一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 どの国に来ても変な人は居るものだ。

 ブリガンテの町の中。 開催時期はもう少し先だというのに、町中には垂れ幕や綺麗な飾り付けをされて、相当盛り上がっているらしい。 この期を逃さず、商売っ気を出しているのかもしれない。


「べノムー、私お腹空いたんだけどー。 何か食べ物持ってない?」


「ないー?」


「もうちょっとで宿に着くだろうが! 宿に着くまでぐらい、ちっとは我慢しやがれ!」


「あ、エルちゃん、あっちに出店があるわよー。 何か買って行きましょうかー。」


「行く!」


「おいコラ、ちったぁ話を聞けや! ああクソッ、どうせ買うなら俺達の分も買っとけ! 俺だって腹が空いてるんだからな!」


「りょうかーい。」


 二人が走って行ってる。 まるで子供の様だが、その力は舐めてはいけない。 特にフレーレは王国の危険人物の一人だ。 ちょっかいを掛けた男達は、技の実験台にされて酷い目に遭ったと良く噂が流れている。


 かくゆう俺もその一人だ。 あの美しさに騙されて、一度だけデートに誘った事があるのだが、その時同様の被害に遭った。 私の技に全部耐えられたら付き合ってあげると言われ、一日中どつきまわされ、結局耐えられ無くて諦めた経験がある。 もう二度と誘わないと心に誓ったものだ。


 結局買い食いして腹を満たし、俺達は昼過ぎぐらいに宿へと到着した。 部屋は国の代表という事で、結構良い部屋を取って貰えているが、四人で一部屋な上に、大きなベットが二つだけという、気を使っているんだか使っていないんだか分からない状況になっている。


 新婚の隊長は辛いかもしれないが、俺としてはエルとなら一緒に寝ても良いと思っている。 フレーレの事は隊長に任せるとしよう。


「じゃあ私達はこっちのベットを使うから、べノムとバールはそっちのベットねー。」


「ああ、それで良いぜ。」


「待ってください隊長。 どうせなら俺は、エルと一緒に寝たいです! おわっちゃあああああああ!」


 そう言った瞬間、俺の尻がに火が付いた。(物理的に) 見るとエルがギンッっと睨みを利かせている。 やっぱり期待通りにはいかないらしい。 俺の発言で女性陣が怒り、結局もう一部屋安い部屋を用意してもらう事になった。 そして俺だけが何故かその部屋に放り込まれてしまった。


 この部屋の中には何もない。 ベットも無ければ窓も無い。 この部屋で何日も暮らすとなると、もう少し何か欲しい所だ。 仕方ない、まだトーナメントには日にちもあるし、生活用品でも揃えに行こうか。


 あの部屋ではどうせ食事も出ないだろうし、餓死しない為にも、とりあえず食料と水を確保しなければ。 俺は必要な物を買いに町へと出かけた。


 自腹を切って色々買ってはみたものの、果たしてこれは経費で落としてくれるんだろうか? 隊長の事だから、半分ぐらいは出してくれるかもしれないと、淡い期待を込めて買い物を続けた。


 色々と買い物を済ませた俺は、どうせならブリガンテの美女も相手にしたいと思い、町中の美女を探す事にした。 この国の女達は、皆スラっとした体形の人物が多い。 格闘技が盛んで、体を動かす事が多いからだろうか? 俺は好みの女性を見つける為に、センサーを張り巡らせて、町中をサーチして行った。


 ・・・・・居た! すらりと長い手足に、体には胸もくびれもある。 優しそうというよりは、少しキツメな感じだが、俺の好みと合致している。 ・・・・・しかし、何だか見た事がある様な気がするのは気のせいだろうか? 俺はブリガンテに来るのは初めてなのだが。 まあ良い、兎に角声を掛けてみよう。


「あの、落とし物をしましたよ。」


「?」


 俺の言葉に、彼女が振り向き此方を見た。 俺は掌を彼女の前に広げた。


「俺を落として行かないでください。 貴女の様な美しい女性に置いて行かれるのは辛いです。 良ければ、俺を一緒に連れて行ってくれませんか?」


「ナンパですか? 悪いですけど、今人を探していてそれどころじゃないんです。 待って、逆に聴きますけど、この辺りにアーモンって人を見ませんでしたか?」  


 ミスったあああああああああ! あの男の知り合いとなると、間違いなくこの女性は絶対ハズレだ! 七割、いや八割期待できない。 いや、でも、もしかしたらという可能性も残っているはずだ。 もう少しだけ踏ん張ってみよう。


「ア、アーモンっていうと王国に来た事がある人物・・・・・だよね?」


「そうです! その人です! 何処で見ましたか? 早く言ってください、さあ早く!」


 胸倉掴まれてゆっさゆっさされる俺は、やっぱりこの女性はハズレだったと思い至り、誘うのは止めて普通に話始めた。


「え~っと、とりあえず貴女の名前から教えてください。 呼び方が分からないと不便ですから。」


「私はパイン、この国で格闘家をしていたけど、今はアーモンを追い掛けている愛の狩人をを見守る者よ! じゃあ早くアーモンの事を教えなさい!」


 そもそも、あの男がこの国に来ているのかも分からないんだが。 いやでも隊長なら居場所を知っているのかもしれない。 俺は彼女に隊長の居る場所を教えると、彼女は全速力で駆けて行った。


 ・・・・・気を取り直して、他の女性を探してみようか。 二人目に俺が誘った女性は、俺が声を掛けたら、いきなりお兄ちゃあああああああああああんと叫んで走って行った。 今度は普通の娘だと思ったのに、この国には真面な女性は居ないのだろうか? 今日はもう止めといた方が良いのかもしれない。 


 俺が宿に戻ると、先ほどのパインさんだと思われる女性と、何故か隊長が戦っている。 俺は手を打って思い出した。 あれは何時も隊長を襲っていた女性の一人だったと。 真面にしていれば可愛いのに、とても勿体ないと俺は思った。 さっき叫んでいた女性ももしかしたら・・・・・。






 俺は少し怖くなって、部屋の中で大人しく過ごした。 



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