人だ。 リッドの爺ちゃんで、べノムって人だ。 年齢は結構いってるはずだけど、そんなに老けてるとは感じない。 結構人とは違うからかもしれないが、それでも凄く若く感じる。


 それよりもっと恐ろしいのは、この人の奥さんアスタロッテさんだ。 リッドのお婆ちゃんだというのに、その姿は昔からまるで変わっていない。 リッドの母ちゃんよりも若いぐらいだ。 いい意味で化け物と言って良い。 本人は天使の所為とか言っているが、天使なんてものが居るはずがない。 もしかしたら凄い秘密があるのだろう。


「大丈夫だよ、俺達だって一杯訓練してたんだ。 それに戦わなくたって、実践を見るだけでも良い訓練になるだろ? 良いじゃん、見るだけだからさ」


「別に私は戦っても構わんぞ。 どんな相手でも負ける気はないからな!」 


「べノムお爺ちゃん、俺の実力を見誤っては困るな! 魔物ぐらい俺一人だって倒せるんだからね!」


「あのな、俺はお前等の実力を知ってるから言ってんだぜ? だがまあ見学だけならさせてやっても良いぜ。 その代わり大人しくしてんろよ?」


「お、流石話が分かる! じゃあ行こうぜ爺ちゃん!」


 許可が出た所で、俺達は走って大人達を追いかけた。






「おいコラ、勝手に行くんじゃねぇ。 たくよぉ、お前等を見てると昔居た奴を思い出すぜ。 もしかして生まれ変わったとか言わねぇよなぁ? ああ、何かスゲェあり得そうだぜ・・・・・」



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品