一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

11 情報の交換と共有。

「はぁ? 警察の知り合いが居ないかだって? そんな知り合いが居る訳が無いだろう。 そんな伝手が有ったら、もっとましなネタ持っとるわ。」


 少しこの二人の事を紹介しよう。 まずはドラファルト。 この男は細身で引き締まった体をしている。 戦争前には、軍隊に入れられそうになっていたが、逃げ隠れてそれを回避した為に、戦争で死ななかった男だ。


「僕もそんな知り合いは居ないなぁ。 う~ん、でも何かあった気がするけど、なんだったっけ?」


 そして二人目がトロン。 この男は俺よりも重そうな体をして、随分とかっぷくの良い男だ。 赤色のハンチング帽がお気に入りだと言って、毎日頭に被っている。 少しのんびりした所があるが、心の内では熱い情熱をもっている男だ。


 貴族の三男に生まれ、権力闘争とは無縁に育った。 だからこそ争いは好まないし、まして殺人など出来る男ではない。


 まあ二人共貴族と言っても、ほんの端っこの、ギリギリ貴族というレベルなので、ほとんど庶民の生活と変わらない生活を送っている。 多少は不便があるだろうが、元の生活に戻りたいとは思っていないと思う。


「トロンさん、誰か伝手を知ってるんですか? 思い出してください、フェリス君の為にあの屋敷を調べたいんです!!」


「ああ、そうか、フェリスの事だもんな。 俺達もアイツの事は残念に思っているさ。 まさか事件に巻き込まれるとはな。 実は俺達もあの事件を調べていたんだぜ。 まっ進展はしてないけどな。 おいトロン、頑張って思い出してやれよ、これも死んだフェリスの為なんだぞ。」


 あ・・・・・そういえば、フェリス君の事は知らせていないんだった。 二人が協力してくれるというなら、やはり状況は知らせるべきだろうか?


「分かってるよぉ。 う~ん、そうだなぁ・・・・・警察の知り合いは居なかったけど、警察の知り合いの知り合いなら知ってるかなぁ。 そいつも記者だから、俺は頼った事はないけどなぁ。」


「本当ですか?! では是非紹介してください!! それであの屋敷を調べられるかもしれません!!」


「彼女も此処の常連だから、待ってればその内来るんじゃないかなぁ。 たまにこの場所で情報交換とかしていたんだ。」


「なる程、それは都合が良いですね。 フラウ先輩は怒るかもしれませんが、フェリス君の為にもこの場で待つしかないですね。 ・・・・・あ、マスター、お替りをお願いします!!」


「確かにそうだ、フェリスの為にも、今はこの事件を調べないとな。 俺もお替りを頼む!!」


「ああ、僕はフルーツをお願いします。」


 俺達は適当に腹を満たし、この二人と意見を交換してみる事にした。 と言っても、殆どの事は知っているんだが、まあ念の為って奴だ。


「それで、皆さんは何か情報はあるんですか? 私はまだ何の情報も無いんですけど。」


「ふふふ、俺は一つ情報があるぞ。 実はな、フェリスの母親が死んで、フェリスが縛られている時にな、どうやら誰かが侵入していた様なんだ。 キッチンを使って、料理をしていたらしいぞ。 俺の推理によるとな、たぶん犯人は父親なんじゃないかと思っているのよ。 たぶん痴情のもつれってやつなんだろうな。 だから邪魔になった母親とフェリスまでを殺そうとしていたと思うのよ。 魔物が屋敷に来た時は焦ったと思うぜ、たぶんゴミを片付ける間もなく逃げたんだろうぜ。」


「キッチンの事は、今日の帝都新聞に載ってましたよ。 後たぶん、その推理間違ってます。 たぶんですが、私が思うに、フェリス君の父親は、悪の組織に攫われたんだと思いますよ。 昔から居るでしょう、ギャングとかそんな感じの人達が。」


「それは無いよ。 僕が聞いた話だと、お金には困ってた様だけど、借金まではしてないって話だから。 借金を返せなかったから襲われたとかは無さそうだよぉ。 まさかとは思うけど、フェリスさんが母親を殺したから、父親に縛られたって事はないよねぇ? 仲間は信じたいけど、何の情報も無いからねぇ。」 


 これは駄目だろうか。 やっぱりある程度の情報を知らせないと、情報を集める事も難しそうだ。 この二人は信用出来る。 口も堅いから言っても大丈夫だと思う。


「少し話があります、少し便所で話しませんか? 少しなら人も来ないでしょう。」


「ほう。 実は何か掴んでいたのか? じゃあ聞かせてもらおうじゃないの。 行くぞトロン、それは後で食えよ。」


「後一口だけ!!」


「じゃあ先に行ってますからね。 早く来てくださいよ。」


 便所に誰も居ないのを確認すると、トロンが来るのを待って、俺は誰も来ない様に、扉に背を当てて立った。


「カールソン、どんな話を聞かせてくれるんだい? まさか自分がやったなんて言わないよね?」


「私がそんな人間に見えますか? まあ一部関わっているのは確かですが、私は犯人側の人間じゃありませんよ。 兎に角落ち着いて聞いてください。 絶対大きな声を出さないでくださいよ、もし誰かに聞かれたら、ちょっと不味い事になるかもしれませんから。」


「オフレコの話って訳だな。 で、何だ? まさかフェリスの死体が見つかったのか?」


「もっと驚く話です、実はですね、さっき言ってたフェリス君の屋敷でキッチンを使った人物なんですが、この私が作なんですよ。」


「・・・・・はぁ? お前は犯人じゃないんだろ? 何でそんな事やってんだよ。 お前まさか、泥棒でもしてたんじゃないだろうな?」


「カールソン、自首した方が良いと思うよ。 流石に泥棒は庇えないよ。」


「勘違いしないでください、良いですか最初から話しますよ・・・・・。」


 俺は二人に、フェリス君が生きている事を話した。 それとフラウ先輩が関わっている事も。 二人は驚き声を上げようとしたが、グッと我慢して聞いていた。


「・・・・・って事なんですが。」


「え~っと・・・・・。 つまり、何だ、フェリスは死んで無いって事で良いんだよな? 元気で生きてるって事で良いんだよな?」


「凄い驚いたけど、無事ならまあ。 じゃあ捜査は打ち切りで良いんだね?」


「いや、何言ってるんですか。 黒幕を見つけ出して、何かしらしない事には、また戦争が起こるかもしれないんですよ? そうなったらどうなると思ってるんですか。 今度こそ帝国が無くなってしまうかもしれませんよ?」


「仕方ないなぁ、あんまりやる気出ないけど。 う~ん、ごはん奢ってね?」


「そうだな、仲間を騙すのは良くないよな。 此処の飯代はお前持ちだ。 それで納得してやろう。」


「うう、わかりましたよ、奢れば良いんでしょう、その代わりちゃんと手伝ってくださいね。 この話も内緒ですからね。」


「任せろ、腹いっぱい食ってやる。」


「まず全メニュー制覇だよねぇ。」


「で、出来ればお手柔らかに・・・・・。」






 二人に食事を奢り、かなりの金額が飛んで行ってしまった。 食事を食べ終えた頃になると、トロワの知り合いの記者の女がやって来た。



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