一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

19 各国の思惑とその次。

 試合会場ではフレーレ達の勝利が確定している中。 その試合会場の一角では、マリーヌ王と各国の代表達が話をしていた。 勿論王国の人達は誰も存在していない。 そんな中、何故か参加させられているのは、この俺カールソンだった。 エルさんを追って色々と旅をしたりしているから、帝国の首相から選任命されてしまったのだ。 俺はこんな中に入るべき人間ではないというのに。


 とりあえず此処に居る人物を紹介しようか。 先ずはラグナ―ドから来た使者、百殺将軍グラニデという男だ。 その男が他国の王の前だというのに、偉そうに言葉を発していた。 この場でも鎧を外さず常に戦闘体勢を取っているらしい。


「フハハハハハハ、中々楽しませてもらったぞ。 これ程の茶番はそうあるまい。 なあマリア―ドの、お前もそう思うだろう?」


「そうでございますなぁ。 ですがその茶番も、あの王国の者共の強さがあっての事でしょう。 なにせ我が国の・・・いや、各国の戦士達は、何れも五本の指に入る者達ばかりでございますからなぁ。 やはり王国との力の差はそう簡単には埋まりますまい。」


 今答えたのがマリア―ドから来た男アドラガル。 この男は国の大臣だという。 上物の衣装を着こみ、女に羽根団扇を振らせていた。 もう権力全開と言った所だろうか。


 後一人はマリーヌ様だが、それは紹介しなくてもわかるだろう。 詳細は省いておく。


「そうだ、あれ程の枷を付けられて優勝までしてしまうとは、まだまだ力の差は大きいと考えるべきだろう。 今回参加した者だけを見ても、俺と同等かそれ以上か、そんな奴等しか居なかった。 それにだ、各国共に魔法の力を得たと言っても、まだまだ謎の多い力だ、これまで以上に研究せねばならぬ。」


「あんな者達が王国内にはうじゃうじゃいるとなりますと、どれ程の力になるのやら。 空までも飛ばれるとなると、手のうち用がありませんな。 対抗する為には全兵力の底上げを考えなければなりますまい。 お前は如何思うのだ、帝国の。」


「わ、私ですか? 私達は生きて行けるだけで充分ですので、争いとか戦争とかはちょっと。 皆さんももっと平和的にいきましょうよ。」


「チィッ、やはり負け犬根性が染み付いているな、王国さえ居なければ帝国なぞ滅ぼしてやるものを。 全く運が良い事だ。」


 冗談でもやめて欲しい。 しかし今回の俺の使命は、そうさせない為に、各国に貢ぎ物を渡す為だ。 俺は荷物を取り出し、帝国からの贈り物という名の、貢ぎ物を全員に渡す事にした。


「いやははは、冗談は止めてくださいよー、そんな事にならないように、こうして色々贈り物を持って来たんですから。 護ってくださるのなら、幾らでもお渡しいたしますからはい。 ほら皆さんもどうぞどうぞ。」


 まあ仕方のない事だ、武力が弱いなら金で信用で護ってもらうしかない。 遠征で誰の命も落とさず、何の危険も冒さずに金品を得られるのだから、十分魅力的な話だろう。


「これは貰っておくとしよう、だが約束は出来んぞ。 此方にも都合というものがあるのだからな。 それにな、王国が何時までも敵にならぬとは限らぬぞ。 王国がお前達の敵に回ったのなら、貴様らは一体どうするのだ? 手を上げて喜んで殺されてやるのか? ならば今生きている意味など無い。 この場で果ててみるのも一興だぞ。」


「それも含めての贈り物なのですから、今後もよろしくお願いします。 私達を護ってくださるのなら、来年も再来年も、継続してお支払いいたしますから。」


「フン、まあいい、それでマリーヌ様は王国と手を結んで、これからどうなされるお積もりか?」


「何のお話か存じ上げませんが、そう出来るのならば、それもまた一つの手でしょうね。 今後は接触を図り、友として迎え入れても良いかもしれませんね。 この大陸内部で争い続ければ、海の向こうの国々が動き出すかもしれませんし。」


「何を惚けられるのか、もう調べはついているのですよ。 貴女が王国と手を結んでいる事は。 もうこれは、ブリガンテも敵と捉えられても可笑しくはありませんぞ?」


「この国に攻め込もうなどと考えない事ですね。 夜襲、朝駆け、不意打ち、やりたいのならばやれば良い。 ただし覚悟をするのですね、私達は何時でも、例え今であろうと準備は出来ておりますので。 ・・・・・何方が負けるか試してみますか?」


「フン、この力関係は未だ崩れずか。 この大陸を魔物で埋め尽くした罪は重いというのに。 だが例えどれ程の時を有しても、王国には滅んでもらわなければならぬ。 魔物に食い殺された人々の為にもな。」


 確かに王国は魔物と呼ばれる生物を世に放った。 しかしそれは我が帝国との戦いで生き残る為にした行いだ。 それで後の世がどうなるかなんて、その時には分からなかった話だろう。 罪がないとは言わないが、戦争とはそういう物だという話だろう。


 しかしそれを捌こうとするこの男の正義だろうか? しかしその為に戦争を望むというのなら、やはりこの男は悪なのだろうか? 戦争が起これば無関係の人間が死ぬというのに。   


「さて皆さま、折角この国に集まって貰ったのですから、各国の選手達にはもう一仕事してもらいましょうか。 今度はもう少し命懸けでね。」


「ほう、まだ働かせる気か? しかも命掛けだと? 我が国の戦士がその程度で臆するものか。 良いだろう、その誘い受けてやろう。」


「ふむ、では私もそれに乗りましょう。 我が戦士達もそれなりに優秀ですからなぁ。」


 如何しよう、皆さん受けるつもりらしい。 これを受けたら、選手としても登録している俺まで参加する事になってしまう。


「わ、私達はご遠慮させていただきますね、帝国兵の力はまだそんなに強いものではありませんから。 無駄に死なせるのは可哀想ですからね。」


「よろしい、では四か国が参加するという事で宜しいですね。」






 マリーヌ様の問いに二人が頷き、その情報は各選手に伝えられた。 しかし王国選手にだけはその情報は伝えられず、そのまま閉会式を迎えた。



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