一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

30 類は友を呼ばないでほしい。

「グガアアアアアアアアアアアアア・・・・・」


 西館。 予想通りにエト先生は酒を飲んで眠りこけている。 何故こんなのが首にならないのか不思議だけど、この女もやっぱりそれなりの地位があるのだろうか? 私はこの女を起こす為に、思いっきり頭にチョップした。


「起きなさあああああああああああああい!!」


「あいッたああああああああああああああああ・・・・・ッたいなあもう、いきなり何するのよ!!」


「起きたわね。 あんた昨日クロウ君とピース君の事見て無いわよね? もしかしたら二人の命が危ないかもしれないの、ちゃっちゃと答えなさい、ちゃっちゃと!!」


「ぬあんですってええええええええええええええええ!! クロウ君が居なくなったら私の生活はどうなるっていうのよ!! クロウ君が一体どうしたのよ、早く私に教えなさいよ!!」


 ガクガクと揺らされる私。 でも私よりも、そんな酔っ払い状態で激しく動くエト先生はきっと・・・・・


「わ、分かったから、説明するから手を放してよ!!」


「そんな事は如何でも・・・・・ヴゥ!!」


「此処で私に掛けないでよ。 吐くならトイレに行って来なさい!!」


 口を押えて走り去るエト先生。 この場所で戻って来るのを待つ時間も惜しいわ。 エト先生を追って、私も付いて行こう。


「ヴォエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


 トイレでは、エト先生が激しく嘔吐している。 本当はこんな事をしている暇は無いんだけど、この先生を待ってないと、二人の家が分からないのが悩ましい所だ。


「あー、スッキリしたー・・・・・。」


 まるでスッキリした様には見えないけど、今はこんな女の体調なんて如何でも良い。 二人の住所を聞かないと。


「あんたクロウ君とピース君達を見て無いのよね? だったら二人の家を教えなさい、昨日帰って来たのか確かめるから。」


「婚約者のピンチとあっては、私が行かない訳にはいかないわね。 良いわ、付いてきてください。 クロウ君の家に連れて行ってあげます!!」


 大分酔いが醒めたエト先生に案内されて、私はクロウ君の家に案内された。 エト先生の話では、ピース君もこの家に住んでると聞かされた。 実は兄弟や友達ではなく従者なのだが、クロウ君自体は普通に友達だと思ってる様だ。 という事は、この酒飲みと結婚した後でも、ピース君はその世話をしなくちゃいけないのよね? クロウ君の従者も苦労しそうだわ。


 クロウ君の屋敷の前。 相乗以上に大きなお屋敷に案内された私は、ちょっとばかり緊張していた。 もしかしたら学校よりも大きいかもしれない。 今は緊急事態なんだけど、二人の両親に会うのはちょっと怖い。 昨日の事を私の所為にされたら如何しようと考えていた。 


「おじ様に会うのも久しぶりだわ。 聖華先生、私について来てください。」


「え、ええ分かったわ。」


 お城の門と見紛う程の門を抜け、玄関までの長い道を通り、エト先生が正面の扉を叩いた。 エト先生の顔は、酒が抜けて美人状態になってるわ。 まあ酒臭いのは相変わらずだけど。


「こんにちはー、おじ様、おば様、誰か居ませんか~!! 私が来ましたよ~!! ・・・・・あれ? 誰も居ないのかしら?」


 暫く待っていたけど、誰も出て来ない。 夜に帰って来ない子供を探しに行ったのか、それとも他に何か?


「エト先生、私は北門に行ってみるわ。 二人が昨日の騒ぎで、門の外に出たのかもしれないし。」


「え? 昨日の騒ぎって、何です? 私寝てたから知らないんですけど。」


「あんたねぇ、あれだけの事を知らないなんて、もうちょっと世の中の事を知った方が良いわよ。 北の門から魔物が入って来そうだったんだから。 百人以上の兵士さん達が、蛇の魔物と戦ってたのよ。」


「え? そうなんですか。 へ~知らなかったです。 私ちょっとお酒飲むのに忙しくって。 ほら、息抜きは大事ですし。 お酒美味しいですし。」


「あんた何時も息抜きしてるでしょうが!! 酒ばっかり飲んでると、その内中毒になるわよ。 いやアンタの体の事なんて如何でも良いのよ。 二人の事が心配だから、早く北門に行くわよ。」


「あ、待ってください聖華先生。 人探しなら私の飲み友達を呼んで見ましょうか。 きっと役に立つと思いますよ。」


「本当に役に立つんでしょうね? 物ッ凄く心配なんだけど。」


「大丈夫ですよ、彼女すっごい優秀なんですから!!」


「そんなに言うんなら連れて行きましょうか? 人が多い方が探しやすいと思うし。」


「はい、こっちです聖華さん。 今日は休みだと聞いていますし、きっと今日もあの場所にいるはずですから。」


 私達は北門に行く前に、その人物に会う事にした。 どうやらこの近くの公園で遊んでいるらしいわ。 エト先生の案内で、その公園に到着した私は、その公園に来た事を後悔する事になった。


「ウッヒャヒャヒャヒャ、もっと酒を寄越せええええええええ!! 誰か酒持って来ぉい!!」


 その公園の中には、今はたった一人しか居ない。 奇声を放つその人物は、両手で公園の花を握り、変な踊りを踊っていた。 私はこの人物が目的の人物じゃない事だけを願い、エト先生を見た。


「聖華先生、ほらあの人ですよ。 彼女ああ見えて物凄く強いんですよ。 彼女が王国で最強クラスの戦士、サミーナさんです。」


 しまった、飲み友達と言った時点で気付くべきだったわ。 やっぱりあれなのね、あんなのを連れて行って、私に何をしろというんだろうか。 二人を探す邪魔でもしたいんだろうか。


「私先に北門に行っとくから、あんた達は此処で飲んでなさい。 大丈夫、二人の事は必ず私が探し出すから。 きっと無事に帰って来るから!!」


 私はエト先生を置き去り、北門へと歩き出した。


「待ってください聖華先生、本当に役に立ちますから!! 絶対役に立ちますから!! ほらサミーナさん、お酒がありますよ、欲しかったらついて来てください!!」


「ざけえええええええええええええ!!」


 あんなに酔っぱらっているのに、物凄い速さで私達について来るサミーナさん。 もしかしたら本当に強いのかもしれないけど、今はただの酔っぱらいにしか見えないわね。






 北門へ向かう私に、酒が切れて素面になったエト先生と、完全に酔っぱらった戦士サミーナが仲間になった。 ・・・・・なんだろう、上手く行く気が全くしない。



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