一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

2 彼女は悩んでいた。

 アーモンが約束をする三日前。 レインは何時もの様に、パン屋で働いていた。 何時もの様にパンを売っていると、レインの元に、常連のべノムさんがやって来た。 ちょっと顔が怖い。 何か怒らせることでもしただろうか?


「レイン、悪いが折り入って頼みがある!! 俺の話を聞いてくれないか!!」


「お、お早う御座いますべノムさん。 え~っと、今日はどの様なパンをお求めですか?」


「ああ、お早う。 じゃあ・・・じゃなくてな!! 少し頼みたい事がある、君にしか出来ない事なんだ。 如何にか頼むよ!!」


 このべノムさんは、近くに住んで居る新婚さんだけど、私と特別仲が良い訳ではない。 そんな私に頼み事って、一体何なんだろうか?


「はぁ? 変な事じゃないですよね? そうじゃ無ければ、私で出来る事であれば良いですけど・・・・・。」


「よっしゃあ!! 君が協力してくれれば、あの馬鹿男も構成させてやる事が出来るかもしれない。 本当にありがとう、助かった!!」


「あの~、一体私は何をするんでしょうか? その男の人を何かするんですか? 私は全然戦いとか出来ませんよ?」


「あの男っていうのは、アーモンの事だ。 何時も買いに来ているらしいから、君も知っているだろう? もうこれ以上奴を放っておけば、俺のケツを狙われかねない。 是非君の力で、奴の更生を頼む!!」


「え? お尻ですか? え? あの人が? え? そんな趣味なんですか? ・・・ああ、そんな人だったんですねぇ・・・。 そうですか・・・・・。」


 凄く驚いた。 あの男の人が、そんな趣味を持って居るとは、思っても居なかった。 何時も買いに来てくれるから、もしかしたら私に気があるんじゃないかと、少し思ってしまったけど、全くハズレの様だ。


「そうだ、だから君の魅力で、真人間に戻してやって欲しいんだ。 きっと君になら出来る!! というかやってくれ、絶ッ対やってくれ!!」


 それは私とアーモンさんが、付き合うって事なんでしょうか? 顔は結構好みだけど、そんな特殊な人と、付き合って行けるのだろうか? それより、女性に興味があるのだろうか? 不安しかなかったけど、べノムさんの必死の頼みに、私は怖気づいて、断る事が出来なかった。


 もし付き合う事になるとしても、きっと上手く行くはずがない。 それに私は、彼と付き合う気が無かった。 彼を元に戻す方法は、如何すれば良いのだろうかと、彼を説得するには、如何すれば良いのかと、私はその三日で考え抜いた。


 べノムさんは、私に興味を逸らせようとしているけど、それなら私でなくても、彼が好きになる人なら、誰でも良いはずだ。 彼が好きそうな男の人を集めて行ったら、その中に誰か一人位は、気に居る人が居るんじゃないだろうか。


 私はお客さんに、遊びに行きませんかと、声を掛けた。 そして集まったのが、五人のおじさん達だ。


 一人目はダスパーさん。 二十九歳の独身男性。 茶髪の長い髪がセクシーだと自分で言ってる、恋人募集中のおじ様だ。


 二人目はガイラさん。 四十八歳の、この中では一番年上のおじ様だ。 鍛え上げた肉体は、はちきれんばかりの筋肉をしている。 あんな体だと、逆に動きずらいんじゃないかと思ってしまう。 この頃奥さんとは上手く行っていないらしい。


 三人目はジョーさん。 三十二歳の男性。 細い体は、引き締まっているというよりも、骨と皮しかない様に見える。 奥さんは居るけど、内緒で来たと言っている。


 四人目はハーディッシュさん。 至って普通の三十五歳。 新婚だというのに、こんな所に来る女好き。 内緒出来ていると言っているが、実は奥さんにもバレて、何処かで隠れて見ていると、私は聞いている。


 五人目はスパンクさん。最近奥さんと別れ、新しいお嫁さんを探しているらしい。 背が高く、お金もそこそこ持っている。 四十歳の、ダンディーな、おじ様だ。 私は彼が本命なんじゃないかと思っている。


 私は彼等には、何も伝えていない。 伝えて居たら、きっと来なかっただろう。 彼に選ばれなければ、普通に食事や買い物をするだけなので、大丈夫でしょう。


 もうそろそろ約束の時間が来る。 私達の元へ、彼は時間通りに現れた。 おじ様方を見て、アーモンさんは驚いている。 きっと嬉しいのだろう。


「お待たせしましたレインさ・・・ん・・・・・。」


「あ、アーモンさんこんにちは。 いいお天気ですね。 じゃあ早速お出かけしましょうか。」


「えっと、ちょっと聞きたい事があるのですが、この方々は一体・・・・・。」


「あ、はい。 この方々は今回同行してくれる方々ですよ。 私の事は如何でも良いので、アーモンさん、仲良くしてあげてくださいね。」


「あ、ああ、はい・・・・・。 よ、宜しくお願いします。」


「「「「「宜しく・・・・・。」」」」」


 どうもまだ打ち解けていないらしい。 たぶん時間が経てば、打ち解けてくれるんじゃないだろうか? 私はとりあえず、皆とお出かけする事にした。


「じゃあ皆さん、お買い物でも行きましょうか。 え~っと、じゃあ着る物でも見に行きましょうか。」


「そ、そうですね。 行きましょうか皆さん。」


「おう・・・。」「そうだな。」「・・・・・。」「お前にゃ負けん。」「フッ。」






 私達七人は、微妙な雰囲気の中、服屋に向かて行った。 品揃えが多い店の中、私の周りには、おじ様達と、アーモンさんが固まっている。 このままでは駄目だ。 アーモンさんと、おじ様方の誰かを、二人っきりにさせてあげないと、恋の発展は望めないだろう。 何か作戦を考えなければ。



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