一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

22 駄目な先生っているものよね。

 クロウと言ったこの子、さっきの自己紹介で最強に成りたいとか言っていたわね。 この年齢の子に魔法という武器を与えても良いのかしら。 日本でならそんな物を持たせるなと言われるんだろうけど、何時何が襲って来るのか分からないこの世界だと、やっぱり持っていた方が良いのかしら?


 私はクロウとピースを待たせ、先生方に相談をしに行った。 職員室を探したけどエト先生は見つからなかったので、アルタイル先生に相談をしてみたのだけど。


「貴女はその子供に魔法を教えたいと? 構いませんよ、教えるタイミングは貴女にお任せ致します。」


「え? 良いんですか?」


「はい勿論です、魔法を扱えるか如何かも含めて貴女にお任せしているのです。 もし怪我をする事になっても、それを含めて教育というものでしょう。 一応覚えた魔法は親に伝えますので、私にも教えてくださいね。 ただ、擦り傷切り傷ぐらいなら特に私は何も言いませんが、命に係わる様な事もあるので、回復魔法を使える人を連れて行きなさい。 そうだわ、エト先生を連れて行きなさい。 彼女ならそれが使えますから。」


 エト先生が居れば怪我もへっちゃらなのね、即死じゃなければ治す事が出来るんだから、滅多な事は起きないわね。


「エト先生を探してみたんですけど、中々見つからなくって、アルタイル先生は何処に居るのかご存知ないでしょうか?」


「はぁ・・・・・きっと西館の休憩室に居るんでしょう。 そこでサボっているんだと思いますよ。 入って来た当初は良い先生だと思ったのに、何故あんな風になってしまったのか・・・・・この間もエト先生は自分だけ・・・・・」


 これは、アルタイル先生の愚痴スイッチが入ってしまった? このまま聞いていたら長くなりそうだわね。 子供達も待たせているし、時間を潰している暇はないわね。


「エト先生は西館ですね。 私直ぐに見て来ますので、失礼しま~す。」


「あ、まだ話は終わっていませんよ、もう少し私の愚痴にも付き合ってくれても良いではありませんか!! 私だって苦労してるんですよ・・・・・」


 私はアルタイル先生の話から逃げ出した。 愚痴なんて聞かされたくないし。 このままエト先生を探しに行く前に、まず待たせている二人と合流してから行く事にしましょう。


 私は自分の受け持つ教室に戻って、その中に入った。 教室の中には、半分の生徒が帰り、今残っているのは男の子達だけだわ。 四人が楽しそうに話をしていて、べノムさんがそれを見守っている。 シャーイーンも友達が出来て嬉しそうだわ。


「クロウ君、ピース君、アルタイル先生から許可を貰ったけど、西館に案内してくれないかしら。 エト先生も一緒に連れて行かなきゃいけないの。」


「良いぜ、行こうぜ皆。 何時も通りエト先生を起こしに行くぞ!!」


「「「おおおおおおお!!」」」


 何時も通りって、何時もサボってるんだろうかあの先生は。 しっかりしてそうだと思ったんだけど、私の気のせいだったようね。 いやそれより、何で人数が増えてるんだろう? シャーイーン達はいかなくて良いのに。


「いや、あんた達は来なくていいんだけど。 人数が増えると面倒だし。 ほら、家の人も心配するでしょ? 帰った方が良いんじゃない?」


「いいじゃんかおばさん 俺達折角友達になったんだぞ、一緒に遊ばないともっと仲良くなれないだろ。 なパーズ。」


「ええぇ、僕はどっちでも・・・・・」


「ほら、パーズだって行きたいって言ってるじゃん、一緒に連れてけよ!!」


 パーズ君はそんな事一切言って無かったんだけど、シャーイーンには幻聴でも聞こえたのかしら。 まっいっか、べノムさんが居てくれてるし。 何かあったら彼に任せればいいわよね。


「分かったわよ、その代わり大人しくしてるのよ? 絶対変な事しないでね。」


「おう、俺は変な事なんてしないぜ。 良し行くぜ皆、俺に付いて来い!!」


「いや、あんたも学校なんて始めてなんだし、エト先生が居る場所なんて知らないでしょ。 クロウ君、案内お願いね。」 


「任せろ聖華先生!!」


 クロウ君の案内に任せ、私達は西館へと入って行った。 その私達に無言でついて来るべノムさん。 こう見ると本当に子供にしか見えない。 試しに頭を触ってみようとしたが、なんだかモニュっていう感覚に阻まれた。


「モニュ?」


「おおおおおお前、何しやがんだコラァ!! 変な所触んじゃねぇよ!! 俺にはロッテっていう大事な・・・・・いやいや、気にせず行け。」


 子供達の視線に気づき、べノムさんは冷静さを取り戻す。 しかしあの感覚何だったのかしら?


(あのなぁ、見えてる姿は子供でも、実際は普通の大きさなんだよ!! 分かったか、分かったら二度とするなよ。)


 子供の頭のある位置にあるフカフカした物って。 ・・・・・私は無言で頷いた。


 西館に到着した私達は、休憩室を探し出した。 そこには無駄に大きないびきで、眠り続けるエト先生が居る。 テーブルには酒の瓶が置いてあり、先生の口にはよだれが垂れ、だらしない表情だわ。 顔も赤いし絶対飲んでるでしょこの人。 そのエト先生を、慣れた手つきでクロウ君が起こしている。


「先生、授業終わったよ、起きてくれよ先生。 ・・・・・おい、起きろよ馬鹿教師!!」


「ほぁ!!」


 耳元で騒がれて、変な事を上げているエト先生。 こんな小さな子供に、何時もこんな事をさせてるんだろうか。 これは中々残念な人ね。


「んんんんんんんん!! はぁ、お早うクロウ君。 何時もありがとうね。 ん、あら? こんな所まで皆さんどうされました?」


「アルタイル先生から許可も貰いましたので、一緒に来てもらいますよ。」


「えぇ? 私残業しない主義なんですよ、だからちょっと今回はパスで。」


 この給料泥棒め。 私が働いてる時に寝てるなんて許せないわ!! 例えこの女が教師の先輩だとしても、これに敬語を使う事もしたくないわ。 私はこの駄目女の手を引っ張て無理やり引きずり出した。 


「あんた本当に働いてたんでしょうね? ただ飲んで寝てただけじゃないわよね? 一応これもあんたのお気に入りのクロウ君の為なんだからね。 さあ来なさい、どうせまた飲んで寝るだけなんでしょ。」


「うぅ、行けばいいんでしょ、行けば。 もうそんなに引っ張らないでよ、自分で歩くからあああああ。」






 私達はエト先生を引き連れて、魔法の練習場に向かった。



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