一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

23 クロウ君、クロウする。

 私達はエト先生を連れ、魔法学校の練習場に来ていた。 此処は前に私が来た事が有る場所だわ。 十分な広さもあるし、此処でなら大きな魔法も使う事が出来る。


「さてクロウ君、君は何か魔法を使えるのかな? もし使えるのなら、使える魔法を教えて欲しいんだけど。」


「おばさん、俺は炎の魔法が使えるぞ、どうだ、凄いだろ!!」


「はいはいシャーイーン君、あんたには聞いてないのよ。 私は今クロウ君に話を聞いてるの。 あんたはちょっと黙っててね。」


「こらおばさん贔屓するな、俺だって生徒だぞ!!」


「これ時間外だし、私は今先生じゃないのよ。 じゃあクロウ君、何が使えるのかな?」


 騒ぐシャーイーンを適当にあしらい、私はクロウ君に話を聞いた。


「俺はまだ何も教えてもらってないんだぜ。 家のおとうがまだ駄目だって言うんだ、学校で先生に教えてもらえってさ。」


「あらそうなの? だったらまず弱い魔法で試してみましょうか、いきなり無駄に強い魔法を覚えても使いずらいでしょ。」


「う~ん、俺としては強い魔法が良いんだけど、いきなり強いの使えるのってカッコいいじゃん。」


「まずは属性を知るだけだから、それを知ってからもうちょっと強い魔法を教えてあげるわ。 それで良いでしょ?」


「う~ん分かった、聖華先生に任せる。 その代わり後で良い魔法教えてくれよな!!」


「私に任せときなさい。 それじゃあ発動キーワードは適当に付けるわよ、これメインじゃないし。」


「うん。 任せる。」


 私はクロウ君の額に手を置いて、簡単な設定の魔法を伝授して行く。 六つの属性を全て教えたが、クロウ君が使えたのは、土の魔法と、物凄く弱体化された水の魔法だった。


 土の魔法は、指を二本握ったぐらいの小石が出現し、水の魔法は水滴が少々出ただけだった。 此方の第二魔法は、何度使った所でレベルアップする事がない。 つまりクロウ君は、これからも水の攻撃は使えないわけね。


「おお、俺って土の魔法が使えるのか。 でもこれじゃあ普通に石を投げてるのと同じだよな、先生もうちょっと強い魔法を教えてくれよ。」


 う~ん、土の魔法かぁ。 教えるのは構わないんだけど、私の様に道を塞ぐ様な岩を出すのは、クロウ君が求める強さじゃない気がするわね。 とはいえ、土を投げたり砂を投げたりしても、相当大量に投げない限りはダメージにはならないわ。 精々嫌がらせぐらいにしか使えない、さあ如何しようかしら? 参考にする為に、私は酒臭いエト先生に意見を求めた。


「ねえちょっとエト先生、折角来たんだからアイデアを出してよ。 あんたクロウ君の事を気に入ってるんでしょ。」


「気に入ってるっていうか、クロウ君は私の婚約者なのよね。 可哀想よね、私の様な女と結婚しなきゃならないなんて。」


「はぁ?! あんたこんな小さい子に・・・・・」


 いや、日本の常識で考えたら駄目よね。 貴族が小さい時から婚約者が居るなんて事は良く聞く話だし。 まあ彼女も二十歳ぐらいだし、歳が経てば良い感じになるのかもしれないわね。


「俺は先生の事別に嫌いじゃないし、気にしてないぜ。 何にも知らない人と結婚させられるよりは良いと思うし。」


 小学生ぐらいなのに、なんて良い子なのかしら、飲んだくれのこの教師には勿体ないわね。 隣のクソガキに、爪の垢でも飲ませてやりたいわ。


「ああクロウ君、私には貴方だけよ。 貴方の財産が無くなるまで、私を死ぬまで養ってね。」


「おう、先生の事は俺が護るんだぜ。 任せとけ!!」


 エト先生に抱きしめられ、クロウ君がちょっと照れている。 本当に分かってるのかしら、完全に金づる扱いされてるじゃないの。 たぶん婚約を解消なんて出来なさそうだし、これからもクロウ君は苦労をして行くんだろう。 ・・・・・クロウだけに。


「で、魔法の事は如何するの? アイデアが無いなら巨大な石でも出してみる? でも出せたとしても動かせもしないし、壁ぐらいにしか役に立たないわよ?」


「あ~そうねぇ、土と水の魔法が使えるのなら、武器や防具でも作ってみたら?鉄や金銀も土の属性だし、頑張れば良い武器も作れるんじゃないの?」


 へ~、そんな事も出来るのね。 土と水で作るって、陶器みたいな物かしら。 でもそれだけだと強度が弱いから、石や鉄でコーティングしないとね。 教えるべき魔法の構成は分かったわ。 じゃあチャッチャと済ませちゃいましょうか。


「じゃあクロウ君もそれで良いわね? 嫌だったらもう少し考えても良いのよ?」


「俺もそれで良いぜ。 自分で思った武器が出来るなんてカッコいいじゃんか。」


「じゃあそれでやって行くわね。 クロウ君、それじゃあ目を閉じて。」


「おう、分かったぜ!! キーワードはアースクリエイターで宜しく。」


 私はクロウ君の額に手を置く。 今から彼に私のイメージした魔法を伝えていく。 まずはべースとなる土、それに水の魔法を合わせて、形を変える。 その形に硬い鉄をコーティングして出来上がり。


「はい終わり、これで自由に形を変えられる魔法が使えるはずよ。 ちょっとやって見せて。」


「おう先生、やってみるぜ!! 極め、精製、アースクリエイター!!」


 クロウ君の手の上に、うねった土の塊が現れる。 その土が捏ねられる様に形が変わり、剣の姿に変わり始める。 そしてその剣が完全な銀色に変わると、小学一年生が持てないぐらいの巨大な剣が作られた。 ・・・・・って駄目だわ、あんな物持てそうも無いし、バランスを崩して倒れたら大怪我してしまう。


「危なあああああああああああい!!」


 私はクロウ君を後に引っ張ると、作られた剣が地面に落ちた。 あ、危なかったわ、この子は物の重さを把握していないのね。 まだこの子にはちょっと早すぎたかしら・・・・・


 私は地面の剣に手を伸ばしてみた。 持ち上げようと頑張てみたけど、これは駄目だ、重すぎて持ち上げられない。 たぶん20キロ以上はありそうだわ。 小学一年生がだいたい20キロ位って聞くから、自分の重さと同じ物を持てるはずないわよね。


「クロウ君、ちょっとこれ持ってみて。 絶対持てないから。」


「う、持てない・・・・・」


 他の子達も、その剣を持とうとして挫折して行く。 小学1年生の君達にはまだ早い。


「まず自分の使える位の物から作って行こうね。 重い物を作ったら、自分まで潰れちゃうから注意しましょうね。」






 魔法を試すクロウ君。 十回目の魔法を使うと、限界が来た様に倒れてしまった。 一つ分かった事がある、これは一人ずつやって行かないと、絶対危ない事になる。 私はほんの少し教師として成長した。



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