一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

33 黒色の真実 ゼラルーシの語った真実 END2

 私は怒りのままに、剣を振り回して、町の中を暴走していた。 結果は分かり切っている。 今私は警官共に、地面に押さえつけられてしまっている。


「ぐあぁッ、放せ!! 私はあの糞豚をぶっ殺さなくちゃならないのよ、放せえええええええええええ!!」


「大人しくしていろ。 話は署で聞かせて貰おうか。 手に持っているその剣の事もな。」


「良し、連れて行け!! お前には、何もかも喋ってもらうからな。」


「うああああああああああああああああ、放せえええええええええええ、あの糞共、何時か絶対にぶっ殺してやるからなああああああああああああああああああああああ!!


 何故こんな事になったのだろうか。 私はただのメイドだった筈なのに。 ほんの少しドライン様を、お慕いしていただけなのに。 まさかあの糞豚に、私の気持ちを見透かされるとは思っていなかった。 これからも隠し通すつもりだったのに!!


 私は小さく狭い、取調室に連れて行かれ、体を縛られたまま、座り心地の悪い椅子へと、座らされていた。 この中には私と、この警官の二人だけだ。 一人は、私達の言葉を、ノートへと書き記している。 もう一人は、私の正面に座り、私を睨みつけていた。


「正直にはいて貰おうか。 レーゼシュルトに命じられて、お前は数々の殺人を犯して来たのだな? 誰が何に関わっている? まさか、ドライン・レーゼシュルトまでも、関わっているんではないよな?」


「ち、違う、ドライン様は何も知りません!! 全ては、私一人の独断、ただそれだけです!!」


「とぼけるのは無駄だ、今頃レーゼシュルトの屋敷には、大量の警官が押し寄せている筈だ。 惚けようのない証拠が出て来るのは、時間の問題だぞ。 ドラインを護りたいと言うなら、真実を話すんだな。 組織の全貌を話すのなら、罪を軽くしてやっても良いという話も出ている。 お前はこのままだと死罪だ。 愛する者と、二度と会えなくなっても良いのか?」


「・・・・・どの道、私の所為で、レーゼシュルトの家が壊れると言うなら、そんな私が、どんな顔をして会えるというのですか。 しかし、ドライン様の無実を証明する為に、私は証言しましょう。」


「ならば話すんだ。 ドラインの無実を証明する為にな。」


「そうですね、それでは最初から話す致しましょうか。 ・・・・・あれは、王国との戦争が終わり、七ヶ月程が経った頃でしょうか。 アルファ・トライアンスという人物が、屋敷へと、訪ねて来たのです。 私はそれに同行しては居りませんから、何を話されたかは存じませんが、御主人様が、それを受け入れたというのが、全ての始まりでしょうか。」


「ふむ、グレイ・アングライシスの、日記に書かれていた人物だな。 その人物には、既に調べが入っている。 では続きを。」


「私がそれに関わる様になったのは、不自然なお金の流れを見つけてしまったからでしょう。 勿論私は、御主人様へと問い詰めました。 もしおかしな事に関わっているのなら、この家の名に傷がついてしまうからです。


 しかし、御主人様から、その組織の全貌を聞き、私は説得するのを諦めました。 もしも、彼等との関係を打ち切れば、その組織が如何出るのかが、分からなかったからです。 最悪は、全員が殺され、金品を奪われていたでしょう。 現に、アングライシスの家は、それで酷い目に合っていますからね。」


「なる程、その点に関しては、間違ってなかったのかもしれんな。 しかし、警察に相談しようとは思わなかったのか?」


「警察が信用出来る筈がないでしょう。 あの組織が、どれ程の人脈を揃えているか、ご存知で? 警官の中にも、確実に入り込んでおりますわよ。 そこで文字を書かれている貴方も、もしかしたらそうなのではないですか?」


「私は、そんな組織には関わっていない!! 侮辱するのは止めてもらおうか!!」


「そうならば私も助かるのですが、貴方の同僚の中に確実に入り込んでいるのは確かです。 もし組織を追うのなら、後から刺されない様に、気を付けるべきですね。」


 彼等は、壁の向こうを凝視している。 思い浮かぶ節でも、あるのかもしれない。


「その忠告、有難く聞くとしよう。 さあ続きを話せ。」


「私はレーゼシュルトの家の、帳簿を任されるまでになっていました。 勿論不正を隠す為にですが。 日付は覚えておりませんが、その組織の命で、御主人から私に、アングライシスの説得をするようにと、仕事を頼まれたのです。 ただの説得ならと、私はそれを了承しました。 私は本当に、ただ説得に行ったのです。」


「母親を殺したのは、自分では無いと?」


「当然です、私はただ、あの場に居ただけですから。 しかし、説得に応じないグレイ・アングライシス様に対して、同行した男が、暴走を始めたのです。 その男は母親を殺害し、娘を人質に取りました。」


「その男は、オーガ・ブックレッドか? 彼が母親を殺害したのか?」


「確かに、彼は同行しておりましたが、殺害したのは違う人物です。 まさか殺人の片棒を担がされるとは思っておりませんでした。 私は彼等の、名前さえ知りません。 しかし、彼等の行く末なら知っておりますよ? もうたぶん、殺されているのでしょう。」


「ならフェリス・アングライシスの事はどうだ? 誰が監禁した?」


「彼女の事ですか・・・・・。 グレイ・アングライシス様を、連れ戻す事に成功した彼等ですが、人質として、部屋に閉じ込めてしまったのです。 それだけならば、まだ良かったのですが、彼女は、体を良い様に嬲られ、犯され、その光景を見ている内に、私は、ふと魔が差したのです。 彼女さえ死んでしまえば、ドライン様を慰めて差し上げられると。


 私はその男達に、彼女の殺害を提案しました。 しかし、オーガ・ブックレッドにより、それは阻止されてしまったのです。 彼女の体を、弄んだと言うのに。 いえ、もしかしたら、弄んだからこそ、惜しくなったのかもしれません。 私も馬鹿な事を考えたと、その場はそれで収まったのです。 しかし、彼はそれからも、その屋敷を訪ねていたのですよ。 自分の欲望を吐き出す為に。 彼女の事を気になった私は、何度もその光景を目撃しているのです。」


「気になっていただけで、貴女は彼女を助けなかった。 それは、殺意があったからではありませんか? 自分の手を汚さずとも、放っておけば彼女は死ぬから。」


「さあ? その時の事は、よく覚えていません。 ですが、何日もそれを見ている内に、私はオーガ・ブックレッドの事を、殺すべき相手と認識したのです。 女性を、良い様に弄ぶ、このような男は、この世に居てはならないと。 私は彼に斬り掛かりましたが、逃げられてしまいましたけどね。」


「それでも、フェリス嬢を助ける気は、無かったと?」


「そうですね、私は女性の敵である、あの男を許せなかっただけですから。 フェリス様の事は、助ける気はありませんでした。 しかしまさか、魔物が現れるとは、思っておりませんでしたが。 その事は、皆様もご存知のはずですよね?」


「確かに、あの騒ぎを知らない者は、居ないな。 フェリス嬢は、死体すら残さず、食い殺されたと見るべきだろうな。 何日もの監禁で、体力も残っていなかったはずだからな。 逃げる事すら出来なかっただろう。 だったら、その前に起こったとされる、ノーツとアーツ兄弟の事件には、何もか関わっていないと言うんだな?」


「ええ、私はその時には、全く関わっておりません。 考えるに、それはオーガ・ブックレッドがやったのでしょう。」


「ふむ、情報提供された物には、彼が兄弟の一方と、入れ替わっていたという話は聞いている。 しかし、何故全員が胸を刺し貫くのだ? 何か理由があるのか?」


「あれは、誰がやったのか、分からなくする為に、行われていると、聞いた事があります。 殺し方が同じならば、貴方方は、犯人は一人だと考えたのでしょう?」


「話は分かった。 だったら、お前が殺したのは、オーガ・ブックレッドただ一人と言う事か?」


「ふうう、何故私がそんな事をしなければならないのです? 確かに、一度は殺そうとしましたが、冷静に考えれば、そんな必要はないでしょう。 私が殺さずとも、何れ彼は、組織に殺されていたでしょうね。 ボスの娘を弄ったのですから。」


「お前は、何一つしていないというのか?!  オーガ・ブックレッドの死にも、関わっていないと!!」


「そう、それが真実。 貴方方が信じるか、信じないかは、其方の自由ですわ。」


「ならオーガ・ブックレッドは、誰が殺したと言うんだ!! お前は犯人を知らないのか?!」


「ふふふ・・・全く、誰が殺してくれたのでしょうね? 私としてはとても感謝しています。」


「ふざけるなよ!! お前がやったという証拠を、必ずみつけだしてやるからな!!」


 結局警察は、私が関わった証拠を、見つける事が出来なかった。 私は犯罪組織のメンバーとして、少しの時間を拘束されてしまったが、ただか関わったというだけでは、永久に拘束しておくことは、出来なかった。






 数年後、ドライン様が結婚された事を知った私は、自棄になって、グレイ・アングライシスと、子を授かる事になった。 それが、私の物語の終焉。 ・・・・・だと思ったのだけど、まだ私の物語は終わってはいなかった。 それは、この物語とは全く別の、ある女の物語へと続いて行く・・・・・ 



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