一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 朱殷(しゅあん)の髪と攫われた赤子 19

「も、もう許してれええええええ、頼むうううううううう、全部しゃべるから、全部喋るからあああああああああああ!」


「もう止めてください。 もう止めてください。 もう止めてください。 もうやめてください。 もう止めてください」


 ほんの少しの脅しと、少々の実力行使により、ブラッグとブランゼルドは、口を割る事になった。 たかだか小指をへし折った程度で、随分大袈裟な奴だ。


 私の家では、このぐらい日常なのだが。 私がおかしいのだろうか?


「だったら質問に答えろ。 お前達は、王国を潰そうとする組織を知っているのか? 知っているのなら全て話せ」


「そ、その、あの、でも・・・・・」


「折るよりも、斬り落とす方が良かったか? その指を、一本一本斬り落としてやろうか?」


「話します! 話させてください!」


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいい・・・・・」


 ただの脅しだというのに、二人は随分怯えている。 あまり迫力の無い私と違って、横に居る女の顔が怖いのだろうか。


 この二人から聞き出せた情報は、どうもこの国には、昔からそういう組織が存在していた様だ。 その組織は、かなり昔に首謀者が捕まり、壊滅に追い込んだと聞いた事があるが、実際には存続を続けていて、王国側には情報を隠していたと。


 帝国内で片付けようとしていたのだろうか? その所為で、王国側が後手に回ってしまった訳だ。


 重要な情報はそう多くなかったが、アルファ・トライアンスという人物が、その組織を作った主要人物で、五年ぐらい前に、恩赦を貰って出所した事を知った。


 この話を聞いても、イクシアンの顔色は変わってはいない。 元から知っていたのだろうか? この女が話してくれていれば、こんな面倒な事をしなくても済んだんだが。 この二人を捕まえる為に、私を利用していたのだろうか?


 もうこれ以上、この女に付き合う必要はないだろう。 私は透明化の魔法を使い、この屋敷を脱出した。


 私はカフェでボーっとしていたクスピエと合流すると、無駄に騒々しいだろう馬車へと戻った。 今は宿の横に駐車してあった。 宿に泊まっている訳ではないので、その内文句を言われるかもしれない。


 もう一台あるのは、ラフィールの馬車だろうか? 馬の代わりに、変な動物が馬車の前に繋げてあった。


「お帰りシャイン。 さあ、お父さんに、お帰りのハグを!」


「お帰りシャインちゃん。 さあ、お帰りのセッ、がはぁ・・・・・」


「五月蠅い!」


 無駄に寄って来る、馬鹿な親父達を殴り飛ばし、私はレティの顔を見に行った。 馬車の中で寝ているらしい。 この親父達に任せるのは少し不安が有ったが、どうやら大丈夫だった様だ。


 私はこれからの事を考える為に、親父達に止めを刺して、クスピエと話し合う事にした。


「ふ~ん、そんな組織があるのね。 話を聞くと、アルファ・トライアンスって人に会うしかないでしょ。 他に手掛かりが無いもの」


「一応、警察の監視下に置かれているとは聞いたが、その男の居場所が分からない。 居場所を探すのが先だな。 その男は名を変えて、何処かに隠れていると考えた方が良いだろうな」


「そのイクシアンだっけ? その人が知ってたんじゃないの? 教えてもらったら良かったじゃない」


「どうだろうな。 アイツを信用出来るのかどうかは、微妙な所だぞ。 隠している相手を、簡単に喋ったりしないだろう」


「じゃあ探すしかないわね。 馬車を出して、町を周ってみましょうか」


「そうだな。 おじさん、馬車を出してくれ」


「へ~い」


 何事も無かった様に起きる親父達、このタフさは案外侮れない。 母さんに鍛えられているという事だろうか。 今度からはもっと強めにやってみるとしよう。


 そういえばもう一人の姿が見当たらない、何処へ行ったのだろうか? 私は馬車の荷台を見ると、縛り上げられてるラフィールの姿を発見した。


 あの二人に何か酷い事でもされたのだろうか? 私はロープを解き、ラフィールを助け出した。


「おい、しっかりしろラフィール。 あんな二人に負けていたら、これからやって行けないぞ?」


「・・・・・ッめ、女神様! ありがとう女神様、俺ちょっと便所に行って来る!」


「女神って、何言ってるんだ? まあ、行きたいのなら行って来い」


 どうも混乱しているらしい。 よっぽど酷い目にでも遭ったのだろうか? ラフィールが馬車の荷台から飛び降り、泣きながら便所を探しに行ってしまった。


 もしかしたらもう戻って来ないかもしれないが、あの男の事は放っておいて、私は荷台から外を見回して行った。


 広い帝国の中を、ある程度周ってみたが、如何にもな場所は発見出来なかった。 隠されているのだから、簡単には見つけられない場所なのだろう。


 リギルなら知ってるだろうか? もう一度会いに行ってみるとするか。 私達はリギルに会いに、この馬車を走らせた。


 私とクスピエは、リギルの家にお邪魔すると、リギルは素手で戦闘体勢を取っている。 ヴィヴィアの姿は見えない。 何処かに出掛けているのだろう。


「おっじゃま~」


「なぁあ! お、お前達また来たのか。 今度は何の用だ! まさか口封じに来たんじゃないだろうな!」


「もう一度、話を聞きに来た。 お前は、アルファ・トライアンスという男を知らないか?」


「トライアンスだと? ・・・・・アイツの居場所を知りたいのか? い、幾ら払うんだ?」


「ほう? 前に渡した金で足りないというのか。 つまり、死にたいと?」


「悪人は成敗しちゃうわよ」


「違う違う違う違う! アイツの情報は本当に危ないんだ、あんなはした金じゃあ、割に合わないんだって! 分かってくれ、分かってくれって!」


 値段を吊り上げる、嘘ではないらしい。 女王から貰った金は十分にある、私それなりの金をリギルに渡し、その情報を聴く事にした。 


「こ、こんなに・・・・・良いのか?! 返せって言っても返さないからな!」


「その代わり、確実な情報を寄越せよ。 もし嘘などついたら、私の仲間が黙っていないぞ?」


「分かってるよ。 へへへ、分かってるって」






 金に目が眩んでいる様だが、リギルからアルファ・トライアンスの情報を聴く事が出来た。 だがあまり信用するのも不味そうだ、罠の可能性を考慮して、その場所へと向かった。



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