一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

23 真相を目指す一歩。

 護衛の四人を連れて、貧民街に来た俺達は、手掛かりを探そうと、辺りを探索していた。 貧民街の中は、独特な臭いが漂っている。 勿論決して良い匂いではない。 何かが腐った様な、糞尿が混じり合った様な、兎に角酷い臭いだった。 それも当然だった、家が無い者も多く、草場や、道にまで糞を垂らす者も多い。 正常な空間で暮らして来た、ダイヤさんには、キツイ場所だろう。


 そんなこの区画を、如何にか整理しようと言う声もあるが、帝国の現状では、手をつけるのは難しかった。 復興したばかりの帝国には、それを行うだけの金が無い。 税収も少なく、町の警備や、警察の運営で、手一杯なのである。 この区画を立て直す為には、何十年か掛けて、少しずつ、改善して行くしかないのだろう。


 ここでの問題の一つは、闇の仕事に手を出す者が多い、と言う事だろう。 年に数回の仕事で、この区画では暮らして行けるのだ。 だから此処で暮らす者達は、普通の仕事に戻る事が、殆ど無かった。


 そして最大の問題は、この区画に住む者達の、やる気の問題だった。 例え道が綺麗になった所で、住む人々が、やる気にならなければ、何の解決にもならないのだ。


 そんな場所で、俺達は住人に話を聞いていた。 一人聞き込みをする毎に、俺の財布の中身が、ガリガリと削られて行く。 正直もう帰りたい程だ。 何人かの人物に、話を聞いていると、俺達の元へ、怪しい男がやって来た。


「なあお前達、何を探しているのか知らないが、俺の情報を買わないか? むやみやたらに、そこら中に話を聞いていたら、直ぐにスッカラカンになっちまうぜ? どうだい、悪い話じゃ無いだろう?」


「自分から売り込みに来てるんです、安くしてくれるんでしょうね? 無駄な情報だったら、お金は払いませんよ。」


「おりゃあ、この町の事は、全部知ってるんだ。 まあ任せて置けよ。 俺を信用しろって。」


「どうしましょうか、ダイヤさん? 話を聞いてみましょうか?」


「もし何か知ってるんなら、私がお金を払うよ!! カールソンさん、この人に聞いてみよう!!」


「そのお金は、もしもの為に、取っておいてください。 後々必要になるかもしれないので。 この場は私が払いますので。」


 ダイヤさんが、お金を出してくれるのなら、俺としては物凄く助かる。 具体的に言うと、一週間後の食事を心配しなくても、良くなる。 だからと言って、今更ダイヤさんに出させるのは恥ずかしいので、それを制止して、俺がリギルに金を払った。


 話を聞くと、この男は、リギルと言う名で、この区画に入って来る者に、たまに情報を売ってるらしい。


 俺は、この男に、ノーツの情報を伝えると、このリギルという男は、俺達を、ある場所へと案内した。 この場所は、ゴミ捨て場の様だ。 動物の骨や、魚の骨が、大きな穴の中に捨てられている。


「うッ・・・・・。」


「あッ・・・・・。」


 その穴の中心で、裸で眠っている人物が居た。 その胸には、あの時の様に、剣が突き立てられている。 たぶんこの男がノーツなのだろう。 聞かされていた特徴とも、一致している気がする。


 残念ながら、今の彼の状態は、生前の彼の状態とは変わっている。 これでは本人かどうか、判断出来ない。 分かるのは、背の高さぐらいしだろう。 背の高さとしては、特徴と一致している。 アーツよりも、少し背が低いぐらいだ。


「カールソンさん、あれがノーツって言うんじゃないよね? あれはもう、どう見ても・・・・・。」


「・・・・・。」


「私が違うって、確かめて来る!!」


 ダイヤは、ゴミ溜めの穴へと飛び降り、死体の元へと走って行った。 俺も覚悟を決めて、それに続いて行った。 護衛達は、穴に入らず、その場で留まっている。 この中には、入る気が無いらしい。 この穴に近づく人物が居たら、護ってくれると、信じておこう。


 俺がその死体の元へ到着すると、ダイヤは、泣き崩れていた。 この人物が、彼女の知ってる、ノーツだと確認できたのだろう。 俺は、その場で後を向き、彼女が泣き止むのを待った。


 三十分程泣き続けた彼女は、泣くのを止めて、ノーツの姿をジッと見続けている。 その姿を見て、俺は意を決して、彼女に声を掛けた。


「ダイヤさん、あまりこの場所に留まっていては、体に毒ですよ。 一度上へと、上がりませんか?」


「待って、もう少しだけ!!」


 彼女の表情は、何かを見つけ出そうと、必死で探している様だ。 ダイヤの気がすむまで、見守るとするか。 それから更に、三十分、彼女は死体を見続け、ダイヤが、バッと立ち上がった。


「この人はノーツじゃない。 ノーツは、前歯が欠けていたし。 この人は、アーツだわ・・・・・。」 
「えええええ!! じゃあ家に居たアーツさんは、もしかしてノーツさん?!」


 確かに兄弟ならば、顔立ちも似ているだろう。 特徴が一緒でも可笑しくは無い。 でも、言われた特徴とは、大分違う気がするのだが、これはどういう事だ? 兄を探してくれと言った、アーツが、ノーツで、この場にある死体がアーツ?


 少し、落ち着いて考える必要があるな。 護衛の人達も、そろそろ帰りたがっている。 彼女にとっては、何方が死んでいたとしても、悲しみは同じはずだ。 強引にでも、連れて帰るしかないだろう。


「帰りましょう、ダイヤさん。 護衛の人達も待っています。 後で警察にも知らせますから、さあ、手を!!」


「・・・・・。」


 俺は、返事を聞かず、ダイヤさんの手を、強引に引っ張り、ゴミの穴の中から、脱出した。 そのまま護衛の人達に頼み込み、兄弟の家にまで、見に行ってみたのだが、その家の中には、誰も居なかった。


 俺はダイヤさんを、自宅まで送り届けると、一度帰宅して、考えをまとめてみる事にした。


 自室に戻った俺は、愛用のパイプに火を入れ、今回の事件の事を考え出した。


 さて、色々おかしな事があったが、まずは兄弟の家に居た、あの男の事だ。 あの男は、アーツか、それともノーツか。 答えは両方違う、だろうか。


 あの男がノーツならば、ダイヤさんや、その男が言った特徴とも一致するのだろうが、背と体格が、明らかに違っていた。 あの死体が、アーツであったなら、背の高さは、大体ノーツと同じ位だ。 何方が入れ替わったとしても、あそこまで変わる事は無いだろう。 つまり、あの兄弟ではあり得ない。


 そして、気になる事が、もう一つある。 あの死体の、殺され方の事だ。 あれは、フェリス君の母親が、殺された時と同じものだ。 犯人が同じと、考えても良いかもしれない。 犯人は、フェリス君の父親により、捕らえられたと聞いていたが、逃げ延びた者が居たのだろうか。 それであの兄弟と、入れ替わったとみるべきか。


 しかし、何処で入れ替わったのだろうか? 教会に行ったのは、たぶんノーツだ。 ダイヤさんが、ノーツにはあんな感じのものを書く癖があった。 ブリザード・フレイムだったか? 弟には、そんな癖は無いと思う。 まあ明日にでも、ダイヤさんに、確認を取るべきだろう。


 そうなると、橋で女を助けたのも、兄の方だ。 ん? 待て。 逃げたのは二人とは限らないぞ。 俺が出店で聞いたのは、男達に追われていた人物を見なかったか? だ。 逃げていた人数までは、聞いていない。 弟と、合流したとも考えられる。 逃げる途中で、偶然弟と会った。 または、橋で弟と合流して、一緒に声を掛けていた。 とか。


 何にしろ、これからノーツの行方を探す為には、あの男を追って行くしかないだろう。


「ふう・・・・・。」






 俺は煙を吐き出し、明日の為に、眠る事にした。



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