一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

27 砂の一粒から、手掛かりを探し出す。

 俺は、あの兄弟の家を調べる事にした。 あの男が、兄弟の事を知っていたのは、まあ予想が付く。 二人の日記でも、見ていたのだろう。 今欲しいのは、あの男の情報だ。 あの男も、日記でも残してくれていれば、話が早いのだが、その希は薄いだろう。


 俺は、この部屋の中を、調べ始めた。 改めて見ると、この部屋の中は、二つ一対の様になっている。 椅子、机、同じ書籍までもが、二つに分けられている。


 稀に、そういう人間も居ると聞いた事がある。 相手と同じ物を持っていないと、気が済まない、そういう人間が。 この兄弟の二人共が、そういう習性があるのだろう。 しかし、異端者である、あの男が、わざわざ二つずつを守っているとは、考えにくい。 この部屋で、何日も暮らしていたのなら、幾つかの物は、買い足しているだろう。 それが手掛かりになるかは、別として、だが。


 ついになっていない物を、集めて行くと、あの男の私物だと思われる物が、集まった。 日めくりカレンダー。 羽ペン。 黒のコート。 靴。 それと幾つかの書籍。 こんな物だろう。


 どれもあまり参考はならなそうだが、実はそうではない。 大量生産等というものが、夢のまた夢である、この世界に置いて、この羽ペン一つとっても、丁重に作られた、一品物である。


 着色された、この羽根の色と、中心の骨には、黄色い筋が入れられている。 このペンは、此処から遠い、帝国の北東方面にある、店の物だろう。 何故そこまで詳しいのかと、言われれば、俺も、その店の羽根ペンを、使っているからだ。 この帝国の中では、一番使いやすいペンだ。 安物の中では、だが。


 勿論これが、あの男が買った物とは、限らない。 貰い物や、誰かの物を、買ったのかもしれない。 それでも、調べる価値はあるだろう。 カレンダーは兎も角、ペンやコート、それに靴もだが、元から持っていた物である、可能性があるからだ。


 重要なのは、これ等が何処に売っていたかだ。 あの男の、行動範囲が分かれば、前に潜んでいた住処が、大体判明する、かもしれない。


 この手掛かりを元に、俺は色々な店を周って行ったが、そう簡単にはいかなかった。 カレンダーと、書籍が売っていた場所は、直ぐに判明したが、他の物は、簡単に見つからなかった。 


 俺は、靴やコートが売っている場所を、全く知らないというのが、原因なのだが。 精々自分の分を買う店、一つしか知らない。


 一度社に戻って、先輩か誰かに、相談するのも良いかもしれない。 最近連絡もしてないから、きっと怒られそうな気がする。 少し悩んだが、手掛かりの物、数点を袋に包んで、俺は社に戻る事にした。


「クオラァ!! 社にも顔出さないで何やってんの!! 連絡が無いと心配するでしょうが!!」


 予想通り、俺は先輩に、凄く怒られた。 先輩なりに、心配してくれたのだろう。


「いや、あの、すみません。 何だ、凄く色々な事が、有ったんですよ。」


「知ってるわよ。 朽ち果てた住居で、大量の死体が見つかったんだって? それ、アンタが見つけたんでしょ? 情報は入ってるわよ。」


「そうなんですよ。 その事件に、魔物が関わっている、可能性があるのですが。 ・・・・・どうもその背後に、誰かが糸を引いているんじゃないかと・・・・・。」


「はぁ、何それ? 魔物が操られていると? そりゃ無いでしょう。 人間と見たら、必ず殺しに来る様な奴を、どうやって操るって言うのよ?」


「操っていると言うよりは、利用しているんじゃないでしょうか。 ある筋の情報では、その魔物の爪が、胸に突き刺さった、剣その物だと言う話です。 その爪の剣を使って、大量の武器を集めているのかもしれません。 邪魔な者を始末したり、色々と。」


「その魔物の情報は、知らなかったわ。 アンタ、ちゃんと警察にも知らせてあるんでしょうね? 放置してたら、帝国が、魔物の巣になるわよ?!」


「大丈夫です、警察には連絡していますから。 でもたぶん、魔物を退治したとしても、此方には情報は来ないでしょうね。 そんな情報が流れれば、警備兵や、警察の威信に関わりますからね。 この社にも、圧力が掛かってくるかもしれませんね。」


「帝国内に、魔物が侵入したとなれば、相当な反発がある・・・・・か。 それにしても、アンタ最近、大当たりしか引かないわね。 大当たりというよりは、大外れかしら? 記事に出来なかったら、意味が無いんだけど?」


「いやいや、事は帝国の存続に、関わる事なんですから、放っておくのは不味いでしょう。 それに、記事に出来ない所は伏せて、それ以外を載せれば良いんですよ。 ねっ? ねっ?」


「はぁぁぁぁ・・・。 もう良いわよ、それで。 別に社として、損してる訳じゃ無いし。 で? 報告だけしに帰って来たの?」


「いや、実はですね・・・・・。」


 俺は先輩に、兄弟に化けていた、男の情報を伝えた。


「ふ~ん、それが手掛かりか・・・・・。 分かったわ、なら余ったその二人で、調査をしてみましょう。 どうせ適当にサボってるんだから、問題ないでしょ? ねぇ二人共?」


 皆と言うのは、ドラファルトと、トロンの事だ。 他の者は、外に出ているが、彼等だけは残っていたらしい。


「失敬な。 俺達サボってませんって。 俺達はちゃんと仕事してますって!! なあトロン。」


「そうそう、僕達、ちゃんと仕事してますよ。」


「「ね、そうだろカールソン。」」  


「ははは、そうですね。 まあでも手伝ってください。 ちょっと大変なんで。」


「仕方ないな。」「仕方ないね。」


 二人の手を借りると、手分けして、各所で聞き込みをして行った。 三日掛かりで、手掛かりの売り場を、調べ上げた。 あのペンとは違い、靴とコートは、帝国の東側にある店で売っていた物だった。


 カレンダーと、ペンの売り場は近く、靴とコートの売り場が近い。 二か所の近くに、あの男が潜んでいたと言う事だろう。






 その男の事を調べるのに、更に四日。 男の名前が判明したのは、その一日後だった。



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