一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

7 絶対に生き残らなければならない戦いがある。

 第二回戦まではまだ随分と時間がある。 暇になった俺達は、タッグ戦の舞台を見学しに行く事にした。 タッグ戦の会場では、もう何戦か行われていて、今からエルとフレーレが戦う所だった。 選手として登録してある俺達は、そのセコンドに入る事が許され、舞台の近くで応援していた。


 二人の相手は帝国の戦士らしい。 えっ~と確か名前は・・・・・ザッコスと、もう一人は何て言ったか? 何処かで見た事があるのだが。


 それよりも一つ重大な事がある。 ザッコスが持っている剣は、間違いなく真剣だった。 木剣を使うのは、俺達王国の戦士だけのようだ。 二人が驚いていないと言う事は、開会式で説明されていたのだろうか? 俺は全部聞き流していたから、よく覚えていない。


 そんなエルとフレーレは、帝国の戦士達を警戒していた。 あの二人そんなに強いのだろうか?


「なんでこの場所に居るのかしらー? 貴方そもそも戦士じゃないでしょう?」


「ふっ、この私がエルさんの居る所に現れるのは必然。 もう運命と言っても良いでしょう! しかも、この舞台上ならば、戦いとしょうして触り放題なのですよ! さあエルさん、この私のテクニックで虜にしてあげましょう!」


 そう言って武器も持たずに、手をワキワキさせている。 そうだ思い出した。 あの男は確かカールソンという男だ。 王国に来た時にエルにちょっかい出していた覚えがある。 こんな所まで追いかけて来たのか。


「エルちゃん、元々駄目だったものが、時間を得て更に駄目になってるわー。 近寄らせたら駄目よ? イタズラされちゃうから。」


「・・・・動け・・・ない。 ・・・うう・・・。」


「エルちゃん頑張って! 止まっていたらカールソンさんにイタズラされちゃうわよー!」


 やはり女性には重すぎたんだろう。 腕の重りで、全く動けなくなっている。 このままではあのカールソンという男に、色々な事をされてしまいそうだ。 この俺も王国の人間だし、二人を応援したい気持ちはある。 しかし! この場はあえて、あえてあの男の応援をするとしよう!


「頑張ってくださいカールソンさん! 俺、力一杯応援しています!」


 心成しか、会場にの客席の男性達も盛り上がってる。 そんな俺達をエル達が睨みつけ、何だか相手よりもこっちに殺気が飛ばされている気がする。


 両陣営の準備が整い、戦いの合図が鳴った。


「あっちの男は直ぐ倒してくるから、それまで頑張ってねエルちゃん!」


「うッ・・・・・分かった。」


 フレーレはザッコスと戦闘を繰り広げている。 全力で戦えれば楽勝なんだろうが、勝利条件が不殺だから、まだ力加減が分かっていないらしい。 物凄く軽いジャブから、少しずつ力を上げている様だ。


 その二人が戦っている間に、エルに近づいている不埒者が居る。 手をワキワキさせながら、エルの体に飛びついた。 


「ぎゃああああああああああ!」


 エルが炎の力を使い、カールソンに直撃させているのだが、火傷など物ともせず、エルの体に組み付いた。 木剣を何度も頭に叩きつけられているのだが、頭から血を流しながら前進を止めないとは凄まじい気迫だ。 ある意味俺も見習わなければならないな。


 しかしそれも直ぐに終わりを告げた。 カールソンの右手がエルの胸に触れようとした時、エルの重り付きの左拳がその顔面へと叩きつけられた。 あれだけ重いと言っていたのに、何度も何度もそれを叩きつけている。 あれは死んでいるかもしれない。


 フレーレの方は・・・・・まあ言うまでもなく、相手を叩き伏せている。 フレーレが勝ったとしても、エルが相手を殺してしまったから、この勝負は王国側の負け、俺はそう思っていた。


「ふふふ、中々のツッコミでした。 胸に触れなかったのは残念ですが、私はエルさんとコミニケションが取れて嬉しいです。 さあ検討を称え合い、お互いに握手をしましょう!」


「・・・・・。」


 カールソンがエルに握手を求めるのだが、エルはそれを拒否して距離をとっていた。 しかしあんな状態になっても、カールソンはしぶとく生き残り、普通に立ち上がって終わりの挨拶までしている。 なんという生命力だろうか。 もしかしたら密かにキメラ化でもしているんじゃないだろうか?


 そんなカールソンを見て、戦意消失としてこの戦いを止め、そして王国の勝利が告げられた。


「ベリー・エル、フレーレ・フルール組の勝利です!」


 だが二人はそんな勝利を告げられても嬉しそうな気配を一切見せず、腕に付けられた重りを外されると、舞台をを降りて俺達の元へとやって来た。


「じゃあ二人共お仕置きね?」


「・・・・・ね?」


 とんでもない殺気を放ち、二人が俺達へと襲い掛かった。 枷を外された二人の攻撃は凄まじく、全く手加減してくれている気がしない。 このままだと確実に死ぬ! 二人の攻撃をほんのりと掠らせ、二人の気が済むのを待たなければ!


「おい待てぇ! 俺は全然関係ねぇだろうが!」


「問答無用よー!」


「・・・まっ・・・さつ・・・。」


 フレーレの攻撃は軽く地面を抉り、大地が二つに割れている。 エルは炎の大剣を取り出し、俺達に斬り掛かって来ている。


「待て待て! そんなんくらったら本気で死ぬわ! ちょっと落ち着け!」


「隊長、説得は無理です! 今は生き残る事を考えましょう!」


「もとはと言えばお前が変な事言ったからだろうが!」


「覚悟は出来たかしらー?」


「・・・・・死。」


「「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」」


 そしてこの戦いは、トーナメント戦よりも遥かに盛り上がりを見せていた。 俺達は必死に逃げ続け、かなりの時間を要して二人の怒りは静まった。








 ボロボロになりながらも生き残った俺達の為に、トーナメントが少々遅れたのは仕方ない事だと思う。



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