一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 第二の事件。

 あの日から二か月。 俺の周りでも、特に変わった所も無く、何時もと変わらず、新聞社で仕事をしていた。 あんな事を言われては、もう俺にはこれ以上踏み込む勇気は無かった。


 これ以上進むという事は、フェリス君だけではなく、親しい友人をもう一人無くす事になってしまう。 あの事件は、ただの新聞記者には大き過ぎた事件だった。  後の事は、この国の正義に来たいするしかないのだろう。


 そして今、そろそろフェリス君に、状況の報告でもしようかと思っていたのだが、俺は彼女に、どう連絡したものかと悩んでいた。


 君のお父さんは、犯罪者のボスとして君臨しました。 では、フェリス君にとって救いが無い。 真実を書き並べたとしても、自分の父親が、母親を殺す手引きをした。 とか思われても仕方がない。


 ただ生きている。 と、書くのも少々不味い。 何処に居るの。 とか、俺に連絡が来ても困てしまう。 死んだ。 と、書くのが良いのだろうが、これ以上の追い打ちをするのは、もの凄く可哀想だ。


「はぁ・・・・・やっぱり連絡するのは止めた方が良いでしょうか? どう思いますか先輩?」


「仕事しろ。 他はもう外回り行ってるんだから、アンタも早く行け!!」


「えええぇぇ・・・・・折角後輩に連絡しようかと思ってたのに、酷いですよ。」


「あ~、何かしてると思ってたら、フェリスに手紙書いてたのね。 まあ普通に書けばいいじゃないの。 当たり障りのない所で適当に。 あれから進展も無いしねぇ・・・・・。」


「じゃあ、調査は続いているって事で書いときますから、一応頭に入れておいてくださいよ。 もしかしたら、先輩の所に手紙が来るかもしれないし。」


「分かった分かった。 でもそういうのは自分の家でやりなさいよ、ここは仕事場なんだから。 仕事しないなら今日は休み扱いで良いのよね?」


「いや、それは困ります。 こんな安い給料減らされたら、普通に生活出来ませんから。 じゃあちょっとパイプでも吸ってから、頑張りましょうかね。」


「そんなの吸ってる暇があるなら、とっとっと行って来い!!」


「へ~い。」


 俺は先輩に追い出され、ネタを探しに外へと出て行った。 とはいえ、そう簡単に新聞のネタになる様な物は見つからず、俺は近くに有ったカフェに入って、一刻の休息を楽しんでいた。 勿論これはサボっている訳では無い。 酒場やカフェと言えば、情報が集まる場所だ。 俺はカウンターで、一杯のお茶を頼み、ゆっくりとパイプをふかした。


「ふいいいいいいいい。」


「お客さん、随分お疲れの様ですね。 何か大変な事でもあったんですか?」


「実はですね、私は新聞記者をやってましてね。 上司にネタを探して来いって言われてるんですが、サーッパリ何も見つからなくってですね、マスター、何か良い話を知りませんかね? 本当に何でも良いんですよ、小さな話でも構いません。 物凄く困ってるんです、何ッでも良いから教えてください!!」


「ネタですか? 無い事はないんですけど・・・・・。」


「ちなみに、安月給の私に何か要求されても無理です。」


「・・・・・。」


「もう一杯ぐらいなら頼みますから、お願いしますよぉ。 ネタが無いと帰れないんですよぉ、頼みますよマスター。 今度友達も連れて来ますから。」


 俺の約十分にも及ぶ必死の頼みで、カフェのマスターは情報を教えてくれた。 もしかしたら帰したかっただけかもしれないが、情報を貰えたので此方の勝ちだ。


 情報によると、近くに住む兄妹が喧嘩して、兄の方が帰って来ないらしい。 確かに小さい。 小さいが、我が新聞社としては、その程度でも十分使えるネタだ。 一度あたってみる事にした俺は、その兄弟の住む家へと向かってみる事にした。


 兄弟の居る家に到着した俺は、まずその家を観察した。 大体一般的な普通の家だ。 マスターの話では、その兄弟の両親は他界しており、たった二人で暮らしているらしい。 二人で住むには丁度良い大きさなのかもしれない。 


 その二人の兄弟の名前は、兄はノーツ、そして弟はアーツと言うらしい。 弟のアーツがこの時間に居るのか知らないが、とりあえず家の扉を叩いてみた。


「すみません、アーツさんはいらっしゃいませんか? 私、新聞記者のカールソンという者なんですが、お兄さんが居なくなったと聞いたのですが、少しお話を聞かせてもらえませんでしょうか。」


 中から慌てて出て来たのは、弟のアーツだろうか? 二十二か三か、そのぐらいだろうか。 身なりは綺麗にしていて、俺よりは落ちるが、まあまあ良い男なのだろう。


「記者だって?! 丁度良かった、頼む、記者なら兄の手掛かりを掴めるかもしれない。 何か情報があったら、俺に教えてくれないか!! もう一度会って謝りたいんだ!!」


「では何故出て行ったのか、状況を教えてもらえませんか? 喧嘩の原因はなんだったのですか?」


「あれはそう、一ヶ月前だ。 俺達は小物屋の、ダイヤちゃんの事でもめていたんだ。」


「ダイヤちゃん?」


「ダイヤちゃんは、小物屋の看板娘だ。 何方の方がダイヤちゃんに相応しいのかと、俺達は口論になり、俺に言い負かされた兄は、ダイヤちゃんに告白しに行ったんだ。 だが兄は失敗した。 ダイヤちゃんには、俺達よりも好きな男が居たんだ。 失敗した兄は家を飛び出し、それっきり戻って来なかった。」  


「へ~。」


 要するに、好きな女に告白したら振られて、恥ずかしくなって逃げたと。 まあそれで一ヶ月も行方不明になるとは、根性があるのか無いのか分からない。 弟のアーツに取ったら、唯一の肉親である兄が居なくなったんだ、それがどんな理由だとしても、身が心配なのだろう。


「分かりました、記者として、その事件の真相を調査してみようと思います。 ただし、私も新聞記者なので、それを記事にする事になりますが、宜しいですよね?」


「勿論だ、兄の行方が分かるのなら、記事にでも何でもしてくれ。 本当に頼んだぞ!!」






 俺が調査する事になったこの事件が、何故かあの事件と繋がる事になるとは、今は知る由もなかった。



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