一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

14 朱殷(しゅあん)の髪と攫われた赤子 18

 私は子供達の説得を続けたが、私の言う事を聞いてくれる子は少なかった。 私は魔法の効果が切れるのを待ち、もう一度説得してみたが、姿が見えないからという理由ではないらしい。


「何故逃げようとしない、この場所から逃げられるんだぞ?」


「だって、此処から出ても帰れないもん。 お母さんは僕を捨てたんだ」


「帰ったらまた殴られる。 痛いのは嫌、嫌なの」


「此処に居れば美味しい物を食べさせてくれるもん。 お腹いっぱいたべれるもん」


「外は怖いの・・・・・」


 この場所より酷い所に居たのだろう。 今の状態が一番良いと思い込んでる様だ。 この場所から出ても必ず良くなるかと言われても、私には答えようがないが、どの道私には選択肢は無い。 例えブラッグが本命ではなくとも、裏の事情を知ってるのならば、多少でも情報を得られるかもしれない。 私は子供達に向けて最後の警告を与えた。


「十秒待つ、それで残りたい者は残れば良い。 良いか? 十秒だけだ、それで動かなければ置いて行くぞ」


 私が数を数え終わるが、心変わりしたのはたった一人だった。 私一人がどう頑張っても、この人数を連れて行く事は出来ない。 私と行く事を決意した八人を連れて、私は来た道を戻って行った。 しかし、どの道ブラッグが捕まれば、此処に居る子供達は解放されるだろう。


 この蓋の上には、まだメイド達が掃除を続けているのだろう。 丁度良いからこのまま外に出て、全員証人になってもらおう。 私は思いっきり蓋を跳ね上げ、穴の中から跳び出した。


 蓋が開いた音に、周りのメイド達の視線が集まる。 子供達が一人二人と穴から上がって来ると、状況を理解したメイドの一人が指示を出した。


「何をしているんですか、早く捕まえろ! 一人も逃がすんじゃない!」


 一番年上だと思う、その女の命令に従う様に、全員が動き出した。 殆どは事情を知らないのだろう。 躊躇いながら子供を追い掛けている。 私は先ほど叫んだメイドの女に、侵入していたイクシアンを差し向けた。


「イクシアン、そいつも首謀者だ、捕まえろ!」


「命令しないでくださいまし。 しかしお手柄ですわよ、目的とは少々違いましたが、これも重大な罪です。 徹底的につぶしてやりましょう」


「ひいいいいいいいいいいいい、まさか貴女が敵側だったなんて、 そんな事ある訳がないわ、あんな凶暴な女が、正義の味方なはずがないわああああああああああ!」


 イクシアンと何かあったのだろうか? まあ分からない訳でもないが。 私もあれが警察だとは思いたいくない。 イクシアンが、恐怖するような笑みを浮かべて、ナイフを口に咥えている。 そしてメイドの女に突っ込んで行った。


 その女にイクシアンを止める技術は無い。 抵抗したが軽く捻られ、地面に叩きつけられた。 それを見た他のメイドも手を止めて、自分がターゲットにならない様にしている。


 その光景を見たメイドの全員が、大人しく縛られて無力化されていく。 残りはブラッグと、もう一人の男ブランゼルドだ。 ブランゼルドの方は良く分からないが、まあ捕まえておけば、問題無いだろう。 そしてこの騒ぎを聞きつけたその二人がやって来た。


「何だこの騒ぎは! なっ、ガキ共が逃げ出しているぜブラッグ!」


「一体何が?! イクシアン、またお前の仕業か! 全く何度注意すれば直るんだよ、首にするぞテメェ!」


「ふふふ・・・・・ブラッグさん、この私がこの時の為にどれだけ我慢していたのか・・・・・さあ、悪人は処刑してあげますわ!」


「お前が我慢なんてした事ないだろうがああああああああああ! 何度も何度も暴走しやがって! テメェの所為で、家の物がどんだけ壊れたと思ってんだ。 また何暴走してるのか知らんが、ちょっと落ち着けコラァ!」


 また何か勘違いしてるのだろうか? 私には良く分からないが、よくこんな女を雇ったものだと思う。 兎に角今の内だ、二人の注意がイクシアンに向いている内に、ブランゼルドの後から制圧してしまおう。


「クリスタル・クリア!」


 透明化の魔法は私の姿と気配を殺し、私はブランゼルドの後ろから襲い掛かった。 相手は抵抗する間もなく、私に制圧された。


「な、何が! 何が起こった、よく分からんが重いぞ」


 私は、何か戯言をのたまわってるこの男へと、怒りの鉄拳をくらわせた。 ブランゼルドは制圧したが、イクシアンはまだ怒りが収まってないのか、笑いながらブラッグの顔面を殴り続けている。 私もあれが警官だとは思いたくない。


 全員の捕縛が完了すると、大量の警官が雪崩れ込んで来た。 イクシアンが何か連絡をしていたのかもしれないな。 しかし、このまま警察に連れて行かれるのは少し不味い。 私はブランゼルドを縛り上げ、ブラッグの元へ向かった。


「イクシアン、私にも少し聞きたい事がある。 お前達が連れて行く前に、私に話をさせてもらおうか。 強力したんだ、まさか断らないよな?」


「・・・・・まあ良いでしょう。 その代わり、私もご一緒させてもらいますよ。 構いませんわね?」


 ここで無理に断って、この国の警官と争う必要はないな。


「ああ、構わんぞ」


 私とイクシアンは、縛り上げた二人を連れて、この屋敷にある部屋の一つへと連れて行った。


「ブラッグ、それとブランゼルド。 今から質問する事に答えろ。 まずこの私の顔を知っているか知らないのか答えろ」


「し、知るか! お、お前の顔なんて知る訳がないだろう! 俺は何も知らねぇ、あの子供の事も全く知らねぇんだ!」


「俺もだ、俺も知らねぇよ、だから助けてくれよ、俺は何も関係ねぇだろ!」


「イクシアン、どうもこの男達は私達の事を舐めてるようだぞ? 喋りたくなるように拷問dでもしてみるか?」


「それは良い考えですね。 ふふふ、拷問、素晴らしい響きですわね。 やはりここは生皮でも剥がせば喋ってくれるのでしょうか」


「「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい・・・・・」」






 私が言うのも何だが、本当に何でこんなのが警官なんてしてるのだろうか。 少しこの国の未来が心配だな。 まあ、王国の人間である私には関係ないがな。



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