一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

19 女心に振り回されて。

 行方不明のノーツの居場所を探る為に、俺は聞き込みをする事にした。 一番重要な人物の、ダイヤという人物を当たってみようか。 確か、弟の話では、近くにある小物屋だと言っていたな。 俺はその場所へと向かって、ダイヤという人物を探した。


「そこのお兄さん、良い物有るよ、ちょっと寄ってかない? ほらぁ、このアクセサリー何てどうだい、たぶんに会うと思うよ?」


 そう声を掛けて来たのが、たぶん目的の人物、ダイヤだろうか? 他に若い娘は見当たらないから、そうだと思う。 予想とは違い、随分と活発そうな女性だ。 褐色の肌とグリーンの髪をしている。


「じゃあ、それを一つ貰いましょうか。 中々良いデザインですね、もしかして、全部貴女が作っているんですか?」


「全部じゃないよ。 私が作ってるのはアクセサリーだけだよ。 ヌイグルミは父さんが作ってるんだよ。 私はまだ上手く出来ないんだ。 あ、父さんの事は広めないでね、お父さんが作ってるって分かると、ヌイグルミが売れなくなっちゃうからさ。」


「はい、分かりました。 それでですね、実は私、帝国新聞で記者をやっておりまして、ノーツさんの事で、お聞きしたい事があるのですが。 お話を伺っても宜しいでしょうか?」


「ええ? 帝国新聞だって? あの何処かの猫が居なくなったとか、そんな事ばっかり書いてる新聞かい? まさかこの間の事を記事にするつもりなの? 別に良いけどさぁ、私の事変な風に書かないでよね。」


「いやぁ、ノーツさんが振られた事は書きますけど、実はそういう話じゃないんですよ。 そのですね、弟のアーツさんが、お兄さんが一ヶ月も行方不明になってるから、調べてくれと情報がありましてね。 ルーツさんの事を、少し教えてくれないでしょうか。」


「えええええ!! ノーツが行方不明なんですかッ!! 何で、私に振られたから?! ちょっと、どうなってるの!! 全部ちゃんと教えてよ!!」


 ダイヤが、俺の襟首を掴んで、服が首に食い込んでいる。 い、息が出来ない!!


「わ、分かりましたから、苦じいので、手を放してぇッ。」


「ご、ごめん。 でも私、ノーツの事が心配で・・・・・。」


「ゴホッ・・・・・ああ、大丈夫です、気にしなくても大丈夫です。 話を聞いていると、随分と仲が良さそうですが、あの二人の兄妹とは、元からお知り合いなのですか?」


「あの二人とは、小さい頃から友達なんで・・・・・。」


 いわゆる幼馴染と言うやつか。 恋愛においては、幼馴染という事は、必ずしもプラスにはならないって事だろうか。 まあ人の好みによるものだから、仕方がないだろう。  


「教えられる事と言われても、今言った事ぐらいしか知りませんよ。 ですので、ダイヤさんにはまずノーツさんの特徴を教えてください。 アーツさんにも聞いていますが、まあ確認の為に。」


「え、えっと!! ノーツは黒髪で、背がこれぐらいで、瞳は黒で、鼻はこれぐらいで・・・・・。」


 かなり詳しく聞く事が出来たが、アーツに聞いたものと、殆ど違わない。 アーツが嘘を言ってる訳ではなさそうだ。


「大体分かりました。 ではダイヤさん、ノーツさんを見たのは、告白された時から、今まで全く見ていないんですね?」


「あの日は確か・・・・・もう一度見てる!! 私が店の中から出て来る時に、後ろ姿だけだけど。」


「ほう、何方どちらへ向かって行きましたか?」


「あっちよ!!」


 あっちには確か・・・大きな教会がある方だ。 女に振られたから、モテさせてくださいとでも、神様に祈りに行った? まあ無くはないか? そういう人間も居ないわけでは無いし。


「分かりましたダイヤさん。 では私は、その方向へ向かってみますので、お仕事頑張ってください。」


「私も行く!! 父さん、聞こえてるでしょ!! 私出掛けて来るから、店をお願いね!! じゃあ行きましょう、カールソンさん!!」


「えッ、来るんですか? ま、まあ構いませんけど、その代わり、大人しくしていてくださいね。」


「勿論、大人しくしてるって!!」


 その言葉は、どうにも信用出来なかったが、人探し程度なら問題は無いだろう。 俺はダイヤを連れて、大きな教会へと向かった。


 その教会は、かなり昔、百年前には作られていたと言われている。 戦時中避難所になっていたり、大勢の人達に、無料で食料を配布したりしていて、かなり信者になった者も多いと聞く。 ま、この俺としては、そういう類の物は信じない様にしている。 幾ら祈った所で、宝くじが当たった試しがないし。


「カールソンさん、早く早く。 さあ、何処から聞き込むの?」


「慌てないでください。 こういうものは、焦って探しても良い結果は出ませんよ。 まずは落ち着いて考える事です。 焦って間違った情報を信じたら、もっと時間が掛かりますからね。 しかしダイヤさん。 貴女に彼氏がいると聞きましたが、他の男を心配してたら不味いんじゃありませんか? 誤解されても知りませんよ?」


「う・・・・・あ、あれは、嘘、だし。 だってあの二人、私の事でずっと喧嘩してるのよ? どっちか選んだら、絶対仲直りしないと思うし。 私が仲違いさせたように見えるじゃない。」


「なる程、それで本当の所はどっちが好きなんですか? こんなに必死になってる所を見ると、もしかしてノーツさんだったり?」


「いや、その・・・両方良いかな~って・・・・・。」


 このダイヤさんが、あの兄弟のどっちと付き合ったとしても、片方が今の状態になったかもしれない訳だ。 結局これは、なるべくして起こった事件か。 二人がこの女性に惚れた時点で、結果はこうなっている。


「私は、人の事はどうこう言いませんけど。 二股は止めといた方が良いですよ。 後で如何なっても知りませんからね。」


「分かってるって・・・・・。」




 俺達は、教会の階段を上がって、その中へと入って行った。



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