一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

22 朱殷(しゅあん)の髪と攫われた赤子 20

 リギルの情報を元に、その場へ来てみたものの、この場には広場があるだけで、何も無い。 有るのは、子供達が使う、遊具があるだけだった。


「チッ、騙されたか。 リギルを、同行させれば良かったな」


「待ってシャイン、真ん中にある遊具の中なら、人が隠れられるんじゃない? 私ちょっと見て来るわ」


 クスピエが言っているのは、真ん中にあるオブジェの様な大きな建造物だった。 子供が登ったり、滑り降りたり出来る様になっている。 しかし子供の姿や、大人の姿も無い。 この場に居るのは、私達だけだった。


「おい、そんな場所に、居る訳が無いだろう。 時間の無駄・・・・・」


「わ、本当に居たわ!! ねぇシャイン、この人じゃないの?」


 私は疑問を持ちつつも、その遊具の下を覗いて見た。 下の隙間の格子の中に、薄汚い男が入っている。  ヒゲも伸び放題で、臭い立ってきそうだ。


 実際には臭いは無い、定期的に、風呂にでも入れられているのかもしれない。 この男がアルファ・トライアンスなんだろうか? 五年前に釈放されたと聞いているが、まさかそれから、ずっとこの場所に閉じ込められているのだろうか?


 此奴が危ないとは思えない。 リギルの奴、金が欲しいからと、嘘でもついたのだろうか。 私はその男に話しを聞く為に、声を掛けてみた。


「お前、アルファ・トライアンスか? もしそうなら、話を聞かせて欲しいのだが」


「違う違う違う違う! 私の名前はザークだ。 私はザークだ!」


 こんな場所で、閉じ込められているとなると、敵を誘き出す、囮にでもされているのだろう。 つまりは、私達の事も、見張られていと考えても良いだろう。


 私は、この広場の周りを見回してみたが、見張って居る人物は、誰一人見当たらなかった。 警察であれ敵であれ、簡単に発見出来るなら、苦労はないか。


「そうかザーク。 こんな場所に閉じ込められていては、満足な食事も与えられていないだろう。 もし話を聞かせてくれるのなら、私の持っている干し肉を、全部やってもいいぞ? 水も存分に与えてやる。 少し考えてみないか?」


「に、肉ッ! は、話す、話すから、それをくれ!」


「よし、なら、先に話を聞いてからだ。 嘘を言っても、この肉をやらないからな」


 余程腹が空いていたのだろう。 ザークと名乗ったこの男は、少量の干し肉に釣られ、話を始めた。


「お、俺は、アルファ・トライアンス・・・・・だった。 でも、今はザークだ。 トライアンスの名を名乗ると、俺に危険が及ぶんだ。 もうその名を使わないでくれ」


「分かったザーク。 私が聞きたいのは、お前が、妙な組織と関わっていたという話だ。 全てを話してくれるのならば、食事だけじゃなく、この場所から逃がしてやっても良いぞ?」


「本当か! 本当に此処から出られるのか!」


「ああ、このぐらいの檻なら、出すのは容易い。 だがそれも、お前が話をしてくれるならだ。嘘を付かず、正直に話せよ?」


「話す、話す! 俺は・・・・・」


 ガッ、っと、ザークが話をしようとした時。 私達の居る遊具の壁に、見た事があるナイフが刺さった。 このナイフは、イクシアンが使っていたナイフだ。 あの女も警察だと言っていた、この場に来ても不思議ではない。


 私は辺りを警戒し、イクシアンが出て来るのを待った。 だが待つまでもなく、直ぐにその姿が現れた。 前に見たメイドの姿ではなく、ピシっとしたこの国の警官の服をしていた。


「イクシアン、私達に何の用だ。 私はもう、お前に用は無いぞ」


「ふん、貴女になくとも、私には、この場を見張る任務がある。 早々に、立ち去って貰いましょうか」 


「あのさあ、あんた達も敵の組織を潰したいんでしょ? だったら私達に協力しなさいよ」


「貴女の実力は、認めてあげても良いですが。 子供連れで倒せるほど、あの組織は甘くないですよ。 お引き取り願いましょうか」


「私は子供じゃない! いいわ、アンタに私の力を見せつけてやる!」


「ほう、やれるものならやってみなさい。 私は子供でも、手加減しませんから!]


 二人の戦闘が始まっている。 手持ちのナイフを投げるイクシアンだが、上空を飛び回るクスピエには、簡単には当たらない。 あの女がいくら強くとも、簡単にはクスピエに勝てないだろう。


 私も一緒に参戦すれば、楽に勝てるだろうが、たぶんクスピエは望まないだろう。 あの女と戦うのは、クスピエに任せ、私はザークから話を聞く事にした。


「さあザーク、お前の話を聞こう。 お前の仲間の話を聞かせろ」


「あ、ああ。 でも、あれを放っておいても良いのか? お前の仲間が大変そうだぞ」


「良いから話せ。 まずは、お前の仲間の事からだ」


「あ、ああ・・・・・」


 アルファ・トライアンス改め、ザークは、私に、知ってる限りの情報を話した。 私達の追っている組織のボスは、アングライシスという人物だったらしい。


 だがそれも、十九年も前の話で、今となっては、その人物がボスなのかも分からないと。 そして私達には、警察も知らない情報を教えてくれた。 


 一つは、組織に連絡を取る為の暗号だった。 帝国のある場所で、焚火をするという単純な物だが、それも昔の話だ。


 今それをしても、怪しまれるか、襲撃されるのかの何方かだろうが、それならそれで、話が早い。 また返り討ちにして、更に敵の懐へと入り込める。


 そしてもう一つ、警察の目を盗んで、連絡を取っていた男が居る事を教えてくれた。 この情報は、警察には言うなと念を押され、私はそれに頷いた。


 その男というのは、貧民街に居た、リギルの事だ。 あの男には、もう少し聞かないとならない事が増えた。 だが、金を得たあの親子が、今もあの場所に居るのかは分からない。 居なければ、もう一つの方法に掛けるしかないだろう。






 私はザークとの話を終え、戦っている二人の様子を窺うと、まだ激戦は続いているらしい。 今更邪魔するのも悪い。 私は二人の邪魔にならない様に、そっとこの場を後にした。



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