一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

22 類は友を呼んで、更に増え続ける。

 あの試合を終え、私は控室で目を覚ました。


「・・・・・また勝つ事が出来なかった。」


 魔法というものがこの国に定着して行けば、もっと手強い相手も出て来るだろう。 これで勝てないとなると、今後のトーナメントの優勝は難しいかもしれない。 今後は賞金目当てで参加するのは、もう難しいだろう。 今回の事で、きっぱり決意が付いた。


 それはそれとして、もっと重大な事がある。 一回戦しか戦っていない私には、参加賞しか貰う事が出来なかった。 こんな額では家に入れるレベルではない。


 親の収入だけでは、今後満足に暮らす事は難しい。 こうなれば、別の方法を考えるしかなさそうだ。


「危険度は低くて、なるべく儲けられる仕事は・・・・・。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 パインさんの試合を見届けた俺は、もう会には行かなかった。 俺達は今後彼女を支える事も出来ないし、この国はただ通り過ぎただけなのだ。 これ以上関わるべきではない。


 何よりも王国の地に待たせている、アンリさんとレインさんを、これ以上待たせる訳にはいかないのだ。 黙って行くよりはと、俺はパインさんに、別れの手紙を送り、王国への出発の日を待った。


 出発の日にちが決まり、それから二日後。 俺達はブリガンテの門に集合していた。


「二人共、もうこの国ともお別れだよ。 忘れ物は無いよね?」


「勿論よお兄ちゃん。 この国に忘れ物なんて無いわ。 あんなクソ女がいる国なんて、もう早く出てしまいましょうよ。」


「レイリアと同じ意見よ。 これ以上この国に居たって、また変な女が増えるだけだもの。 さあ早く出発しましょう!」 


「いや、まだ出発の時間じゃないし、他の人も来ていないよ。 二人共、もうちょっと待っていようね。」


「「は~い。」」


 二人共俺の言う事を聞いてくれて、大人しくしてくれている。 待っていると、この場所へと、屈強そうな人間が、少しずつ集まって来ていた。 見た事がある人物が居る。 本当に見た事が有るだけの人物だが、あれは王国の人間だろう。 王国への積み荷なのだから当然か。


 向うも俺の事を知っているのだろう、決して近づいては来ないが、チラチラと此方を見てきている。 俺の顔に何かついているのだろうか?


 時間が経ち、集まったのは十人と少ない。 これだけ少ないのは、王国への護衛だとゆう事が大きいだろう。 王国の人間が護衛をしているから、道中の死人も少なく、その為に報酬も安くなっている。


 一攫千金を狙っているのなら、ラグナードに戻るか、それとも帝国に行くのが良いからだ。 それでも王国に行く奴は、大体が変人と聞く。 この中にもそうゆう人間が潜んでいるのだろうか? まあ俺達には関係ない話だ。


 この隊のリーダーが、時計台を見て時間を確認している。 もう出発の時間だ。


「予定の人数より一人少ない様だが、命が惜しくなったとかそんな事だろう。 今から人を集める時間はない。 これで出発するぞ。 お前達もそれで構わないだろ?」


 俺達もその言葉に頷き、隊列を決めると馬車が動きだそうとしていた。


「待ってくださ~い!」


 パインさんの声だ。 出発する時間も伝えて居なかったけど、何故此処に? 見送りにでも来たのだろうか? 俺は彼女へと声を掛けた。


「パインさん、お早うございます。 見送りに来てくれたんですか?」


「いえ違います。 私もこの護衛に参加しようと思って。 これから宜しくお願いします。」


「「はぁ!」」


「お兄ちゃん、何言ってるのこの糞女は? ついて来るですって? そんな事を私は許してやらないわ!」


「この女、アーモンに気があるのよ! 絶対に付いて来させちゃ駄目よレイリア。 私はアーモンと行くから、アンタはそこで足止めしてて頂戴!」


「ええ、わか・・・・・分かるかあああああああああ! 足止めするならアンタがやりなさいよ! 私がお兄ちゃんと行くから!」


「ふぅん? 二人掛かりで勝てなかったくせに、一人で私に勝てるのかしら? 私に此処で負けたら、一人で残る事になるけど、それでも良いなら掛かっていらっしゃい。」


 三人が一触即発の雰囲気を醸し出している。 こんな所で喧嘩なんてしている場合じゃないというのに。 三人を止めるべく俺が声を掛けようとした時。 隊のリーダーが俺達へと怒り出した。


「おいお前達、来ないのなら置いて行くからな。 好きなだけそこで喧嘩していろ!」


「行きます行きます! 俺一人でも絶対行きますから!」


「「「私も行きます!」」」


 俺が動き出した馬車へと走ると、喧嘩していた三人も、走って来ていた。  同時に同じ言葉を発しているこの三人は、もしかしたら仲が良いのかもしれないな。


 十一人での旅は順調に進んでいる。 あの三人も旅の最中は、無暗に喧嘩をしないでいてくれている。 そんな旅の休憩中、ブリガンテでチラチラと俺を見ていた男に、声を掛けられた。


「アーモンさん、ですよね? あ、俺アラートと言います。 俺、貴方の噂を聞いてから、ずっと会ってみたいと思っていたんです。 如何でしょう、少し俺と話しをしてみませんか? きっと仲良くなれると思いますから。」


 アラートという男は、俺の手を掴み、その指で俺の手の甲を撫でて来ている。 俺の心が警鐘を鳴らしている。 この男は誰よりもヤバイと。 何がヤバイかというと、俺の顔を見て、顔を赤らめている所だろうか。 俺にはそんな趣味は無いというのに。 そんな俺達を見ていたパインさんは、何故か目を輝かせている。


「男の友情って、とても素晴らしいと思います! アラートさん、友情の証に、キスでもしてあげたら如何でしょうか!」


「え? ・・・なる程、この人の言う通りですね。 確かに友情のを深める為には仕方ありません。 あくまでも友情の為、友情の為ですから! さあアーモンさん、大人しく目を閉じてくれませんか!」


「私もお手伝いします! さあアーモンさん。 ちょっとだけジッとしてくださいね!」


 これは不味い、またあの時と同じ事に! 俺は直ぐに脱出しようとするが、パインさんの恐ろしい力で抑え込まれる。 だがそこに、助けが入った。


「お兄ちゃんに、何してるのよ糞女! ぎゃああああ、何しようとしてるのこの男! 私のお兄ちゃんに何するつもり!」


「あああああああああ、アーモンが汚される、汚される! 駄目だ、もう二人共殺さなきゃ!」


 四人で始められた大乱闘は、何方が勝つかと賭けに使われ、隊の皆が盛り上がっていた。 結局の所パインさんとアラートが勝つと、俺は隊の皆に生贄にされた。






 そんな旅が毎日続き、予定よりも早く王国へと戻って来る事が出来た。 



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